6月 282011
 

水ビジネス 110兆円水市場の攻防
吉村和就,角川書店,2009

現在,海水淡水化を中心に,水関連の技術とビジネスについて勉強中.先に読んだ「水ビジネスの現状と展望 水メジャーの戦略・日本としての課題」(服部聡之,丸善)が期待はずれだったので,同じく「水ビジネス」をタイトルにしている本書を読むことにした.

流石,国際経験があり,日本の水関連政策にも関与している専門家が執筆しただけのことはあって,水ビジネスの全体像がわかりやすく書かれている.まあ,我田引水な感もあるが,それだけ著者の水にかける想いが強いということだろう.水ビジネスの入門書として,良い出来だと思う.

本書はまず,日本人にとって水問題は他人事ではないという説得から始まる.水資源に恵まれているように見える日本が実は水輸入国だというのだ.ここで登場するのがバーチャル・ウォーター(仮想水)という考え方.聞いたことがある人も多いだろう.何かを生産するのに必要な水の量を,バーチャル・ウォーターという.本書で紹介されている例を挙げておこう.以下は,それぞれの穀物や肉を1トン生産するのに必要な水の量だ.牛肉を手に入れるために消費される水の量が凄まじい.

白米:3600トン
小麦:2000トン
トウモロコシ:1900トン
牛肉:20600トン
豚肉:5900トン
鶏肉:4500トン

より身近な食品では以下のようになっている.近い将来,牛肉を使う牛丼やハンバーガーは,味はともかく高級食品になるのかもしれない.

牛丼:2000L
ハンバーガー:1000L
ざるそば:700L
オムレツ:600L
みそ汁:20L

バーチャル・ウォーターに関しては,次の数値にショックを受ける.

日本国内で一年間に発生する食品系廃棄物(食べ残し)は2000万トン.国内外からの食料総量の20パーセントに相当すると言われている.これを水の量に換算すると240億トン.国民一人当たり,年間190トンもの水を捨てていることになる.一日にすれば500リットル.

ちなみに,バーチャル・ウォーターで計算すると,日本は水輸入国だ.我々日本人の食料を自給するに足る水資源を日本は持っていない.これはかなり深刻な事態だと言えるだろう.

ライバル(RIVAL)という英単語の語源が川(RIVER)だという話を聞いたことがある人も多いと思うが,昔から,水は争いの元であった.今でもそうだ.実際,アフリカなど水問題が深刻な地域では,水を巡って武力衝突が発生し,多くの人が亡くなっているという.日本人にも馴染みがあるところでは,例の湾岸戦争がある.イラクがクェートに侵攻した理由の1つが,水の確保だったと言われている.そして,その後が酷い.

(湾岸戦争の)空爆の際,イラク国内の水道施設は,多国籍軍の誘導ミサイルによって壊滅的な被害を受けた.実は「浄水場の破壊は非人道的な行為として,ジュネーブ協定で禁止」されているのだが,多国籍軍,すなわちアメリカはこの協定に違反して浄水場を意図的に破壊した.ヨーロッパ各国からは「ジュネーブ協定違反である」という非難声明があがったものの,結局は国連安全保障理事会の議題にのぼることすらなかった.いうまでもなくアメリカが強硬に反対したためであった.

サダム・フセインによる水道管の更新が進んだ後の2003年,イラクに「国際テロ組織・アルカイダと密接な関係を持ち,大量破壊兵器を所有している」という「嫌疑」が発生.同年3月20日,国連決議を待たずに独走したアメリカ軍に空爆されて,再び水道施設を破壊されてしまう.ちなみに空爆直前まで,ロシア,ドイツ,フランス,中国はアメリカの攻撃に対して強硬な反対の姿勢をみせた.この4カ国は前述したとおり,湾岸戦争終戦後にイラク国内の石油採掘権を購入していた国々である.彼らがなぜ反対したのかは明白だ.(中略)その一方で先進国間の巧妙な交渉も展開されていた.仮にアメリカが攻撃し勝ったとしても,ロシア,ドイツ,フランス,中国が保有するイラクの採掘権を保証すれば,攻撃を黙認することはやぶさかではない,というものだった.(中略)2003年3月から始まったアメリカ軍による「弾薬の在庫一掃セール」とも呼ばれた大規模空爆によって,イラク国内の水道はイラン・イラク戦争,湾岸戦争に続いて,3度目の大きな被害を受けることになった.施設そのものが破壊されたのもさることながら,劣化ウラン弾による水質汚染やその後の健康被害も深刻な問題になった.

国を再興させないためには,水を止めればいい.それを米軍が実践したのが湾岸戦争だったというわけだ.しかも,劣化ウラン弾だ.どうしようもない.

ともかく,これほどまでに水問題は人類にとって大きな問題であるというわけだ.そのような認識を持った上で,水ビジネスについて考えてみる必要がある.

まずハッキリしていることは,海水淡水化に利用される逆浸透膜などの分離膜技術について,日本企業の技術力は世界一ということだ.複数の企業が素晴らしい技術・製品を開発している.ところが,半導体など他産業と同様に,その高い技術力が儲けに直結していない.もはや普遍的になってきた感のある,日本の残念なところだ.

(膜技術の話)を聞くと,世界の水ビジネス界において日本がリーダーシップをとれるのでは,と考えたくなるが,残念ながらそれは早計だ.2025年には世界の水ビジネスは約110兆円規模になるともいわれているが,その内訳は,日本が得意とする海水淡水化の膜などの素材分野が約1兆円,エンジニアリング,調達,建設などが約10兆円,そして残りの約100兆円は施設管理や運営業務といわれている.(中略)そして100兆円市場を独占しているのが水メジャーであり,残念ながら,目下,この分野における日本企業のアドバンテージはない.

なんとか優秀な技術をテコに,日本企業に海外で施設管理や運営業務を受注してもらいたいと思うわけだが,これがなかなか難しいようだ.では,一体,何が問題なのか.

日本の民間企業にも問題がないわけではない.最大のウィークポイントは,やはり,国内・海外とも上下水道事業そのものを運営した経験がないことである.それならば日本のODA(無償・有償資金)を活用して海外進出も考えられるが,日本の二国間ODAは96パーセントがアンタイド(資金拠出国以外への発注)で,実績,経験,価格競争力のない日本の水関連企業の出る幕がない.この状態は今後も続くだろう.ちなみに,アメリカのアンタイド率は28パーセント,フランスは38パーセントである.

日本のODA経由の水関係ビジネスは,浄水場や下水処理場のハコモノ建設に限られ,日本が建設した後は,フランス系の企業が管理運営している場合が多い.極端にいうと,日本のODAは海外の水企業を利するために活用されているとも言える.つまりは「露払い」というわけだ.今後日本は,ハコモノだけではなく,人材育成や維持管理をも含むODAをするべきであろう.

社会に貢献するのは実に大切なことである.日本のODAもその精神は実に立派である.しかし,もっと工夫はできないものかとも思う.真剣に見直されるべきだろう.

これで水ビジネスに関する入門書を2冊読んだわけだが,喫緊の課題は技術そのものではないようだ.もちろん,さらなる膜技術の進展はあるだろうが,それが日本企業の利益には必ずしも直結しないというのが現実らしい.しかし,入門書で指摘されているような問題点は企業は十二分に承知しているはずで,それでも事態を打開できないというのは何が問題なのだろうか.恐らく,1つは硬直した行政の問題があるろう.後は経営能力か?

ちなみに,膜そのものの機能向上とは別に,様々な技術的課題がある.本書とは全く関係ないが,最近,海水淡水化を題材に色々と教えていただく中で,少しずつ課題が見えてきた.個人的に興味があるのは,材料開発とかではなく,システム的な観点からの問題設定とその解決なのだが,取り組む価値がある問題はあるようだ.さらに勉強を続けよう.

