6月 072011
 

水ビジネスの現状と展望 水メジャーの戦略・日本としての課題
服部聡之,丸善,2010

タイトルと中身がミスマッチで,正直なところ,期待はずれだった.

「水ビジネスの現状と展望」というよりは,「水道事業の歴史と現状」が相応しいように思う.ヴェオリア・ウォーター,スエズ・エンバイロメント,テムズ・ウォーター,ゼネラル・エレクトリック,シーメンスといった水メジャーの動向についてのまとめや,水道事業民営化の失敗事例は非常に興味深かったが,本書の半分は上下水道の歴史と仕組みの解説に割かれている.もちろん,そのような基礎的知識の必要性は認めるが,期待した水ビジネスの展望に関する記述が貧弱だ.

実際,「あとがき」には次のように書かれている.

国民の血税を使って得たそうした貴重な財産を,今後わが国の産業戦略としていかに活用してゆくか,そのことについては,また別の機会に述べたいと思っている.

割愛されてしまったその内容こそが,本書タイトルの「水ビジネスの展望」ではないかと思うのだが...

水道事業についてまとめられた解説書としては良い出来だと思う.その点にケチをつけるつもりはない.ただ,タイトルに惹かれて読んだために,内容が期待はずれだったということだ.

目次

  • 公益事業として上下水道-各国の制度比較
  • 日本の上下水道事業の経営状況
  • 日本の上下水道事業における今後の課題
  • 水問題に対する世界的な取組み
  • 世界の「水メジャー」の戦略
  • 水道事業民営化の課題
  • 深刻化する水不足-新規ビジネスが期待される国々
  • 上水道の歴史
  • 上水道の仕組み
  • 下水道の歴史
  • 下水道の仕組み
  • 水道水の安全性-飲み水は安全か
  • 下水道の安全性-水辺は蘇るか
6月 072011
 

グリーン革命〔増補改訂版〕(下)
トーマス・フリードマン(著),伏見威蕃(訳),日本経済新聞出版社,2010

ずばりといってしまおう.この手の電力会社は,土木建築によって儲けている-発電所や高圧送電線を増やして,いまよりも多い顧客にもっと多く電気を売ったほうが,利益が上がる-なぜなら,監督機関がそういった資本支出を基準に料金を上げてくれるからだ.資本を投下すればするほど,儲けが増える.あらたな資本投下は,需要の増大という大義名分で正当化する必要があるので,電力会社には消費を増やそうとする下心がある.消費の増加はさらなる投資と発電所建設を促し,それによって収益が増える.このサイクルが,条件反射としてしみついている.

これは電力会社の実態を指摘したものである.もちろん米国の話ではあるが,日本も同じようなものだ.電力会社は地球環境問題もエネルギー問題も解決しようとはしない.では,どうすればよいのか.著者自身が本書「グリーン革命」で最も重要な主張をまとめてくれている.

この本から1つだけ採用するのであれば,これを採用してほしい.規制によってエネルギー気候紀元の問題から脱け出すことはできない.脱け出すにはイノベーションが必要だし,そういうイノベーションを生み出すには,もっとも効率的で多くの実を結ぶシステムを動員するほかに方法はない.つまり,大変革をもたらすようなイノベーションを生み出し,地球上で創り出された新製品を商品化するには,アメリカという市場を利用しなければならない.母なる自然よりも大きなものはただ1つ-それは父なる儲けだ.

グリーン革命〔増補改訂版〕(上)」では,地球環境問題の深刻さが指摘され,人類は石油中毒から脱却し,再生可能エネルギーの開発と利用を促進する必要があると強調されている.続く下巻では,そのための具体的な方策として,再生可能エネルギーへのシフトに必要なイノベーションを起こすために市場経済を利用すべきだと繰り返されている.

クリーンパワー・テクノロジーが,現在は優勢な汚い燃料と競争し,互角に闘えるように,市場を作り直す必要がある.それをやる唯一の方法は,税制や優遇策の充実である.

日本では,原子力発電所の危険性(日本の原子力専門家は原子力発電所を管理運営する能力を技術的にも倫理的にも持ち合わせていないこと)が事故で明らかとなったにも関わらず,原子力発電を推進したい人達や原子力発電の経済合理性を主張する人達が少なくない.私の意見は「原子力発電の社会的費用を無視し続けるなら,我々は軽蔑すべき世代として歴史に刻まれよう」に書いたので繰り返さないが,とんでもなく近視眼的に物事を見ない限り,原子力発電に経済合理性があるなどということにはならないだろう.

再生可能エネルギーが現時点でコスト高になっているのは,コストを低くするイノベーションが動機付けられてこなかったからにすぎない.安い石油が市場にあふれ,原子力が安いと騙され,地球環境の悪化など他人事だった時代の名残だ.本書「グリーン革命」で繰り返し強調されているように,税制や優遇策の充実によって,再生可能エネルギーへの誘導が本気でなされるなら,状況は劇的に変化するだろう.

