5月 032011
 

住友金属工業に技術者として30年勤めた山田恭暉氏(72)が,「福島原発暴発阻止行動隊」の結成を呼びかけたという.(J-CASTニュース

驚くべきことだが(嘘にも慣れて何事にも驚かなくなっているのが恐ろしいが),東京電力は,下請けや孫請け企業に任せるだけでなく,ハローワークなどで集めたド素人を原発の事故現場に投入しているという.そのような無責任な東電の対応に,善良な技術者として危機感を募らせてのことだという.

暴発という最悪のシナリオを避けるため,そして放射能汚染を減らすためにどうすべきかを「国家プロジェクトとして考えるべき」と山田氏は言う.もちろん,その作業は,放射性物質に晒される「決死の覚悟」で行わざるを得ない.「被曝しないで作業にあたることが現実としてむずかしいことは明らかで、だからこそしっかりとした知識や経験のある技術者が作業すべき」というのが,福島原発暴発阻止行動隊の結成に向けた訴えだ.

山田氏は「現場の作業や技術の蓄積のある退役者たちが,次世代のために働くべきだ.こういうことは未来のある若者には任せてはいけない」と話している.この心からの呼びかけに対して,既に30人超が福島原発暴発阻止行動隊への参加を表明,さらにその必要性を政府や国会に働きかける応援団も100人を超すという.

心を打たれる.政府や保安院,東電の隠蔽工作のために実態が掴めず,海外の専門家からは厳しい非難や指摘がなされているが,まだ最悪のシナリオが避けられる状態であることを祈ろう.もし福島原発暴発阻止行動隊が現実のものとなったならば,参加される方々の無事を祈ろう.

何と大きな犠牲を強いられるのだろう...

それでもなお,日本人は,今まで通りに電気やエネルギーを無駄に消費しつづけるのだろうか.そのことに無関心でありつづけるのだろうか.こういう問いかけを,経済合理性がないと切り捨てるのだろうか.負け組だとかいうのだろうか.馬鹿にされても,生活が不便になっても構わないが,心を失った生物にはなりたくないな.

福島原発で危険作業志願 高齢エンジニアたち「決死の覚悟」

(J-CASTニュース)

5月 032011
 

スマートグリッド革命―エネルギー・ウェブの時代
加藤敏春,エヌティティ出版,2010

これからのエネルギーシステムの在り方を考えてみるために,スマートグリッドについて勉強することにした.

本書「スマートグリッド革命」では,著者が革命という言葉を使用していることから分かるように,スマートグリッドを単なる技術として捉えているのではなく,社会を根底から変えるもの,パラダイムシフトを起こすものとして捉えている.

供給サイドから需要サイドへのパワーシフトが起こり,誰もがエネルギーを作り消費する主体,すなわちアルビン・トフラーの言った「プロシューマー」(生産消費者)となります.

「エネルギー・ウェブ」を活用すれば,省エネによる電力節約分(ネガワット)と太陽光発電などによる創エネ分(ポジワット)を,トータルとして個人・法人による発電ととらえることができます.この発電をエネルギーマネージメント・システムにつなげ,発電収入やCO2削減分に対応したエコの価値を取引できるようにすれば,「You Energy! 誰もがエネルギーを作れる」から「誰もが新ビジネスを創造できる」というパラダイムが生まれ,おびただしいイノベーションの創造が「経済成長&雇用創出」につながるというパラダイムへと発展します.

これが新しいパラダイムの姿だと加藤氏はいう.もちろん,スマートグリッドの実現に向けては,スマートメーターが重要な役割を担うし,再生可能エネルギーの導入が鍵となる.しかし,スマートグリッドは単なる省エネや自然エネルギーの利用を意味するのではない.新しいイノベーションを起こし,経済成長や雇用創出に結びつけていくという発想だ.これは,トーマス・フリードマン氏が「グリーン革命」で説いている主張と同じだろう.だからこそ,グーグル,マイクロソフト,シスコなどインターネット産業やIT産業から巨大企業が続々と参入してくるわけだ.

スマートグリッドで扱われるエネルギーは電気が中心となる.旧来の化石資源や原子力による発電所に加えて,太陽光や風力などの自然エネルギーによる発電装置が,需要装置とネットワークを介して繋がる.家庭はこれまでのように電気の単なる需要者としてではなく,太陽光発電や蓄電池(電気自動車も含む)を用いて,供給者としての役割も果たすようになる.そこに電気主体の経済が生まれる.

「電気経済」には,いままでの化石燃料経済とは全く異なる特性があります.それは,1)中央集権型ではなくネットワーク型であること,2)受動的ではなく自律的であること,3)標準や基準に依拠したものであること,4)垂直統合ではなく水平統合であること,5)常に新しいイノベーションが起こって流動的であることです.「電気経済」は,本来的に「ネットワーク型経済」であると言うことができます.

スマートグリッドが実現すると,どのような効果があるのだろうか.本書「スマートグリッド革命」では,次の5つが指摘されている.

  1. ピークカットやピークシフトによる電力設備の有効活用と需要家の省エネ・節電を促進することにより,電気料金の実質的な低減を図れるようになる.
  2. 再生可能エネルギーを大量に導入できるようになる.
  3. プラグインハイブリッド車や電気自動車を普及させることができる.
  4. 関連する新産業を創生し,雇用を増大させることができる.
  5. 電気保安,停電対策,電気の品質の確保が図れる.

なるほど.スマートグリッドには様々な効果があるらしい.しかし,本当に実現可能な技術なのだろうか.世の中には,掛け声倒れに終わる技術も少なくない.この点について,本書では,世界各国で実施されてきた実証実験の結果が紹介されている.