目次

はじめに―採取可能な水、「0.01パーセント」の真実

第1部 世界中で足りない水

  • 世界を襲う「ウォーター・クライシス」
  • 「バーチャル・ウォーター」―水輸入大国・日本
  • 地球温暖化が水資源の枯渇をもたらす

第2部 水が引き起こす戦争

  • イラク戦争は「水戦争」だった?
  • 世界は水を巡る紛争・問題に溢れている

第3部 巨大「水マーケット」をめぐる攻防

  • IBMが水ビジネスに乗り出した意味
  • 水不足に商機を見出す海外「水メジャー」
  • 新興国も参入する「110兆円水市場」
  • 日本の上下水道の現状と課題
  • 動き出した日本の産・官・学―「チーム水・日本」の役割

おわりに―ジョン・F.ケネディの「夢」は実現するか?

6月 272011
 

佐藤一斎「言志四録」を読む
神渡良平,致知出版社,2003

「言志四録」を遺した佐藤一斎は,岩村藩に生まれ,後に学問所昌平黌(しょうへいこう)の儒官にまでなった人物である.昌平黌の儒官と言えば,現代で言えば東京大学総長に喩えられる.昌平黌儒官の方が遙かに凄いのではないかと想像してみたりもするが.

佐藤一斎の弟子には佐久間象山らがおり,勝海舟,吉田松陰,坂本竜馬,西郷隆盛ら幕末の志士も多大な影響を受けたとされる.例えば,西郷隆盛は「言志四録」を座右の書とし,「南洲翁遺訓」に佐藤一斎の影響を見ることができる.

本書「佐藤一斎「言志四録」を読む」は,神渡良平氏が様々なエピソードを交えながら,言志四録に収録されたいくつかの条を解説したものである.そのエピソードや解説が実に素晴らしい.心に響く.

講説はその人にありて,口弁にあらず.

(講義で説くことが聞く人を納得させ得るかどうかは,講義をする人の人物いかんにあるのであって,決して口先の説明にあるのではない.)

佐藤一斎「言志晩録」

この言葉を地で行くようだ.偉人の生き様を研究し,人間が立派に生きるためには志が欠かせないとする著者らしい.

まず,その志に関する言葉をいくつか紹介したい.

凡そ学をなすの初めは,必ず大人たるを欲するの志を立てて,しかるのちに書読むべきなり.しからずして徒に聞見を貪るのみなれば,則ち恐らくは傲りを長じ,非を飾らん.これいわゆる寇に兵を仮し,盗に糧を資するなり.虞るべし.

佐藤一斎「言志耋録」

命を知らざれば,以て君子たること無きなり.

孔子「論語」

そもそも人間が志を立てるということは,いわばローソクに火を点ずるようなものです.ローソクは火を点けられて初めて光を放ちます.同様にまた人間は,志を立てて初めてその人の真価が現れるのです.志を立てない人間というものは,いかに才能がある人でも,結局は酔生夢死の輩に過ぎないといえます.

森信三「修身教授録」

志というものは,充実した虚無的自覚に立つものでなければ,本物とはいえない.

安岡正篤「東洋人物学」

強烈だ.志を立てることの重要性が緊緊と伝わってくる.教育に携わる者として,学生にもこのことを伝えたいと願っているのだが,それこそ「講説はその人にありて,口弁にあらず」であって,私ごときではまだまだと痛感する.(四書の)大学には修身斉家治国平天下とあるが,(日本の最高学府である)大学について論ずる以前に,一身を修めないと話にならない.

学生に人生の夢を聞いてみた: 金儲けは人生の目的に値するか」や「京都大学新入生に夢を聞いてみた」などにも書いたように,今時の学生に夢を尋ねてみると,彼らが京大生であるということを意識したとき,落胆させられる回答も少なくない.試験勉強に明け暮れても,明け暮れなくても,人は放置しておいたら大志を抱くようになるものではないのだろう.「夢を叶えるための勉強,夢を形づくるための勉強」にも書いたように,「夢」をくだらない欲望にしてしまわないために,勉強する必要がある.

その勉強も,今すぐに取りかかる必要がある.明日からではない.

あすがある.あさってがあると考えている間は,なんにもありはしない.かんじんの「今」さえないんだから.

自分をつくっていくということは,一秒一分でもだいじにすることだ.

東井義雄(卒業生に贈った色紙)

しかし残念がながら,若くしてこのことに気付くのは難しい.本書「佐藤一斎「言志四録」を読む」でも四十歳という年齢があちこちに登場する.その齢に達しないとなかなか気付けないということだ.「十有五にして学に志す」などというのは,やはり尋常ではない.しかし,その孔子にしても,「四十にして惑わず.五十にして天命を知る」であって,天命を知るのは並大抵のことではないとわかる.果たして凡人に為すべきことがわかるのだろうか.あるいは,どうすればわかるのだろうか.

そのような問いを投げかける訪問者に対する森信三の答えが引用されている.

問い尋ねる姿勢がまだ曖昧だから,心が決まらないのです.

本当に,時間を無駄にしている場合ではない.ましてや,人の欠点に目を向けている場合ではない.

他人の欠点はだいぶんバカにでも見える.しかし自分の欠点はバカや怠け者には決して見えない.自分の欠点が見えるだけでなく,それに挑み,改めていける人となると,もう大したものだ.

東井義雄(卒業生に贈った色紙)

本書「佐藤一斎「言志四録」を読む」では,人の品格を判断するための基準が示されている.

第一に,その人がいかなる人を師として仰いでいるか.

第二に,その人がいかなることを人生の目標としているか.

第三に,その人が今まで何をしてきたか.

第四に,いかなる書を愛読書としているか.

最後に,その人の友人を見ること.

これらは,まさに,私が担当講義で学生に対して質問(アンケート調査)していることだ.

  • 自分の人生で成し遂げたい「夢」は何ですか.
  • 将来,どのような仕事をしたいと考えていますか.
  • その仕事に就くために,どのような努力をしていますか.あるいは,何を心掛けていますか.
  • 座右の銘は何ですか.それは誰の言葉ですか.
  • 歴史上の人物(現在生きている人も含む)で,私淑する,または親炙に浴する人は誰ですか.
  • 過去1年間,平均して1ヶ月に何冊本を読みましたか.
  • 自分の人生に大きな影響を与えた,あるいは最も印象に残っている本は何ですか.

つまり,このような問いに答えてみることで,自分が果たしてどの程度の人物であるのかを意識してもらおうというわけだ.もちろん,大学新入生が大人物であることなど期待していない.自分の生き方について考えてみるという行為がありうることに気付いてもらう切っ掛けを与えようとしている.その効果は定かでないが,毎年,確実に若干名は衝撃を受けてくれているようなので,無駄ではないと信じている.

しかし,自分をつくるためには,どうすればよいのだろうか.神渡良平氏はこう説いている.

人間には「みんなで渡れば怖くない」という群集心理がある.物陰に隠れ,匿名でいようとする.その方が安心だからだ.しかし,その一方では,「その他大勢の一人ではありたくない」と,自己の絶対性を主張するものがあり,自己実現を図ろうとする.座禅,静坐,瞑想,内観を実習すると,後者の「自己の絶対性」が育まれるのだ.

ほら,そこのTwitterでつぶやきまくっている,あなた.それだけではダメなんじゃないの?ということだ.

とりあえず,佐藤一斎が「凡そ学をなすの初めは,必ず大人たるを欲するの志を立てて,しかるのちに書読むべきなり」と言っているのだから,志の一つでも立てて,本を読んでみたらどうだろう.もちろん,読む本は慎重に選ばなければならない.

書はみだりに読むべからず.必ず択びかつ熟するところありて可なり.ただ要は終身受用せば足ると.

佐藤一斎「言志後録」

これを一生をかけて実践した人達がいる.

例えば,幕末から明治にかけて住友総理事を務めた広瀬宰平は,生涯一冊の本しか読まなかったという.彼が唯一読んだ本は,あの二宮尊徳が二度も買い求めた本でもある.その本とは,経典余師.儒学古典の入門書だ.このように,読むべき本というのはおおよそ決まっているものだ.だからこそ,それらは古典と言われる.

