3月 062011
 

「人を動かす人」になれ!―すぐやる、必ずやる、出来るまでやる
永守重信,三笠書房,1998

著者は,超精密モーターで圧倒的な世界シェアを誇る日本電産株式会社を創業した社長.その人材育成にかける情熱は凄まじく,鬼気迫るものすら感じられる.日本電産が驚くべき成長を実現できたのも,永守社長の人材育成に対する信念があったればこそなのだろう.

本書「人を動かす人になれ!」を読むと,永守社長が社員に自筆で手紙やファックスを書きまくっていることがわかる.書いて書いて書きまくっている.それだけのことをしないと人は動かせないという.その一方で,社員を叱って叱って叱りまくっている.これは物凄く大変なことだろう.叱るのは非常に難しいに違いないからだ.だからこそ,世間には「叱るな」という主張が多く,「褒め育て」が蔓延している.

人を叱りつけるのは愚の骨頂である.他人のあら探しは何の役にも立たない.相手はすぐに防御態勢をしいて,自分を正当化しようとする.さらに,自尊心を傷つけられた相手は反抗心を持つことになり,誠に危険である.他人に恨まれたいのであれば,人を辛辣に批評さえしてさえいればよい.その批評が当たっているほど効果はてきめんだ.人の悪口を言わず,長所をほめる.これが成功の秘訣である.

人を動かす」(デール・カーネギー,創元社)

わたしには,人の熱意を呼び起こす能力がある.これが,わたしにとっては何物にも代えがたい宝だと思う.他人の長所を伸ばすには,ほめることと,励ますことが何よりの方法だ.上役から叱られることほど,向上心を害するものはない.わたしは決して人を非難しない.人を働かせるには奨励が必要だと信じている.だから,人をほめることは大好きだが,けなすことは大嫌いだ.気に入ったことがあれば,心から賛成し,惜しみなく賛辞を与える.

チャールズ・シュワッブ

人の悪口は決して言わず,長所をほめること.

ベンジャミン・フランクリン

永守社長はこれらのことをよく理解している.だからこそ,闇雲に叱るのではなく,叱って育てるために,社員個人個人の性格や適性,プライベートな部分までも把握しているし,決して叱りっぱなしにはしない.叱る前にまず褒めて,叱った後にも褒めるというサンドイッチの原則を実践し,褒めちぎる手紙やファックスを送りまくる.叱る10倍は褒めているのではないだろうか.叱責は口頭で,褒めるのは口だけでなく手紙やファックスでというのも,褒めることの大切さを認識しているからだ.そして,悪口は絶対に言わない.特に本人がいないところでの悪口は言わないし,誰にも言わせない.これが信頼に繋がっているのだろう.

部下をしっかりと育てれば,業績はあがるという.

どうすれば業績があげられるのかといえば,部下をしっかりと育てることだ.たとえば,現在のポストが係長なら,自分の部下を係長に育てる.課長であれば,係長を課長にする.そうすれば業績は自然に伸びていく.そんなことをすると自分の立場はどうなるのかと考える人は,組織のことがまるでわかっていない人だ.結論から先にいうと,係長を育てられる人は課長になる資格があるし,部下を課長にできる人は次長や部長になる力があるという証明なのである.

永守社長が率いる日本電産では,「早飯」で採用を決めたりと奇妙な試みもしている.早飯な人は仕事も速いだろうというわけだ.非常識だが,早飯採用された社員は実際に抜きんでて活躍しているという.細かいところにも注意している.例えば,早く出社すること.

わたしは日ごろから「夜2時間遅くまで残業している人よりも,朝30分早く出社する人を重視する」「よく休む人は信頼も期待もできない」と社員によく話すが,これは小さな心がけが思わぬ成果に結びついたり,逆に致命傷にもなりかねないことを身をもって体験してきたからだ.

ある高名な経営コンサルタントに「社員の出勤時間の遅い会社はいくら熱心に指導をしてもよくならない.不良品や在庫を抱えていても,それすら改善することができない」と指摘され,データで確認したところ,確かに出社の遅い社員は仕事内容も悪かったことも紹介されている.これなど,自分自身もそうだが,学生も知っておくべきことだろう.

