4月 132011
 

フラット化する世界〔普及版〕上
トーマス・フリードマン(著) ,日本経済新聞出版社,2010

素晴らしい.実に刺激的な本だ.グローバル化の本質を考える上で,非常に有用な情報や考え方を提示してくれている.今や日本人の多くがスマートフォンや携帯やパソコンでインターネットに接続し,いつでもどこでも世界と交信できる環境にいる.しかし,それが意味するところを理解している人が多いとは思えない.本書「フラット化する世界」は,政治,社会,経済,産業など様々な観点で,これから世界がどのように変化していくのかを考える一助となるだろう.まだ読んでいない人は,是非,読んでみるといい.

本書「フラット化する世界」でフリードマン氏は,世界のフラット化の要因を10個挙げている.

  • フラット化の要因1 ベルリンの壁の崩壊と、創造性の新時代
  • フラット化の要因2 インターネットの普及と、接続の新時代
  • フラット化の要因3 共同作業を可能にした新しいソフトウェア
  • フラット化の要因4 アップローディング:コミュニティの力を利用する
  • フラット化の要因5 アウトソーシング:Y2Kとインドの目覚め
  • フラット化の要因6 オフショアリング:中国のWTO加盟
  • フラット化の要因7 サプライチェーン:ウォルマートはなぜ強いのか
  • フラット化の要因8 インソーシング:UPSの新しいビジネス
  • フラット化の要因9 インフォーミング:知りたいことはグーグルに聞け
  • フラット化の要因10 ステロイド:新テクノロジーがさらに加速する

項目名を見れば内容が想像できるだろう.象徴的なベルリンの壁の崩壊にはじまり,インターネットの普及は庶民の生活スタイルを変え,ウェブサイトやブログや投稿サイトなどを通して個人が自分の意見や作品を世界に向けてアップロードするようになった.インターネットを介して共同作業が効率よく行えるソフトウェアの登場がビジネスの仕方を変え,アウトソーシングやオフショアリングが加速した.ウォルマートやデルは驚嘆すべきサプライチェーンを構築し,世界中の多くの企業と協働しつつ,それらを支配もしている.そして,このブログを書いている最中にも,知りたいことはグーグルに聞いている.

ただ,私の場合,インソーシングという言葉に馴染みがなかった.フリードマン氏は次のように表現している.

ノート・パソコンを受け取ったUPSは,じつはそれを東芝には送らない.ルイビルのハブにある自社経営のコンピュータ・プリンター専門の作業所で修理する.ハブに行ったとき,私は荷物が動きまわるのを見るだけだと思っていたが,無塵室でブルースモックを着せられ,UPSの従業員が故障した東芝のノート・パソコンの基盤を取り替えるのを眺めることになった.

このプロセスは,インソーシングと呼ばれるようになっている-まったく新しい形の共同作業で,水平に価値を生み出す.フラットな世界でこそ可能なやり方で,これによって世界はいっそうフラットになる.前の章で私は,フラットな世界にとってサプライチェーンが非常に重要であることを論じた.しかし,どの企業もウォルマートが確立したような規模と幅を持つ複雑でグローバルなサプライチェーン網を築く経済力があるわけではない.むしろそれができる企業はごく限られている.そこで生まれたのがインソーシングというわけだ.(中略)1996年,UPSは「シンクロナイズド・コマーシャル・ソリューションズ」と称する事業に乗り出した.(中略)UPSのエンジニアが企業内部に入り込むことからして,「インソーシング」という言葉はじつにうってつけだと思う.製造,梱包,集配プロセスを,そうしたエンジニアが分析して,設計もしくは再設計し,グローバルなサプライチェーン全体を管理する.そして,必要とあれば財務面でも援助し,未収金の管理や代金引換渡しも行なう.現在ではかなりの数の会社が,自社製品に手も触れていない.

著者であるフリードマン氏は,世界のフラット化を手放しで歓迎している.フラット化が世界をより豊かにし,世界から貧困をなくすのに重要な役割を果たすからだ.また,フラット化を阻害する危険因子はいくつかあるものの,基本的にこの流れは止まらないとみる.

第二次世界大戦後,西欧や日本が自由市場になろうと努力したことによって,どれだけの新製品,アイデア,雇用,消費者が生まれたか,考えてみるといい.(中略)インドと中国がその方向へ向かえば,世界はこれまで以上にフラット化するばかりではなく,これまでになく繁栄すると,私は断言する.アメリカのような国は,一つではなく三つあったほうがいい.三つよりは五つあったほうがいい.

中国やインドがアメリカみたいになった世界を想像すると,かなり恐ろしい.気に入らないというだけの理由で,すぐに他国を軍事的に叩くような国がたくさんある国際社会は持続可能性が極めて低いだろう.もちろん,著者もアメリカのそういう側面を褒めているわけではない.むしろ,アメリカの政治は酷いと散々嘆いている.著者が本書「フラット化する世界」でアメリカの長所と見ているのは,新しいものを生み出す創造性と自由で民主的な世界を求める精神性だ.