最後に,ノーブレス・オブリージ(noblesse oblige)について触れておきたい.そう,またこれだ.「感謝することと責任を果たすこと」などにも散々書いてきたが,これこそがエリートの条件だと思う.辞書的には「高い地位に伴う道徳的・精神的義務」ということになる.高い地位に就く人はそれなりの道徳的・精神的義務を負っていると考える人は少なくないだろう.この義務に関連して,本書で神渡良平氏が次のような指摘をしている.

上に立つ者にはそれ相応の責任もついてまわる.人間が万物の霊長だとすると,自分が稼ぐことだけではなく,万物の長,あるいは地球環境の長としての務めも忘れてはならない.

こういう視点で地球環境問題を捉えたことがあるだろうか.政治家の責任だとか,社長の責任だとか,そんなことは言えない.人間の責任だ.その責任を負うのが嫌だと言うのなら,人間をやめてしまうか.他人を批判するのは簡単だ.「他人の欠点はだいぶんバカにでも見える」.しかし,それで自分が偉くなったりすることは絶対にない.よく考えよう.

目次

  • 第一章  『言志四録』に鍛えられた人々
  • 第二章  志を養う
  • 第三章  自己を鍛える
  • 第四章  人生、二度なし!
  • 第五章  運命を切り拓く
6月 252011
 

七田式 21秒でできる!「簡単すぎる右脳習慣」
七田眞,ゴマブックス,2005

右脳教育についての勉強の続き.「夢と才能を育てる究極の脳力開花 七田式「魂の教育」」(七田眞,講談社)「1週間で身につく七田式奇跡の右脳習慣」(七田眞,阪急コミュニケーションズ)に続き,本書で3冊目となる七田式だ.

「1週間で身につく」というのも安っぽい宣伝文句だが,今度は「21秒でできる」とのこと.出版社は読者をバカにしているのだろう.ともかく,読んでみた.これまでに読んだ本との重複も多い.だが,良いことを書いていると思う.

本書「七田式 21秒でできる!「簡単すぎる右脳習慣」」で強調されているのは,もちろん右脳を活用することの重要性だが,そのためにはイメージすることが大切であると繰り返し書かれている.

私たちの内なる意識の世界も,目の前に広がる現実の世界も,波動によって作り上げられているということを見てとることのできる目を養いましょう.目に見えない波動の世界こそが,しかるべき本質の世界であり,目に見える世界はその影であると考えていただきたいのです.本質が動けば,影も動きます.たとえば,あなたが心から自分は今心から幸せだと感じ取っているとしましょう.すると,現実の世界も,あなたの波動に従って,あなたのイメージどおりに幸せに向かって動き始めるのです.

もしそうであるなら,当然,理想の自分,なりたい自分をイメージすることが重要になる.間違っても,ダメな自分や惨めな自分をイメージしている場合ではない.しかし現実には,ネガティブなイメージから離れられない人も少なくないのだろう.気の毒なことだ.

本書では,イメージするときのコツが紹介されている.その1つは,なりたい自分をイメージするとき,3つ先までイメージするということだ.野球の例で説明されているが,普通の人はイメージしろと言われると,例えばヒットを打つ自分をイメージする.三振する自分をイメージしたり,何もイメージしないよりは良いのだろうが,ヒットを打つ自分をイメージするだけでは不十分らしい.それは1ステップのイメージにすぎない.ヒットを打ち(1),球場が歓声に包まれ(2),試合に勝って皆で喜ぶ(3)というように,3つ先までイメージするのが良いそうだ.心掛けてみよう.

イメージというのは,知らず知らずの間に自分の行動に影響を及ぼしている.

私たちは普段,これまでの豊富な経験や知識から,何につけ「自分にはできない」「自分には難しい」といった思いにとらわれがちです.しかも,その思いこそが,結果的に自分の能力や可能性を本当に狭めてしまっていることになかなか気付くことができません.

これは真だ.本当にできないのではなく,本人ができないと信じているからできない(やりもしない)ということが多い.世に偉人と讃えられているような人々は,不可能だと言う他人の言葉に左右されず,自分はできると信じて,それを成し遂げた人々だ.自分で自分を閉じ込めてしまうのは何とも勿体ない.

そうは言っても,すぐには変身なんてできないと思う人もいることだろう.だから変身できないのだが,そういうと身も蓋もないので,こういうアドバイスが書かれている.

コミュニケーションが苦手だから心を開けないと思い込んでいるなら,たったひとつからでも,新しい習慣を取り入れていきましょう.たとえば人に対して笑顔で接してみる.笑顔で人に接するという習慣を作っただけでも,運命は変わり始めます.それだけで友人が変わり,恋人が変わり,ご家族が変わったりします.

いきなり変身する必要はない,まず何か1つ新しい習慣を取り入れましょうという勧めだ.これならできそうだと思えるのではないだろうか.

さらに本書「七田式 21秒でできる!「簡単すぎる右脳習慣」」では,アファメーション(affirmation)も紹介されている.一種の自己暗示だと思えばいいだろう.スピリチュアル系でよく登場するやつだ.本書では,次の7つについて,○○に自分で選んだ言葉を入れて使うことが勧められている.

  • 私は○○に興味を持つ
  • 私は○○のよいところを真似る
  • 私は○○で世の中に貢献する
  • 私は○○について大事なことを書き留める
  • 私の座右の書は○○だ
  • 私は○○という思いを○○に伝える
  • 私は○○と調和している

私の場合,「教育と研究で社会貢献する」と年中言いまくっている.自己暗示どころか,誰に対しても構わず言いまくっている.その効果がどうであるかは判断してもらえればいいだろう.少なくとも,ハッピー&ラッキーな研究者として大学に在籍していることは間違いない.

目次

  • ウォーミングアップ―幸せになるために右脳についてこれだけは知っておこう
  • イメージング―潜在意識を目覚めさせる右脳のイメージの力を使ってみよう
  • アクション―あなたの全身を使って「イメージ力」を人生に応用しよう
  • バランシング―あなたの幸せや成功の姿を「イメージ力」で方向づけよう
  • キーワード―「マイナスの思い」を「プラスの現実」に変えるため、自分に働きかけてみよう
  • トレーニング―なりたい自分になるための右脳を開いて豊かに生きるトレーニング
6月 222011
 

なぜ、国際教養大学で人材は育つのか
中嶋嶺雄,祥伝社,2010

2004年に日本初の公立大学法人として秋田県に設立された国際教養大学(Akita International University: AIU).その設立から携わった国際教養大学理事長・学長による宣伝本が本書「なぜ、国際教養大学で人材は育つのか」だ.開学理念に「卓越した英語力と幅広い教養を備えた,世界で活躍できる人材育成」を掲げる国際教養大学の学生教育は,確かに,日本の古臭い大学とは一線を画するものだ.

国際教養大学の凄さを如実に物語っているのは,就職活動について語った卒業生の言葉だろう.

他大学のみなさんが強みとしてアピールすることって,たいていアルバイトとかサークルなど学校外のことなんですね.でも,私たちは大学の中での経験が言えるんです.1年から4年まで真剣に勉強して,留学にも行って,本当にいろいろ経験しているし,そのぶん,苦労もいっぱい知っているので,結局,その経験の深さであったり,乗り越えたハードルの数が違うのかなと思います.

正直,学生が課外活動しかアピールできないような大学という場の存在意義とは何だろうかと思う.そういう意味で,学生にこのように発言させる大学というのは凄い.では,国際教養大学ではどのような教育が行われているのか.ポイントは,厳格な進級・卒業審査,英語での講義,海外留学,そして少人数教育だろう.