米DOEの国立研究所が需要応答の効果を実証した結果,ピーク電力を15~17%減少させるとともに,平均的な家庭で15%電気料金を安くすることができるということが明らかになりました.

需要応答の効果については,09年6月に発表されたFERCのスタッフ報告書は,19年に実現できる負荷平準として,(中略)全世帯にスマートメーターが導入され,ダイナミック・プライシングを含めすべてのプログラムが実行された場合は188ギガワット(20%)の負荷平準が需要応答により実現できると報告されています.

カリフォルニア州の電力会社PG&Eが,3年かけて2500人の顧客を対象に2000万ドル規模のパイロット事業を実施したところ,ピーク時の需要削減率は,(中略)ゲートウェイシステムを用いた場合は43%にもなることが判明しました.

イタリアでは,大規模な盗電が多発し,経済被害が無視できない規模になったという特殊事情もあり,大手電力会社であるENELが01年から05年に30億ユーロを投資して,2700万台,全世帯の約85%にスマートメーターを設置しました.(中略)スマートメーター導入に伴うコスト削減効果は年間7億5000万ドルに上り,設備投資額をわずか4年間で回収できたということです.他方,スマートメーターを導入した顧客は,スマートメーターによる電力消費量を容易に管理し,電気代を節約できるようになりました.

確かに,勇気づけられる結果だ.スマートグリッドの実現に向けて,スマートメーターの導入は進むであろうし,家電もスマートになるだろう.そのコストはそれほど高くないらしい.

このデバイスによって,消費者は電力消費量をより詳細に把握し,家電製品の設定をプログラムすることができます.たとえば,電力会社がスマートメーターを介してピーク時価格適用中の信号を送ると,衣類乾燥機が「節約」モードに切り替わるといった設定が可能になります.GEは,こうした同社の需要応答家電製品のコストは10ドル程度高くなると予想していますが,市場性は十分あると見ています.

さらに,地域社会での取り組みも紹介されている.日本国内の事例もある.

「コミュニティによるエネルギー選択(CCA=Community Choice Aggregation)」は,地方自治体の決定によって市,群,合同エネルギー機関が代表となって地域の電力需要を束ね,その地域のすべての需要家に対する電力会社や電気の種類を選択できるというものです.たとえば,サンフランシスコ市は,「民主主義の復権」と「地域による電力市場の管理」のために,CCAを用いて従来の電力会社から離脱することを決め,電力供給の51%以上を再生可能エネルギーによる電力供給と需要応答による省エネによってまかなうことを目標としています.

「東近江モデル」では,市民共同発電所だけでなく個人住宅の太陽光発電など市民が所有するすべての再生可能エネルギーの発電設備を地域社会全体で支える仕組みであると考えるところが,従来の市民共同発電所とは異なっています.また,仕組みに関しても,1)分配金を市内限定・期間限定の地域商品券とすることで,分配金を市内に循環させ,市民共同発電所を地域経済に活力を与えるツールとする,2)すべての市関連の事業者や市民が支えるために「風と光の未来基金」を設立する,という工夫を行っています.

流石に,スマートグリッドの旗振り役が書いただけのことはあって,本書を読むと,スマートグリッド革命の未来は明るいと思える.

加藤氏は,自身の「スマート国民総発電所構想」も披露している.

国や自治体の公共施設や国が株式を保有する特殊会社や鉄道・駅等に,太陽光発電等と省エネを組み合わせたエネルギーマネージメント・システムを構築することからスタートします.あわせて,地域ごとに個々の家庭・オフィスをネットワークでつないでエネルギーマネージメントをする「市民創・節電所」を構築し,トップダウンからの動きとボトムアップの動きを結合します.全国におよそ4万8000カ所あるガソリンスタンドに太陽電池を置き,急速充電器等と連結した太陽光・電気スタンドとすることも効果があります.こうして出来あがるスマート国民総発電所の規模は,何十ギガワットにも相当します.ちなみに原子力発電所1基が1ギガワットなので,原子力発電所の数十基建設に相当することになります.これが「スマート国民総発電所構想」です.

今回の福島原子力発電所の事故を受けて,国内外でエネルギー政策に関する議論が盛り上がっている.米国では既に,高騰する原子力発電コストと低減する太陽光発電コストが逆転したと報じられている.そうでなくとも,補償費用まで考慮すれば,いや原子力発電の社会的費用を考慮すれば,少なくとも地震国日本では原子力発電が割に合わないことは明らかになるだろう.少なくとも,今回の対応で,今の日本人に原子力を扱う資質がないことは明確になってしまった.

これを機に,日本のエネルギー政策を転換し,日本を世界に誇れるエネルギー・環境先進国へと進化させたい.そのために重要なのが,やはり国家戦略である.技術力は申し分ないはずだ.必要なのは,その技術力を活かす構想力だ.

今後世界的に進展するスマートグリッドにおける日本企業のポテンシャルは,「技術」×「戦略」×「政策」で決まります.このうち「技術」に関しては,これまでの考察から日本の優位性はかなりあると考えてよいと思います(ただ,韓国,中国等の追い上げのスピードが早く,油断は禁物です)が,むしろ,今後のポイントは「戦略」と「政策」にあります.この両者でいかにダイナミックな,かつ,グローバルな対応ができるかによって勝負が決まります.

日本人が目覚めることに期待したい.

目次

  • はじまった「スマートグリッド革命」
  • 「スマートグリッド革命」はわれわれに何をもたらすのか
  • 「スマートグリッド革命」への日本企業の課題
  • 「スマートグリッド革命」を演出するオバマ政権
  • 活発化する米企業のスマートグリッドビジネス戦略
  • 急速に進展する欧州・アジアでの「スマートグリッド革命」
  • 「スマート国民総発電所構想」=「エネルギー・ウェブ」の具体化