6月 042011
 

グリーン革命〔増補改訂版〕(上)
トーマス・フリードマン(著),伏見威蕃(訳),日本経済新聞出版社,2010

先に読んだ「フラット化する世界」を気に入ったので,次に本書「グリーン革命」を読むことにした.タイトル通り,地球環境・エネルギー・資源問題に関する力作で,上巻では,まず,「不都合な真実」(アル・ゴア,ランダムハウス講談社,2007)ほど感情的ではないが,現在の地球環境や人類の置かれた現実がどれほど深刻なものであるかを説明している.そして下巻で,人類がこの危機を乗り越えるための筋道を示している.

まずは,現状に関する記述から確認しておこう.

2003年7月から8月にかけてのヨーロッパの熱波では摂氏37,8度がずっとつづき,35000人が死んだ.この熱波は,100年に一度の異常気象だと見なされた.私たちが気候をもてあそびはじめる前は,250年に一度の異常気象だと考えられた.いまできあがっているモデルでは,2050年にはそれは2年に一度の出来事になり,2070年には,ヨーロッパの夏としては涼しいほうにはいるだろうとしている.

一般に知られている”地球温暖化”という言葉は,間違った用語だ.気温のみが,おそらくは穏やかな流れで,一律に,徐々に変わるという印象を与える.地球の気候に起きていることは,そんなやさしいことじゃない.地域によっても差が大きい.これまでの歴史の気候変動と比べると,とてつもなく速い変化だし,生態系や人間社会の順応が追いつかないほど速い.(中略)スマートではないかもしれないが,”地球温暖化”よりも”地球気候の崩壊”といったほうが正確だろう.

ハーバード大学の気象学者ジョン・ホルドレン

この「地球気候の崩壊」の渦中で我々人類は何をやっているのか.

自然界でも金融業界でも,重要な役割を果たす個人と企業の責任意識が大幅に衰えた.金融業界全体が不正な経理にいそしみ,個人,銀行,投資会社がリスクを計画的に過小評価し,利益を私物化し,損失を国有化させて国に押しつけた.一般大衆はそういう事情をあずかり知らなかった.

私たちの生活水準向上のやり方は,子供たちにそのまま引き継がせることはできない.私たちは手持ちの自然-水,炭化水素,森,川,魚,耕作可能な土地-を使い果たしながら豊かになり,再生可能な流れを生み出してこなかった.この略奪的な姿勢で築いた富を楽しむのもいいだろう.しかし,それはかならず崩れ去る.大人が立ちあがって,”これはネズミ講だ.真の富を生み出していないし,生存できる気候を破壊している…”といわないかぎり,そうなるだろう.真の富とは,他人にも楽しめるように伝えられるものでなければならない.

物理学者ジョセフ・ロム

世界銀行によれば,インド,中国,中東各国の政府だけでも,自動車用ガソリン,料理と暖房のための灯油,家庭と工場の電気への助成金を2007年度には500億ドル支出している.こうした国は,エネルギーをグローバルな価格で買い,割り引いた価格で国民に売り,その差額を国家予算でまかなっている.価格を人為的に下げ,需要を人為的に上げているわけだ.

現在の私たちのリサイクルには,高品質だったり大型だったりするコンピュータ,電子機器,箱,自動車を,より低品質のあまり複雑ではない製品に作り変える-そして,いずれは捨てる,という手法が使われている.これはほんとうのリサイクルではなく”ダウンサイクリング”だと,マクダナーとブラウンガートはいう.廃棄物にして資源を枯渇させるのを,ただスローモーションでやっているにすぎない,と.

今この瞬間にも日本が抱えている原子力発電問題も,同じ構図だ.既に「問題は,コストとリスクの過小評価,利益の私物化,損失の国有化」に書いたので繰り返さないが,「原子力発電の社会的費用を無視し続けるなら,我々は軽蔑すべき世代として歴史に刻まれよう」.

随分と以前から,日本とは異なる方向に舵を切った国もある.例えば,デンマークだ.