まず,成績評価について.国際教養大学では,欧米の大学と同様,GPAで学業成績を評価している.A+(100点)からF(59点以下)までの12段階評価で,D(60-65点)以上であれば,合格として単位が認定される.ただし,各科目の成績について,A+を4.0点,B(83-86点)を3.0点,C(73-76点)を2.0点,Dを1.0点,Fを0点と換算して,その加重平均であるGPAが4期連続で2.0を下回ると,アドバイザーとの面談が義務づけられ,改善されないようなら,休学や退学を勧告されることになる.60点取れば単位が認定され,誰からも文句を言われない大学とは覚悟が違う.

次に,英語での講義について.国際教養大学での講義はすべて英語で行われる.このため,入学後最初に,英語集中プログラム(EAP)の受講が義務づけられている.EAPを修了するにはTOEFLで500点以上を取らなければならず,このハードルをクリアして初めて,基礎教育科目を受講できる.本書によると,ほぼ全員が,春学期が終わる7月にはEAPを修了するとのことだ.

こうして培われた英語力を利用して,学生には1年間の海外留学も義務づけられており,提携大学で25-30単位を取得しなければならない.留学するための必要条件は,EAP修了,EAP以外に27単位取得,基礎科目のGPA2.5以上(平均80点以上に相当),TOEFL550点以上である.

最後に,少人数教育について.学生専任教員比率は15対1,学生数が50人を超える講義は2.3%にすぎず,20人未満の講義が78%を占める.国公立大学ならともかく,私立大学では決して望めない数字だろう.

本書「なぜ、国際教養大学で人材は育つのか」で中嶋学長が繰り返し強調しているのは,日本の大学の危機的状況と,それを覆すための語学を含む教養教育の重要性だ.このことは,開学理念が「卓越した英語力と幅広い教養を備えた,世界で活躍できる人材育成」であることからもわかる.

状況を改めるには,欧米の一流大学並みに,大学院教育を実のあるものにしなければなりません.それには,学士課程の教養教育の充実こそが必要です.高校を卒業したばかりで,世の中のこともよくわからない学生を,いきなり専門の狭い学問領域に押しやるような教養不在の学部教育をしていたのでは,高度な専門性を身につけるためのベースとなる,広く深い知的土台など築けるはずがないからです.語学力も含めて幅広い教養がなければ,高度な専門性は身につきません.学部での教養教育の再生がないまま,大学院の充実を求めても,成果は知れています.

21世紀の知的基盤社会を日本が生き抜いていくには,卓越した語学力と幅広い教養をベースに,高度な専門性を身につけた世界標準のエリートの育成が不可欠です.(中略)教養は,単に知識の量ではなく,人格形成とも深く関わっています.教養と格闘するからこそ個性的な自己発見があり,それが高い専門性の獲得,ひいては世界で通用するエリートの育成へとつながるのです.教養教育の大切さは,まさにその点にこそあります.

英語を操ることへの想いは強烈だ.優秀な留学生を日本へ惹きつけるためには,大学・大学院の英語化は避けられない.それができないなら,日本の大学は国際競争から脱落する.

「日本人の教員が,日本の学生だけを相手に,日本語で授業する」のがあたりまえの,言ってみれば「知の鎖国」としか言いようのない高等教育を続けている限り,優秀な留学生に,日本の大学へ来てもらうのはきわめて難しいでしょう.

海外の優秀な留学生に日本へ来てもらうことも重要だが,それよりも,日本の学生が極端に内向きになっていることが危惧される.実際,ハーバード大学・大学院の国別留学者数を1999年と2009年とで比較すると,日本は151人から101人へ減少しているのに対して,中国は227人から463人へ,韓国は183人から314人へと大幅に増加している.フラット化する世界において,これは国として危機的状況ではないだろうか.ニートだ何だと言われるが,日本の大学生はインターネット(日本語のみ)に張り付いて,日本に引き籠もっている.この状況を放置しておいてよいのか.

平気で「ネットで十分」などと言う.実際には,自分のほしい情報だけをせっせと集めているので,驚くほど知の土台が弱く,関心が狭い.特定の範囲に興味と情報が集中していて,幅広い教養や人間性を獲得できていない若者が多いのです.しかも不幸なことに,それを個性と勘違いし,「自分らしく生きたい」などと言う.これは結局,(中略)知的好奇心を育み,若者を海外へ雄飛させる大きな翼となるべき教養教育を,この国がないがしろにしてきたツケなのではないでしょうか.私たちの国際教養教育とは,外国語を含む幅広い教養を身につけ,世界へ飛躍できるような知的土台を築くことにあります.

国際教養大学の学生は,企業から高く評価されている.昨今の不況下にあっても,就職率はほぼ100%だという.英語に注目されるが,英語だけではない.

英語力より,私という人間を見てほしい-.そう堂々と主張できる強さ.それこそ国際教養大学の学生が,多くの企業から高く評価される所以ではないかと思います.

2004年に開学したばかりの新設田舎大学が,日本の大学教育に大きな風穴を開けた.しかし,世間から認められてしまうと,それが足枷にもなる.真価が問われるのは,これからだろう.中嶋学長も,その点を指摘している.

就職がいい,偏差値も高い.あの大学なら,いい会社に入れるに違いない-.どうも最近は,そんなふうに考えて国際教養大学を受験する学生が,かなり増えているようです.(中略)一番困るのは,「就職がいい」「高偏差値」という理由だけで,受験勉強ばかりのモヤシっ子みたいな優等生が増えて,いわゆる”偏差値大学”になってしまうことです.

今後の動向を注視したい.

目次

  • 人材は、厳しい環境で育つ
  • 就職率100%の秘密
  • 日本最先端の大学を秋田に作る
  • なぜ、国際教養が必要なのか
  • 企業の求める人材が変わった
  • 日本が沈まないために
6月 212011
 

超訳 ニーチェの言葉
フリードリヒ・ニーチェ(著),白取春彦(訳),ディスカヴァー・トゥエンティワン,2010

本書のような,○○の言葉とか,○○一日一言とかいうのを読むのは,明らかに手抜きであって,堕落している.古典の最初の一文だけを記憶する学校国語並みに堕落している.でもまあ,このような本をキッカケとして,お気に入りの言葉が書かれた本を読んでみるのなら,価値はあるってものだろう.

タイトルの通り,本書はニーチェの著作から彼の言葉232個を抜粋して並べたものだ.ちなみに,私はニーチェの著作をほとんど読んでいない.これまでに読んだのは「この人を見よ」だけだ.それでも,強烈な衝撃を受けたことを覚えている.「何者だ,こいつは?」と思ったものだ.

さて,いくつかの言葉を紹介してみよう.

腹を立てないためには,自分の評判や評価など気にしてはいけない.他人がどう思っているかなんてことに関心を向けては絶対にいけない.そうでないと,本当は嫌われているのに,部長だの社長だの先生だのと呼ばれることに一種の快感や安心を覚えるような人間になってしまう.

身の周りや世間で起きているいろいろな事柄に,そのつどごとに首を突っ込んでいると,結局は自分が空っぽになってしまう.

一日をよいスタートで始めたいと思うなら,目覚めたときに,この一日のあいだに少なくとも一人の人に,少なくとも一つの喜びを与えてあげられないだろうかと思案することだ.その喜びは,ささやかなものでもかまわない.そうして,なんとかこの考えが実現するように努めて一日を送ることだ.この習慣を多くの人が身につければ,自分だけが得をしたいという祈りよりも,ずっと早く世の中を変えていくことだろう.

心には,いつも喜びを抱いているように.これが人生で最も大切なことなのだから.

多くの人々を納得させたり,彼らに何らかの効果を及ぼしたいのなら,物事を断言すればいい.自分の意見の正当性を,あれやこれや論じてもだめだ.そういうことをすると,かえって多くの人々は不信を抱くようになるのだ.自分の意見を通したいなら,まずは断言することだ.

自分を称賛してくれるのは,自分と似たりよったりの人々だ.自分もまた,自分と似たりよったりの人を称賛するものだ.自分と同類の人間でないとうまく理解できないし,よしあしもよくわからない.また,自分とどこかで似ている相手を称賛することで,なんだか自分も認められているような気になるものだ.つまり,人間にはそれぞれのレベルというものがある.そのレベルの中で,理解や称賛,迂回した形での事故の認め合いが行われているというわけだ.

