4月 122011
 

ほとんどの人間は,自分が痛い目に遭わないかぎり,学習しない.歴史から学ぶなどという芸当は確かに賢者にしかできない.だから,学生に向かって「勉強しろ!」とわめいたところで効果はない.本当にわからせたければ,痛い目に遭う機会を作ってやるのが一番だ.だから,うちの研究室では,英語の必要性を痛感してもらうために,大学院生に国際会議で発表させるだけでなく,研究室旅行で海外の大学を訪問する.例えば,2010年は韓国のソウル国立大学(SNU)を訪問した.

そう,この記事で言いたいのは「勉強しろ」ということだ.しかも,「数学を勉強しろ」ということだ.先日,入学式を終えたばかりの京都大学工学部工業化学科の一回生が研究室に来た機会に,英語や数学もしっかり勉強しておけよと伝えたのだが,恐らく既に忘れているだろう.まあ,そんなものだ.

そこで今回は,「「フラット化する世界」における大学教育の国際競争」と同様,刺激的なベストセラーである「フラット化する世界」(トーマス・フリードマン,日本経済新聞出版社)から,数学を勉強すべき理由を引用してみよう.私ごときが「数学を勉強しろ」というよりも,はるかに説得力があると思うので.

世界は数学の新時代に移りつつある.数学者とコンピュータ科学者が手を組んで,ビジネスの新たな領域へと突き進み,数学の効能はいやおうなしに増大している.(中略)こうした数学の勃興によって,栄えある量的分析専門家の就職市場は過熱し,ことに大手インターネット企業では,数学専攻の新卒者が六桁の年俸と有利なストックオプションをあたえられる.(中略)一流の数学者は,全世界で新たなエリートとなっている.

ビジネス・ウィークリー2006年1月23日号の記事からの引用

数学を選択しなさい.なぜなら,今後何度となく数学と出逢うことになるからだ.数学は,仕事でも学問でも,あらゆる分野でますます重要になっている.(中略)仕事で数学を使うことが増えるのだから,学校でももっと数学を教えないといけない.

ユビキティ2006年3月21日号の記事からの引用(ノルウェー経営大学院のエスペン・アンダーセン准教授)

われわれ大人は,よく『数学は苦手でね!』と口にする.なかには,たしかに苦手な人間もいるだろう.しかし,子供たちにそんなことをいってはいられない.新世代の仕事で数学が中心的な役割を果たしていることに,あなたがたは衝撃を受けるかもしれない.考えてみるといい.アメリカ大学教育プロジェクトの研究によれば,今後10年間のアメリカ人の仕事の62パーセントにおいて,初心者レベルの労働者は,代数,幾何学,データ解析,確率,統計に長けていなければならないという・・・ハイスクール生徒の息子や娘を持つ親であれば,子供が代数Ⅰ,幾何学,代数Ⅱに合格するよう,気を配ったほうがいい.1,2年で数学の必須科目を終えたとしても,3年以上で微積分を習うようにと,強く勧めるべきだ.

メリーランド州のシンクポートというウェブサイト2006年11月の記事からの引用

トーマス・フリードマンはこう述べている.「数学を専攻している友人に,「そんなものでどうやって食べていくんだよ?」と質問をしたのは遠い昔の話だ.いまはそんなことをきいてはいけない」と.

こういう話を聞いて,目を覚まして勉強する学生が一人でもいてくれれば,わざわざ書いた価値があるというものだ.しかし,現実はそれほど甘くはないだろう.だから,危機感を煽っておこう.

フラットな世界には,適切な知識と技倆と発想と努力する気持ちがあれば,ものにできるいい仕事が山ほどある.ただ,はっきりいって,このやりがいのある仕事は楽ではない.いまのアメリカの若者は,中国やインドやブラジルの若者と競争することになるのを,肝に銘じたほうがいいだろう.

フラットな世界にいる彼女たち(著者の娘たち)へのアドバイスは単純明快で味気ない.「いいか,私は子供の頃,よく親に『トム,ご飯をちゃんと食べなさい-中国とインドの人たちは食べるものもないのよ』といわれた.おまえたちへのアドバイスはこうだ.宿題をすませなさい-中国とインドの人たちがおまえたちの仕事を食べようとしているぞ」

アメリカも日本も同じことだ.「誰も勉強しろとは言ってくれなかった」とは言わせないぞ.確かに言った.勉強しないのは誰の責任でもない,自分の責任だ.その後始末は自分でするしかない.大学生にもなったら,それくらいは自覚すべきだ.健闘を祈る.