原子力についても,かなり議論したのですが,1985年に,その方向には行かないことを決めました.そうではなく,エネルギー効率を高め,再生可能エネルギーを利用することにしたのです.税制をうまく使ってエネルギーを割高にすることで,国民が家庭で節約し,もっと有効に使うように仕向けたのです…国家の意思でそういう結果を出したのです.(中略)1981年からいままでのあいだに,デンマーク経済は70パーセント成長しましたが,エネルギー消費はずっとほぼおなじです.(中略)雇用創出にもプラスの影響がありました.たとえば,風力発電産業ですが,1970年代には,ほとんどゼロでした.いまでは,世界の陸上風力タービンの三分の一がデンマーク製です.目覚めた産業界が,これがわが国の利益に結びつくと見たのです.他の国もこぞってそれをやるはずですから,はじめて創りあげたことは今後も私たちの利点でありつづけるでしょう.(中略)1973年のデンマークは,エネルギーの99パーセントを中東から輸入していました.現在ではゼロです.

デンマーク気候エネルギー大臣コニー・ヘデゴー

さて,重要なのは,次の点だ.

歴史をふりかえると,大きな難問を解決する大きな方策を思いついたり,創り出したりした国は,その後の時代をリードしている.そして,適応できなかった国は,隅に押しやられて滅びる.

もちろん,トーマス・フリードマンは「このエネルギー気候紀元にあって,アメリカは前者にならなければならない」と宣言している.私はこう言おう.「このエネルギー気候紀元にあって,日本は前者にならなければならない」と.しかも,日本の優秀な企業は世界トップクラスの技術を保有しているのだから,尚更だ.

我々は地球環境を守るためにも,人類を守るためにも,そして日本が世界をリードしていくためにも,石油依存体質から脱却し,再生可能エネルギーへとシフトしていく必要がある.近視眼的な経済合理性論者は「隅に押しやられて滅びる」だろう.

石油中毒という観点で言えば,アメリカは日本の比ではない.アメリカは世界で最悪の国だろう.トーマス・フリードマンも強い懸念と不快感を示している.

インドや中国のエネルギーや資源の消費をあげつらうのは勝手だが,私たちアメリカ人がいまなお世界最大のエネルギーを食う豚であることを忘れてはならない.

石油中毒からの脱却は,環境のためだけに必要なのではない.戦略上の必須事項なのだ.私たちが,あらゆる意味で自由に息を吸うためには,世界の石油と天然ガスの需要を減らさなければならない.アメリカ自身の石油依存は,国内と世界中のもっと悪い潮流を引き起こしている.私が思いつくどんな要素よりも,それに影響を及ぼしている.アメリカの石油中毒は,地球温暖化を促進し,石油独裁者の勢いを強め,きれいな空気を汚し,民主主義国の勢いを弱め,過激なテロリストを富ませる.

私はつぎのような仮説をともなう石油政治の第一法則を提案する.石油資源が豊富な産油国では,原油価格と自由化の度合いが,逆の動きを示している.すなわち,世界の原油価格が上昇すると,言論の自由,報道の自由,自由で公正な選挙,集会の自由,政府の透明性,司法の独立,法の支配,独立した政党やNGOの結成が蝕まれる.こうしたマイナスの傾向は,原油価格が上昇すると,石油主義者の指導者が国際社会の評判を意に介さなくなることによって強まる.国内治安部隊を増強し,政敵を買収し,票や国民の支援を金で買い,国際的な規範に抵抗するのに使える余分な金が増えるからだ.

イランの民主主義運動家や改革主義者に必要なのは,私たちの賞賛ではない.銃弾を一発も発射することなくイランを支配している神権政治家たちの力をほんとうに弱めて,国民の足かせが解かれるようにするために,私たちができるたった一つのことを,彼らは必要としている.それは,イランの独裁政治の資金源となっている私たちの石油中毒を終わらせることだ.

本書「グリーン革命」において,クリーンエネルギー生成のための戦略と地球の生物の多様性を維持する戦略の両方を含む「コード・グリーン」を提唱しているトーマス・フリードマンは,発展途上国のあらゆる問題はエネルギー問題でもあると言い切っている.