「隣人を愛せよ」このような言葉を聞いてもおおかたの人は,自分の隣人ではなく,隣人の隣に住む人,あるいはもっと遠くに住む人を愛そうとする.なぜならば,自分の隣人はうざったいからであり,愛したくないからである.にもかかわらず,遠くの人を愛することで,自分は隣人愛を実践していると思い込む.人は何事も自分のつごうのよいように解釈する.このことを知っていれば,いくら正論を並べても,それが実現化されることが少ないのが理解できるだろう.

何か奇抜なことをして衆目を集めるのが独創的な人物ではない.それは単なる目立ちたがり屋だ.たとえば,独創的な人間の特長の一つは,すでにみんなの目の前にあるのにまだ気づかれておらず名前さえ持たないものを見る視力を持ち,さらにそれに名称を新しく与えることができる,ということだ.名称が与えられて初めて,それが実際に存在していることに人間は気づくものなのだ.そうして,世界の新しい一部分が誕生してくる.

説得力のある論理的な文章を書くためにいくら文章技術を学んだとしても,論理的な文章を書けるようにはならない.自分の表現や文章を改善するためには,表現や文章の技術を取り込むのではなく,自分の頭の中を改善しなければならないからだ.このことがすぐにわからない人は,理解力が足らないのだからいつまでもわからず,どこまでも目先の技術にこだわり続けることになるだろう.

信念がある人というのはなんとなく偉いように思われているが,その人は,自分のかつての意見をずっと持っているだけであり,その時点から精神が止まってしまっている人なのだ.つまり,精神の怠惰が信念をつくっているというわけだ.

きちんと考える人になりたいのであれば,最低でも次の三条件が必要になる.人づきあいをすること.書物を読むこと.情熱を持つこと.これらのうちのどの一つを欠いても,まともに考えることなどできないのだから.

う~ん,なるほどなぁ~,と思わず唸ってしまうような言葉がいくつかあった.流石だ.

目次

  • 己について
  • 喜について
  • 生について
  • 心について
  • 友について
  • 世について
  • 人について
  • 愛について
  • 知について
  • 美について
6月 192011
 

小雨の中,京都コンサートホールで開催された京都市交響楽団のオーケストラ・ディスカバリー2011「オーケストラの世界!」に行ってきた.このオーケストラ・ディスカバリーは,今年で4年目(だったかな?)になるファミリー向けの人気コンサートで,チケットはかなり早い段階で完売となる.全4回のシリーズになっており,第1回である今回のテーマは「オーケストラ&バレエ」だ.京都市交響楽団によるフルオーケストラの演奏に加えて,バレエも鑑賞できるという優れもの.

指揮は京都市交響楽団常任指揮者の広上淳一氏.バレエは桧垣バレエ団.それに加えて,ナビゲーターとしてガレッジセールの2人も壇上に.実に面白いコンサートだった.「つま先でクルクルクルーッて何回もまわってたねぁ.凄かったねぇ.足痛くないの?目はまわらないの?」と,長男7歳と長女5歳も素晴らしいバレエのダンスに大喜びだった.ただし,「全然意味わからんかった」とのこと.何のダンスかは全くわかっていないようだ.

ちなみに,何のバレエだったかと言えば,曲目は以下の通り.

  • チャイコフスキー:バレエ「くるみ割り人形」から「花のワルツ」「中国の踊り」「あし笛の踊り」「トレパーク」
  • チャイコフスキー:バレエ「白鳥の湖」から「情景」「四羽の白鳥の踊り」「オデットと王子のパ・ド・ドゥ」
  • ドリーブ:バレエ「コッぺリア」(ダイジェスト版)

クラシックを聴かず,バレエなんて観たこともないという私みたいな非文化人でも知っている超有名な楽曲だ.曲名を見てパッとわからなくても,音楽を聴けば,聴いたことがあるのは間違いない.

個人的には,一度観てみたいと思っていた「白鳥の湖」を観られたのが凄く良かった.すべてにおいて,これぞバレエという,素人が想像する通りのバレエで,満足度が高い.

バレエのイメージを覆されたのは,後半の「コッぺリア」.バレエ衣装と言えば,女性の白いチュチュに,男性のタイツという先入観があったが,ラブ・コメディとでもいうのか,「コッぺリア」に登場する人物の衣装は実に様々で,劇を観ているようだった.こんなバレエもあるのだと,驚いたというか,感心したというか,とにかく良い経験をさせてもらった.

もう1つ,凄く勉強になったのが,バレエの特定の動作が特定の意味を持っているということだ.そんなことも知らなかったのかと言われそうだが,全く知らなかった.「くるみ割り人形」の「花のワルツ」が終わったところで,桧垣バレエ団のプリマバレリーナである小西さんから,広上氏とガレッジセールとのトークの中で,バレエの歴史などに加えて,バレエの動作で言葉を伝えていることの紹介があった.

その1つが,「私は美しい(またはイケメンな)貴方を愛しています」という動作だ.

  • 私は: 自分に手を向ける
  • 美しい(またはイケメンな): 手を顔の周りでグルグルまわす
  • 貴方を: 相手に手を向ける
  • 愛しています: 手を胸に当ててバクバクする

そして,この動作が何度も「コッぺリア」の中で登場する.「おぉー,これのことかぁ!確かに,やってる,やってる!」と感激できる.

イタリア語もフランス語もロシア語も全くできないが,これでバレリーナに告白はできる.

次回は「オーケストラ&ミュージカル」.大いに楽しみだ.

6月 092011
 

1週間で身につく七田式奇跡の右脳習慣
七田眞,阪急コミュニケーションズ,2006

右脳教育について勉強することに決めて最初に読んだのが「夢と才能を育てる究極の脳力開花 七田式「魂の教育」」(七田眞,講談社).これは主として子育てを対象にしていた.そこで今回は自分自身の能力開発について書かれている本を選んだ.

当然ながら,この種の本は読むだけでは価値がない.書かれていることを実行しないといけない.だから,本書が良いかどうかは実行してからしか判断しない.ここでは,本書「1週間で身につく七田式奇跡の右脳習慣」に書かれていることを簡単に紹介しよう.

「1週間で身につく」かどうかは定かでないが,7つの力を自分の味方にするための7つの習慣が紹介されている.「夢と才能を育てる究極の脳力開花 七田式「魂の教育」(七田眞,講談社)」にも書いたが,いわゆる引き寄せ系・波動系・スピリチュアル系の内容なので,好き嫌いはあるだろう.好きな人は,どこかで見聞きしたことがあるような内容が多いと感じるだろう.嫌いなら読まなければいい.

がんばらずに,自分らしく,自然の摂理にしたがって能力の次元を上昇させる.本書では,その考えにのっとって,私が今いちばんお伝えしたいマインドチューニング法をご紹介します.

第1のパワーは「統合脳の力」.左脳だけでなく右脳も活用するために,「子どもにかえる呼吸習慣」を身に付ける方法が紹介されている.シンプルな丹田呼吸法だ.ただし,イメージを重視している.

第2のパワーは「読書の力」.これを身に付けるために,「ひらめきの読書を実現する速読習慣」が紹介されている.速読につきもののアイ・トレーニング,周辺視野トレーニング,残像トレーニング,読んだ内容の1分間書き出しトレーニングから構成されている.

第3のパワーは「記述の力」.目標を紙に書くことで,意識を目標に集中させて,共時性(シンクロニシティ)を引き起こすという発想だ.ここで紹介されているのは,「ひらめきを言葉にする宣言習慣」を身に付けるための,ノート1ページ宣言法.