この日本電産では,「不良品は不良社員がつくる」という信念のもと,新入社員全員が一年間,便所掃除を担当するのだという.

わが社では1974年に幹部社員が率先して一年間便所掃除をやり,その後の会議で,企業を運命共同体として考えていくなら便所掃除は最高の基本教育だという結論を得た.以来,翌年に入社した新入社員から,全員一年間は必ず便所掃除を担当するという伝統ができ上がっている.

掃除といってもモップや雑巾,ブラシといった用具は一切使わずに素手でやる.便器についた他人の大便を素手で洗い落とし,ピカピカになるまで磨き上げる.実際に,一年間便所掃除をやってみると,無神経な使い方をする者が腹立たしく思えてくるようになる.そうすると,何もいわなくてもお互いがトイレをきれいに使おう,汚してはいけないという気持ちになってくる.この習慣が身につくと,トイレだけでなく,工場や事務所を汚したり,散らかしたままにする不心得者もいなくなる.わたしは,これこそが「品質管理の原点」だと考えている.

不良品が出る理由はいろいろあるが,行き着くところは6S,つまり整理,整頓,掃除,清潔,躾,作法の不徹底が原因で起こっている.机の上が散らかっている社員は例外なく仕事のミスが多いし,不良品を出すのは決まって掃除の行き届いていない工場だ.もちろん,科学的な根拠に基づく高度な品質の管理手法を学ぶことも大切であろう.これはこれで積極的に取り入れていく必要があるが,その前に意識づけとしてやっておかねばならないことがある.

トイレを素手でピカピカに磨くという話を読んで,伊那食品工業株式会社の塚越寛会長が著した「リストラなしの「年輪経営」」(光文社)を思い出した.伊那食品工業は「日本でいちばん大切にしたい会社」(坂本光司,あさ出版)でも絶賛されている会社で,関係者や地域社会からの評判が非常に良い.その評判は社員の人間性によるものだが,そういう人材を育てる鍵はこんなところにあるのだろう.

最後に,モノづくりへの永守社長の考えを紹介しておきたい.メーカーでありながら,心得違いをしているような企業が多いのではないかと思うからだ.

「現場・現物主義に徹し,モノづくりのすべてを自前でやっていく」というのは,わたしの揺らぐことのない信念である.

わたしは会社の利益を生み出すのは製造部門,会社の将来を決定づけるのが技術開発部門だと考えている.すなわち,メーカーにとって会社の命運を決めるのがこの二つの部門だ.この現場を無視して,会議だけで現場や人を動かそうというのは犯罪行為に等しい.こうした姿勢は徹底して排除していかねばならない.会議をする時間があるなら,一度でも多く現場に足を運び,現物を見て,現物に触れて,現場で判断する.この基本を忘れたメーカーに未来はない.

組織が急成長した結果,招きやすいもう1つの弊害が,安易な外注に頼りがちになるということである.設備投資を行って,工場やラインを自前でつくる.そして社内で研究開発,設計を行って,製品をつくる.同時に品質管理,品質保証の思想を確立して実践していく.これがメーカー本来のあるべき姿である.

人の上に立とうとするのであれば,読んでおいてよい本だろう.デール・カーネギーの「人を動かす」とは随分と雰囲気が異なるが,共通点が多いことにも気付くはずだ.

目次

  • 「一番以外はビリと同じ」と考えろ!
  • 「人を動かすのがうまい人」のこのやり方
  • 指示の出し方―何をどう話すか
  • 叱り方、褒め方1―人を動かすこのノウハウ
  • 可能性を秘めた人間を見抜く、育てる
  • 女性、中途採用―相手によって手法を変えろ!
  • 叱り方、褒め方2― “部下”を動かすこのルール
  • 理屈で人は動かない!だから―
  • リーダーの敵は、妥協である
  • 組織を動かす人が絶対知らなければならない「考え方」
  • 1回でダメなら、20回続けよ

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