発展途上国のあらゆる問題は,エネルギー問題でもある.教育の問題は,教師不足と-エネルギー不足だ.サハラ以南の国での健康の問題は,医師と医薬品の不足と-医療機器を動かし,医薬品を冷蔵庫で保存するためのエネルギー不足だ.インド農村部の失業は,スキル不足と投資不足と-工場を動かすのに必要なエネルギーの不足だ.バングラデシュの農業の弱点は,種,肥料,土地の不足と-水を汲むポンプや農機のエネルギーの不足だ.

インドと中国の人々が,村を捨てて,家族とともに大都市で窮屈な暮らしをするのは,それが好きだからではない.たいがいの場合,仕事やビジネスチャンスが大都市にしかないからだ.それはある程度まで事実ではあるが,サティヤムがやったようなこと-エネルギー・教育・接続・投資という生態系-を村に導入できれば,そうともいい切れないようにすることができる.持続可能な村ができあがる.私たちは多くの持続可能な村をつくらなければならない.一つの村を機能するようにするたびに,村に多く住む貧困層を助けるだけではなく,世界のバランスそのものを改善できる.だが,村が機能するためには,地方に住む人々に力をあたえ,グローバルに活動できるようにする必要がある.ビジネスチャンスと利用機会をあたえなければならない.だが,力をあたえるには,パワー-電力を必要とする.

国際的な大都市である東京にしても,計画停電で大混乱に陥った.電力がなければ現代の都市は成り立たない.

だから,クリーンな方法で電力を創り出さなければならない.それがすべての問題の解決に繋がる.だからこそ,「グリーン革命」なのだ.

私たちがこの地球に行ってきたことのつけを,もはや隠しておくことはできない.(中略)私たちは変わる必要がある.(中略)この必要からビジネスチャンスが生まれるのだ.クリーンで信頼できる安くて豊富な電気の最大の源を提供できる企業,コミュニティ,国は,21世紀初頭の世界を蝕んでいる大きな難問5つをすべて解決することになる.クリーンで信頼できる安くて豊富な電気があれば,エネルギーと天然資源の供給と需要の逼迫を大幅に緩和でき,石油独裁主義を揺るがし,気候変動を軽減し,生物の多様性の喪失を一気に抑え,エネルギー貧困を撲滅できる.(中略)クリーンで信頼できる安くて豊富な電気を探求することが,次世代の偉大なグローバル産業なのだ.そうでなければならない.この産業をET-エネルギー・テクノロジー-と呼ぼう.ETは新生ITだ.

私たちが国家として,また文明として,現在抱えているやりがいのある課題は,まさにそれができる-普通の人間がクリーンエネルギーの発生と消費において驚異的なことをやれる-ようなクリーンエネルギー・システムを開発することだ.それを通じて,普通の人間がエネルギーの需要と供給,石油独裁主義,気候変動,生物多様性の喪失,エネルギー貧困を緩和することができる.だが,そのシステムがなければ,解決策もない.政治家が”再生可能エネルギー”と唱えるのを聞いたら,背を向けたほうがいい.政治家が”再生可能エネルギー・システム”と唱えるのを聞いたなら,話を聞いてもいい.私の考えでは,このクリーンエネルギー・システムは,組み合わさってお互いを強化する5つのパーツから成っている.クリーンな電気の創出,エネルギー効率の増大,世界中での家族計画の普及,自然保護の倫理の浸透,すでに私たちの未来に組み込まれている気候変動への適応準備.

ここまでが上巻.

目次

第一部 市場と母なる自然が壁にぶち当たるとき

  • 市場と自然の同時崩壊
  • 無能がいちばん
  • リ・ジェネレーション

第二部 現状

  • エネルギー気候紀元
  • アメリカ人が多すぎる――エネルギーと資源の需要と供給
  • 独裁者を満タンにしつづけるのか?――石油政治
  • 地球惑乱――気候変動
  • ノアの時代――生物の多様性
  • エネルギー貧困
  • グリーンこそがアメリカの新しい旗印

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