第4のパワーは「音楽の力」.高速かつ高周波の音を聞くことで脳を活性化させる.そのために,「心を落ち着けてモーツァルトを聴く音楽習慣」を身に付ける.ただし,普通に音楽を聴くのではなく,倍速あるいはそれ以上のスピードで聞く.この方法は,外国語の習得(特にヒアリング)にも効果があるとされている.

第5のパワーは「イメージの力」.右脳が秘めている能力を最大限に活用するため,「心を美しく保つ瞑想習慣」を身に付ける.紹介されているのは,変性意識に入るテクニックとリラックスするテクニック.本書では,ヘミシンクにも言及している.ヘミシンクとは,「ロバート・モンロー「体外への旅」―未知世界の探訪はこうして始まった!」(ロバート・モンロー,ハート出版)を起源として,体外離脱で有名な技術だ.

第6のパワーは「暗示の力」.ここで身に付けるのは「潜在能力を引き出す催眠習慣」で,自己催眠に入る方法が紹介されている.

第7のパワーは「波動の力」.自分の思念のレベル,波動のレベルを高めるために,祈りを用いる.身に付けるのは「人の役に立つ貢献習慣」だ.

あとがきには次のように書かれている.

心を痛めつける無理や苦労はやめましょう.心はいつもリラックスしていてください.その基本は,あなたが愛にあふれることです.自分の心と体を愛で満たすことです.まず,心から自分を好きになっていただきたい.その愛と同じだけ,あなたは周りの誰かを幸せにできます.

ピンと来ないようであれば,こう言い換えてもいいかもしれない.自分自身を愛せない人間は,他人を愛することも,自分や他人を幸せにすることもできない.

「奇蹟の右脳習慣」は,あなたがまずあなたに興味を持ち,愛するための本なのです.

そう.能力開発云々と言っているが,結局は,自分に自信を持てるかどうか,自分はハッピー&ラッキーだと思えるかどうかにかかっている.それができれば,望むような未来を切り開けるだろう.

目次

  • あなたを大きく飛躍させる右脳の力
  • 奇跡の右脳習慣―7つのマインドチューニング
6月 072011
 

水ビジネスの現状と展望 水メジャーの戦略・日本としての課題
服部聡之,丸善,2010

タイトルと中身がミスマッチで,正直なところ,期待はずれだった.

「水ビジネスの現状と展望」というよりは,「水道事業の歴史と現状」が相応しいように思う.ヴェオリア・ウォーター,スエズ・エンバイロメント,テムズ・ウォーター,ゼネラル・エレクトリック,シーメンスといった水メジャーの動向についてのまとめや,水道事業民営化の失敗事例は非常に興味深かったが,本書の半分は上下水道の歴史と仕組みの解説に割かれている.もちろん,そのような基礎的知識の必要性は認めるが,期待した水ビジネスの展望に関する記述が貧弱だ.

実際,「あとがき」には次のように書かれている.

国民の血税を使って得たそうした貴重な財産を,今後わが国の産業戦略としていかに活用してゆくか,そのことについては,また別の機会に述べたいと思っている.

割愛されてしまったその内容こそが,本書タイトルの「水ビジネスの展望」ではないかと思うのだが...

水道事業についてまとめられた解説書としては良い出来だと思う.その点にケチをつけるつもりはない.ただ,タイトルに惹かれて読んだために,内容が期待はずれだったということだ.

目次

  • 公益事業として上下水道-各国の制度比較
  • 日本の上下水道事業の経営状況
  • 日本の上下水道事業における今後の課題
  • 水問題に対する世界的な取組み
  • 世界の「水メジャー」の戦略
  • 水道事業民営化の課題
  • 深刻化する水不足-新規ビジネスが期待される国々
  • 上水道の歴史
  • 上水道の仕組み
  • 下水道の歴史
  • 下水道の仕組み
  • 水道水の安全性-飲み水は安全か
  • 下水道の安全性-水辺は蘇るか
6月 072011
 

グリーン革命〔増補改訂版〕(下)
トーマス・フリードマン(著),伏見威蕃(訳),日本経済新聞出版社,2010

ずばりといってしまおう.この手の電力会社は,土木建築によって儲けている-発電所や高圧送電線を増やして,いまよりも多い顧客にもっと多く電気を売ったほうが,利益が上がる-なぜなら,監督機関がそういった資本支出を基準に料金を上げてくれるからだ.資本を投下すればするほど,儲けが増える.あらたな資本投下は,需要の増大という大義名分で正当化する必要があるので,電力会社には消費を増やそうとする下心がある.消費の増加はさらなる投資と発電所建設を促し,それによって収益が増える.このサイクルが,条件反射としてしみついている.

これは電力会社の実態を指摘したものである.もちろん米国の話ではあるが,日本も同じようなものだ.電力会社は地球環境問題もエネルギー問題も解決しようとはしない.では,どうすればよいのか.著者自身が本書「グリーン革命」で最も重要な主張をまとめてくれている.

この本から1つだけ採用するのであれば,これを採用してほしい.規制によってエネルギー気候紀元の問題から脱け出すことはできない.脱け出すにはイノベーションが必要だし,そういうイノベーションを生み出すには,もっとも効率的で多くの実を結ぶシステムを動員するほかに方法はない.つまり,大変革をもたらすようなイノベーションを生み出し,地球上で創り出された新製品を商品化するには,アメリカという市場を利用しなければならない.母なる自然よりも大きなものはただ1つ-それは父なる儲けだ.

グリーン革命〔増補改訂版〕(上)」では,地球環境問題の深刻さが指摘され,人類は石油中毒から脱却し,再生可能エネルギーの開発と利用を促進する必要があると強調されている.続く下巻では,そのための具体的な方策として,再生可能エネルギーへのシフトに必要なイノベーションを起こすために市場経済を利用すべきだと繰り返されている.

クリーンパワー・テクノロジーが,現在は優勢な汚い燃料と競争し,互角に闘えるように,市場を作り直す必要がある.それをやる唯一の方法は,税制や優遇策の充実である.

日本では,原子力発電所の危険性(日本の原子力専門家は原子力発電所を管理運営する能力を技術的にも倫理的にも持ち合わせていないこと)が事故で明らかとなったにも関わらず,原子力発電を推進したい人達や原子力発電の経済合理性を主張する人達が少なくない.私の意見は「原子力発電の社会的費用を無視し続けるなら,我々は軽蔑すべき世代として歴史に刻まれよう」に書いたので繰り返さないが,とんでもなく近視眼的に物事を見ない限り,原子力発電に経済合理性があるなどということにはならないだろう.

再生可能エネルギーが現時点でコスト高になっているのは,コストを低くするイノベーションが動機付けられてこなかったからにすぎない.安い石油が市場にあふれ,原子力が安いと騙され,地球環境の悪化など他人事だった時代の名残だ.本書「グリーン革命」で繰り返し強調されているように,税制や優遇策の充実によって,再生可能エネルギーへの誘導が本気でなされるなら,状況は劇的に変化するだろう.

例えば,次のようなアメリカでの例が挙げられている.

アメリカの同盟国で民主主義国でもあるブラジルから輸入しているサトウキビが原料のエタノールに,アメリカ政府は1ガロン当たり54セントの関税を課し,そのいっぽうで,9・11同時多発テロの実行犯のほとんどの出身地であるサウジアラビアから輸入している原油には,1ガロン当たり1.25セントしか課税していない.これでは自由市場とはいえない.

このようなことが平然と行われているから,いつまで経ってもアメリカは汚い国のままだ.日本はそうであってはならない.むしろ,今回の大震災と原発事故を契機として,日本は再生可能エネルギーで世界をリードする立場を目指すべきだ.それが実現されれば,万事塞翁が馬という諺が,ここでも正しかったということになるだろう.

ちなみに,アメリカは道を誤った.トーマス・フリードマンは次のように指摘している.

