3月 202011
 

後世への最大遺物・デンマルク国の話
内村鑑三,岩波書店,1976

昨日「復興に向けて,日本は何で立国するか」と題するメモで,内村鑑三が新聞に寄稿した短文を紹介した.その短文で内村鑑三は,デンマークと上杉鷹山の実績を引用しつつ,植林これ建国と唱えた.内村鑑三がデンマークについて言及したのは,かつてプロシヤとオーストリアに戦争で敗れ,豊かな2州を割譲せざるをえずに困窮したデンマークが,ダルガス親子の植林事業を通して世界随一の豊かな国になった歴史をふまえてのことである.

このデンマークの近代史を,内村鑑三は1911年(明治44年)の講演で「デンマルク国の話」として語った.この話から我々は何を学ぶことができるのか.内村鑑三自身がこの質問に答えている.

今,ここにお話しいたしましたデンマークの話は,私どもに何を教えますか.

第一に戦敗かならずしも不幸にあらざることを教えます.(中略)国の興亡は戦争の勝敗によりません,その民の平素の修養によります.善き宗教,善き道徳,善き精神ありて国は戦争に負けても衰えません.(中略)

第二は天然の無限的生産力を示します.(中略)小島の所有者かならずしも貧者ではありません.善くこれを開発すれば小島も能く大陸に勝さるの産を産するのであります.(中略)エネルギーは太陽の光線にもあります.海の波濤にもあります.吹く風にもあります.噴火する火山にもあります.(中略)

第三に信仰の実力を示します.(中略)宗教,信仰,経済に関係なしと唱うる者は誰でありますか.宗教は詩人と愚人との佳くして実際家と智者に要なしなどと唱うる人は,歴史も哲学も経済も何にも知らない人であります.国にもしかかる「愚なる智者」のみありて,ダルガスのごとき「智き愚人」がおりませんならば,不幸一歩を誤りて戦敗の悲運に遭いまするならば,その国はそのときたちまちにして滅びてしまうのであります.国家の大危険にして信仰を嘲り,これを無用視するがごときことはありません.私が今日ここにお話しいたしましたデンマークとダルガスとにかんする事柄は大いに軽佻浮薄の経世家を警むべきであります.

「デンマルク国の話」

代表的日本人」(内村鑑三,岩波書店)もそうであるが,キリスト教徒としての立場が色濃く表れているため,必ずしもすべての主張に首肯できるわけではない.しかし,「代表的日本人」では明治時代に英語で西洋人を啓蒙しよう(日本人の良さをアピールしよう)とし,本書「デンマルク国の話」では国賊と罵られながらも日本が「戦争に勝って滅びた国」となりつつあるという危機感から警鐘を鳴らした内村鑑三の愛国心は立派である.

引用した結論部分を読んでみると,今の日本にも通用することが書かれてあるように思う.

目次

  • 後世への最大遺物
  • デンマルク国の話
  • 解説