我々は大きな変化の渦中に生きている.これまで貧困に喘いでいた膨大な数の人々が,フラット化した世界,つまり均された競技場に雪崩を打って押し寄せ,富を求めている.そして実際,それが可能になった.そのことを彼らは当然認識しており,自分たちを追ってくるものが多数いることに危機感すら持っている.

「東欧は目を覚ましかけているし,中国もサービス産業で時流に乗っていろいろなことをやろうと手ぐすね引いて待ちかまえています.インフラが整備されているおかげで,今日では世界各地のどこからでも最高の製品やサービスや能力を調達できます.あとはインフラを利用しようという意思さえあればいい.だから,さまざまなビジネス,さまざまな人々が,このインフラを楽に使いこなせるようになれば,大爆発が起きますよ.五年ないし七年後には,英語ができる優秀な中国人学生が大量に大学を卒業する.ポーランドやハンガリーは地理的にヨーロッパ西部にも近く,関係も非常に深い.文化も大差ない.いまインドは一歩先んじていますが,その位置を守るためには,相当な努力が必要です.立ちどまることなく自分を変え,さらに変え続けなければなりません.(中略)世界はサッカー場のようなもので,そこでプレイするチームとして残るためには,鋭敏でないとだめです.実力がなかったら,ベンチを温め,ゲームを眺めるはめになります.しごく簡単でしょう」

(ドゥルバ・インタラクティブ社を設立したラジェシュ・ラオ)

果たして日本人はどうだろうか.この世界的な変動に対応しつつあるだろうか.認識不足なのではないかと心配になる.以前は,日本に生まれてよかったと言えた.これからはどうだろうか.

中国の成功への原動力が「生まれいずる運」を一変させた,とマイクロソフト会長ビル・ゲイツはいう.それと同時に,地理と才能との関係も変わった.(中略)世界がフラット化し,おおぜいの人間がどこからでもプラグ&プレイできるようになると,才能が地理をしのぐようになった,とゲイツはいう.「いまなら,ポプキシー(ニューヨーク州の町)の凡人よりは,中国の天才として生まれたい」ゲイツはいう.

本書「フラット化する世界」上巻は,HPのカーリー・フィオリーナの宣言で終わる.

ITバブルとその崩壊は「始まりの終わり」にすぎないと,フィオリーナは2004年の講演で語っている.テクノロジーにおけるこの25年は,準備運動にすぎなかった,とフィオリーナは告げた.「いまこそ私たちは,メインイベントに突入しようとしています.つまり,テクノロジーがビジネスのあらゆる局面,人生と社会のあらゆる局面を完全に変貌させる時代が訪れます」

なお,本書「フラット化する世界」上巻は,ビジネスを主たるテーマにしているが,教育の重要性も強調されている.印象的な部分は「「フラット化する世界」における大学教育の国際競争」にまとめてあるので,そちらも参照してもらいたい.

目次

序文

第1部 世界はいかにフラット化したか

  • われわれが眠っているあいだに
  • 世界をフラット化した10の力
  • 三重の集束
4月 132011
 

図解水処理技術のきそ
中村日出男,田村真紀夫,日刊工業新聞社,2010

海水淡水化なども含めた水処理システムに関する検討会のメンバーに誘われたが,この分野に関する知識が全くないため,まずは初心者向けの本を読んでみようと思い,本書「図解水処理技術のきそ」を図書館で借りてきた.水処理の基礎,水処理技術,膜処理技術の3編構成で,基礎から応用までの知識が得られると期待したのだが,結論を述べると,期待はずれだった.

まず,編集がおかしい.第Ⅰ編は「水処理の基礎」となっているが,15頁にもわたって,環境基準や水質に関する表がダラダラと並べてある.こういう表は付録として本の最後にでも付けておけばいい.こういう無機質な情報を,本の最初に羅列するというのは,読者の興味を削ぐ.読む気が失せる.どうして,このような構成にしたのか解せない.第Ⅱ編の「水処理技術」もどういう読者を想定しているのかがよくわからない.専門用語が説明もなく使われているし,見方が分からない図もあるし,間違いも少なくないし...それに比べると,第Ⅲ編の「膜処理技術」はわかりやすかった.ちなみに,第Ⅰ,Ⅱ編を中村氏,第Ⅲ編を田村氏が分担執筆しているとのことだ.著者の力量が異なるのだろう.

やはり,一定の評価を受けている本を選ぶべきだった.遺憾ながら失敗.別の本を読むことにしよう.

目次

  • 水処理の基礎
  • 水処理技術
  • 膜処理技術