ジョージ・W・ブッシュ大統領とその政権は,エアコンの冷却効率や自動車の燃費について厳しい効率基準を課さないのは,アメリカ企業を護るためだと主張した.企業寄りを自認していた政権としては,当然の反応だったろう.だが,おろかな反応でもあった.アメリカは世界最高の大学と国立研究所を擁し,世界最高のテクノロジー基盤がある,世界最高のイノベーションの国なのだから,より高い基準を求めるべきだった-劣った国の企業はその基準を満たせないが,アメリカ企業はそこに到達できるのだから.アメリカのエアコン・メーカーは,どうして劣った基準を求めてロビー活動をするのか? そんなことをすれば,効率の悪くコストの低い中国製のエアコンが,アメリカで競争力を強めるだけだ.

日本にも技術力がある.3月11日までは,その技術の中に原子力も含まれていた.だが,それは過去の話だ.これからは,原子力を除く再生可能エネルギーで日本は世界をリードすればいい.

アメリカ人も大嫌いなブッシュ大統領の後,オバマ大統領の治世となり,アメリカも変化しつつある.福島原発事故の後,世界は大きく変わりつつある.本書「グリーン革命」では,クリーンな社会実現に向けた取り組みがいくつも紹介されている.

使用エネルギーを3分の2削減できるビルを設計・施行するノウハウが当社にはあります.電気の需要を3分の2削減できれば,残り3分の1は太陽光,風力,無電源照明,地熱でまかなえます.将来のビルはネットプラスで,使用するよりも発電する電気のほうが多く,余剰分は電気自動車が使うというのが理想です.

ZETAコミュニティズとカルスターの創業者ポラット

2009年,EUは加盟国のすべてで2018年以降に新築されるビルは,1つ残らずエネルギー消費がネットゼロでなければならないと発表した! そこで消費されるエネルギーは,ソーラーパネル,ヒートポンプなどのテクノロジーを使って,すべてそこで生産しなければならない.ゼロエネルギー・ビルについてEUは,「その建物のきわめて高いエネルギー効率により,年間の主要エネルギー消費がその場での再生可能エネルギー源によるエネルギー生産とおなじか,それを下回るもの」と定義している.

2007年5月22日,環境意識の高い市長として知られるニューヨークのマイケル・ブルームバーグ市長は,これをさらに推し進めて新法を提案し,タクシー委員会もこれを承認した.新しい法律はハイブリッド車の使用を認めるのみならず,5年以内にすべてのタクシーを,燃費が1ガロン当たり30マイル以上のハイブリッド車その他のCO2低排出車に切り替えることを求めている.

さあ,日本はどのような方向に舵を切るだろうか.政治は完全に機能不全に陥っていてどうしようもないが,彼らは国民の代表なのだから,国民はその惨めな姿を直視する義務がある.あれが我々の姿だ.それを恥と思うなら,自分を見直そう.恥じることはないか.

さて,本書「グリーン革命」で印象に残った言葉がある.「石器時代が終わったのは,石がなくなったからではない」というものだ.この教訓を賢く応用したい.

サウジアラビアの石油相,故シャイフ・アハメド・ヤマニは同盟国の石油相たちに,原油価格をあまり急激に上げないようにと注意した.西側の政府と市場がそれに対応して,風力,太陽熱その他の再生可能エネルギーの大規模なイノベーションが引き起こされるのを怖れたからだ.ヤマニがOPECで仲間に語ったのは,つぎのような言葉だったと伝えられている.「きみたち,忘れてはいかんよ.石器時代が終わったのは,石がなくなったからではない」

目次

第三部 前進の道すじ

  • 地球を救う二〇五の簡単な方法
  • エネルギー・インターネット――ITがETと出会うとき
  • 石器時代が終わったのは、石がなくなったからではない
  • グリーンは退屈なもの
  • 一〇〇万人のノア、一〇〇万隻の方舟
  • アルカイダにグリーンで勝つ(一つ買えばおまけが四つ)

第四部 中国

  • 赤い中国はグリーンな中国になれるか?

第五部 アメリカ

  • 一日だけ中国になる(でも二日はだめ)
  • 民主的な中国か、それともバナナ共和国か?
6月 042011
 

グリーン革命〔増補改訂版〕(上)
トーマス・フリードマン(著),伏見威蕃(訳),日本経済新聞出版社,2010

先に読んだ「フラット化する世界」を気に入ったので,次に本書「グリーン革命」を読むことにした.タイトル通り,地球環境・エネルギー・資源問題に関する力作で,上巻では,まず,「不都合な真実」(アル・ゴア,ランダムハウス講談社,2007)ほど感情的ではないが,現在の地球環境や人類の置かれた現実がどれほど深刻なものであるかを説明している.そして下巻で,人類がこの危機を乗り越えるための筋道を示している.

まずは,現状に関する記述から確認しておこう.

2003年7月から8月にかけてのヨーロッパの熱波では摂氏37,8度がずっとつづき,35000人が死んだ.この熱波は,100年に一度の異常気象だと見なされた.私たちが気候をもてあそびはじめる前は,250年に一度の異常気象だと考えられた.いまできあがっているモデルでは,2050年にはそれは2年に一度の出来事になり,2070年には,ヨーロッパの夏としては涼しいほうにはいるだろうとしている.

一般に知られている”地球温暖化”という言葉は,間違った用語だ.気温のみが,おそらくは穏やかな流れで,一律に,徐々に変わるという印象を与える.地球の気候に起きていることは,そんなやさしいことじゃない.地域によっても差が大きい.これまでの歴史の気候変動と比べると,とてつもなく速い変化だし,生態系や人間社会の順応が追いつかないほど速い.(中略)スマートではないかもしれないが,”地球温暖化”よりも”地球気候の崩壊”といったほうが正確だろう.

ハーバード大学の気象学者ジョン・ホルドレン

この「地球気候の崩壊」の渦中で我々人類は何をやっているのか.

自然界でも金融業界でも,重要な役割を果たす個人と企業の責任意識が大幅に衰えた.金融業界全体が不正な経理にいそしみ,個人,銀行,投資会社がリスクを計画的に過小評価し,利益を私物化し,損失を国有化させて国に押しつけた.一般大衆はそういう事情をあずかり知らなかった.

私たちの生活水準向上のやり方は,子供たちにそのまま引き継がせることはできない.私たちは手持ちの自然-水,炭化水素,森,川,魚,耕作可能な土地-を使い果たしながら豊かになり,再生可能な流れを生み出してこなかった.この略奪的な姿勢で築いた富を楽しむのもいいだろう.しかし,それはかならず崩れ去る.大人が立ちあがって,”これはネズミ講だ.真の富を生み出していないし,生存できる気候を破壊している…”といわないかぎり,そうなるだろう.真の富とは,他人にも楽しめるように伝えられるものでなければならない.

物理学者ジョセフ・ロム

世界銀行によれば,インド,中国,中東各国の政府だけでも,自動車用ガソリン,料理と暖房のための灯油,家庭と工場の電気への助成金を2007年度には500億ドル支出している.こうした国は,エネルギーをグローバルな価格で買い,割り引いた価格で国民に売り,その差額を国家予算でまかなっている.価格を人為的に下げ,需要を人為的に上げているわけだ.

現在の私たちのリサイクルには,高品質だったり大型だったりするコンピュータ,電子機器,箱,自動車を,より低品質のあまり複雑ではない製品に作り変える-そして,いずれは捨てる,という手法が使われている.これはほんとうのリサイクルではなく”ダウンサイクリング”だと,マクダナーとブラウンガートはいう.廃棄物にして資源を枯渇させるのを,ただスローモーションでやっているにすぎない,と.

今この瞬間にも日本が抱えている原子力発電問題も,同じ構図だ.既に「問題は,コストとリスクの過小評価,利益の私物化,損失の国有化」に書いたので繰り返さないが,「原子力発電の社会的費用を無視し続けるなら,我々は軽蔑すべき世代として歴史に刻まれよう」.

随分と以前から,日本とは異なる方向に舵を切った国もある.例えば,デンマークだ.

原子力についても,かなり議論したのですが,1985年に,その方向には行かないことを決めました.そうではなく,エネルギー効率を高め,再生可能エネルギーを利用することにしたのです.税制をうまく使ってエネルギーを割高にすることで,国民が家庭で節約し,もっと有効に使うように仕向けたのです…国家の意思でそういう結果を出したのです.(中略)1981年からいままでのあいだに,デンマーク経済は70パーセント成長しましたが,エネルギー消費はずっとほぼおなじです.(中略)雇用創出にもプラスの影響がありました.たとえば,風力発電産業ですが,1970年代には,ほとんどゼロでした.いまでは,世界の陸上風力タービンの三分の一がデンマーク製です.目覚めた産業界が,これがわが国の利益に結びつくと見たのです.他の国もこぞってそれをやるはずですから,はじめて創りあげたことは今後も私たちの利点でありつづけるでしょう.(中略)1973年のデンマークは,エネルギーの99パーセントを中東から輸入していました.現在ではゼロです.

デンマーク気候エネルギー大臣コニー・ヘデゴー

さて,重要なのは,次の点だ.

歴史をふりかえると,大きな難問を解決する大きな方策を思いついたり,創り出したりした国は,その後の時代をリードしている.そして,適応できなかった国は,隅に押しやられて滅びる.

もちろん,トーマス・フリードマンは「このエネルギー気候紀元にあって,アメリカは前者にならなければならない」と宣言している.私はこう言おう.「このエネルギー気候紀元にあって,日本は前者にならなければならない」と.しかも,日本の優秀な企業は世界トップクラスの技術を保有しているのだから,尚更だ.

我々は地球環境を守るためにも,人類を守るためにも,そして日本が世界をリードしていくためにも,石油依存体質から脱却し,再生可能エネルギーへとシフトしていく必要がある.近視眼的な経済合理性論者は「隅に押しやられて滅びる」だろう.

石油中毒という観点で言えば,アメリカは日本の比ではない.アメリカは世界で最悪の国だろう.トーマス・フリードマンも強い懸念と不快感を示している.

インドや中国のエネルギーや資源の消費をあげつらうのは勝手だが,私たちアメリカ人がいまなお世界最大のエネルギーを食う豚であることを忘れてはならない.

石油中毒からの脱却は,環境のためだけに必要なのではない.戦略上の必須事項なのだ.私たちが,あらゆる意味で自由に息を吸うためには,世界の石油と天然ガスの需要を減らさなければならない.アメリカ自身の石油依存は,国内と世界中のもっと悪い潮流を引き起こしている.私が思いつくどんな要素よりも,それに影響を及ぼしている.アメリカの石油中毒は,地球温暖化を促進し,石油独裁者の勢いを強め,きれいな空気を汚し,民主主義国の勢いを弱め,過激なテロリストを富ませる.

私はつぎのような仮説をともなう石油政治の第一法則を提案する.石油資源が豊富な産油国では,原油価格と自由化の度合いが,逆の動きを示している.すなわち,世界の原油価格が上昇すると,言論の自由,報道の自由,自由で公正な選挙,集会の自由,政府の透明性,司法の独立,法の支配,独立した政党やNGOの結成が蝕まれる.こうしたマイナスの傾向は,原油価格が上昇すると,石油主義者の指導者が国際社会の評判を意に介さなくなることによって強まる.国内治安部隊を増強し,政敵を買収し,票や国民の支援を金で買い,国際的な規範に抵抗するのに使える余分な金が増えるからだ.

イランの民主主義運動家や改革主義者に必要なのは,私たちの賞賛ではない.銃弾を一発も発射することなくイランを支配している神権政治家たちの力をほんとうに弱めて,国民の足かせが解かれるようにするために,私たちができるたった一つのことを,彼らは必要としている.それは,イランの独裁政治の資金源となっている私たちの石油中毒を終わらせることだ.

本書「グリーン革命」において,クリーンエネルギー生成のための戦略と地球の生物の多様性を維持する戦略の両方を含む「コード・グリーン」を提唱しているトーマス・フリードマンは,発展途上国のあらゆる問題はエネルギー問題でもあると言い切っている.

発展途上国のあらゆる問題は,エネルギー問題でもある.教育の問題は,教師不足と-エネルギー不足だ.サハラ以南の国での健康の問題は,医師と医薬品の不足と-医療機器を動かし,医薬品を冷蔵庫で保存するためのエネルギー不足だ.インド農村部の失業は,スキル不足と投資不足と-工場を動かすのに必要なエネルギーの不足だ.バングラデシュの農業の弱点は,種,肥料,土地の不足と-水を汲むポンプや農機のエネルギーの不足だ.

インドと中国の人々が,村を捨てて,家族とともに大都市で窮屈な暮らしをするのは,それが好きだからではない.たいがいの場合,仕事やビジネスチャンスが大都市にしかないからだ.それはある程度まで事実ではあるが,サティヤムがやったようなこと-エネルギー・教育・接続・投資という生態系-を村に導入できれば,そうともいい切れないようにすることができる.持続可能な村ができあがる.私たちは多くの持続可能な村をつくらなければならない.一つの村を機能するようにするたびに,村に多く住む貧困層を助けるだけではなく,世界のバランスそのものを改善できる.だが,村が機能するためには,地方に住む人々に力をあたえ,グローバルに活動できるようにする必要がある.ビジネスチャンスと利用機会をあたえなければならない.だが,力をあたえるには,パワー-電力を必要とする.

国際的な大都市である東京にしても,計画停電で大混乱に陥った.電力がなければ現代の都市は成り立たない.

だから,クリーンな方法で電力を創り出さなければならない.それがすべての問題の解決に繋がる.だからこそ,「グリーン革命」なのだ.

私たちがこの地球に行ってきたことのつけを,もはや隠しておくことはできない.(中略)私たちは変わる必要がある.(中略)この必要からビジネスチャンスが生まれるのだ.クリーンで信頼できる安くて豊富な電気の最大の源を提供できる企業,コミュニティ,国は,21世紀初頭の世界を蝕んでいる大きな難問5つをすべて解決することになる.クリーンで信頼できる安くて豊富な電気があれば,エネルギーと天然資源の供給と需要の逼迫を大幅に緩和でき,石油独裁主義を揺るがし,気候変動を軽減し,生物の多様性の喪失を一気に抑え,エネルギー貧困を撲滅できる.(中略)クリーンで信頼できる安くて豊富な電気を探求することが,次世代の偉大なグローバル産業なのだ.そうでなければならない.この産業をET-エネルギー・テクノロジー-と呼ぼう.ETは新生ITだ.

私たちが国家として,また文明として,現在抱えているやりがいのある課題は,まさにそれができる-普通の人間がクリーンエネルギーの発生と消費において驚異的なことをやれる-ようなクリーンエネルギー・システムを開発することだ.それを通じて,普通の人間がエネルギーの需要と供給,石油独裁主義,気候変動,生物多様性の喪失,エネルギー貧困を緩和することができる.だが,そのシステムがなければ,解決策もない.政治家が”再生可能エネルギー”と唱えるのを聞いたら,背を向けたほうがいい.政治家が”再生可能エネルギー・システム”と唱えるのを聞いたなら,話を聞いてもいい.私の考えでは,このクリーンエネルギー・システムは,組み合わさってお互いを強化する5つのパーツから成っている.クリーンな電気の創出,エネルギー効率の増大,世界中での家族計画の普及,自然保護の倫理の浸透,すでに私たちの未来に組み込まれている気候変動への適応準備.

ここまでが上巻.

目次

第一部 市場と母なる自然が壁にぶち当たるとき

  • 市場と自然の同時崩壊
  • 無能がいちばん
  • リ・ジェネレーション

第二部 現状

  • エネルギー気候紀元
  • アメリカ人が多すぎる――エネルギーと資源の需要と供給
  • 独裁者を満タンにしつづけるのか?――石油政治
  • 地球惑乱――気候変動
  • ノアの時代――生物の多様性
  • エネルギー貧困
  • グリーンこそがアメリカの新しい旗印