例えば,次のようなアメリカでの例が挙げられている.

アメリカの同盟国で民主主義国でもあるブラジルから輸入しているサトウキビが原料のエタノールに,アメリカ政府は1ガロン当たり54セントの関税を課し,そのいっぽうで,9・11同時多発テロの実行犯のほとんどの出身地であるサウジアラビアから輸入している原油には,1ガロン当たり1.25セントしか課税していない.これでは自由市場とはいえない.

このようなことが平然と行われているから,いつまで経ってもアメリカは汚い国のままだ.日本はそうであってはならない.むしろ,今回の大震災と原発事故を契機として,日本は再生可能エネルギーで世界をリードする立場を目指すべきだ.それが実現されれば,万事塞翁が馬という諺が,ここでも正しかったということになるだろう.

ちなみに,アメリカは道を誤った.トーマス・フリードマンは次のように指摘している.

ジョージ・W・ブッシュ大統領とその政権は,エアコンの冷却効率や自動車の燃費について厳しい効率基準を課さないのは,アメリカ企業を護るためだと主張した.企業寄りを自認していた政権としては,当然の反応だったろう.だが,おろかな反応でもあった.アメリカは世界最高の大学と国立研究所を擁し,世界最高のテクノロジー基盤がある,世界最高のイノベーションの国なのだから,より高い基準を求めるべきだった-劣った国の企業はその基準を満たせないが,アメリカ企業はそこに到達できるのだから.アメリカのエアコン・メーカーは,どうして劣った基準を求めてロビー活動をするのか? そんなことをすれば,効率の悪くコストの低い中国製のエアコンが,アメリカで競争力を強めるだけだ.

日本にも技術力がある.3月11日までは,その技術の中に原子力も含まれていた.だが,それは過去の話だ.これからは,原子力を除く再生可能エネルギーで日本は世界をリードすればいい.

アメリカ人も大嫌いなブッシュ大統領の後,オバマ大統領の治世となり,アメリカも変化しつつある.福島原発事故の後,世界は大きく変わりつつある.本書「グリーン革命」では,クリーンな社会実現に向けた取り組みがいくつも紹介されている.

使用エネルギーを3分の2削減できるビルを設計・施行するノウハウが当社にはあります.電気の需要を3分の2削減できれば,残り3分の1は太陽光,風力,無電源照明,地熱でまかなえます.将来のビルはネットプラスで,使用するよりも発電する電気のほうが多く,余剰分は電気自動車が使うというのが理想です.

ZETAコミュニティズとカルスターの創業者ポラット

2009年,EUは加盟国のすべてで2018年以降に新築されるビルは,1つ残らずエネルギー消費がネットゼロでなければならないと発表した! そこで消費されるエネルギーは,ソーラーパネル,ヒートポンプなどのテクノロジーを使って,すべてそこで生産しなければならない.ゼロエネルギー・ビルについてEUは,「その建物のきわめて高いエネルギー効率により,年間の主要エネルギー消費がその場での再生可能エネルギー源によるエネルギー生産とおなじか,それを下回るもの」と定義している.

2007年5月22日,環境意識の高い市長として知られるニューヨークのマイケル・ブルームバーグ市長は,これをさらに推し進めて新法を提案し,タクシー委員会もこれを承認した.新しい法律はハイブリッド車の使用を認めるのみならず,5年以内にすべてのタクシーを,燃費が1ガロン当たり30マイル以上のハイブリッド車その他のCO2低排出車に切り替えることを求めている.

さあ,日本はどのような方向に舵を切るだろうか.政治は完全に機能不全に陥っていてどうしようもないが,彼らは国民の代表なのだから,国民はその惨めな姿を直視する義務がある.あれが我々の姿だ.それを恥と思うなら,自分を見直そう.恥じることはないか.

さて,本書「グリーン革命」で印象に残った言葉がある.「石器時代が終わったのは,石がなくなったからではない」というものだ.この教訓を賢く応用したい.

サウジアラビアの石油相,故シャイフ・アハメド・ヤマニは同盟国の石油相たちに,原油価格をあまり急激に上げないようにと注意した.西側の政府と市場がそれに対応して,風力,太陽熱その他の再生可能エネルギーの大規模なイノベーションが引き起こされるのを怖れたからだ.ヤマニがOPECで仲間に語ったのは,つぎのような言葉だったと伝えられている.「きみたち,忘れてはいかんよ.石器時代が終わったのは,石がなくなったからではない」

目次

第三部 前進の道すじ

  • 地球を救う二〇五の簡単な方法
  • エネルギー・インターネット――ITがETと出会うとき
  • 石器時代が終わったのは、石がなくなったからではない
  • グリーンは退屈なもの
  • 一〇〇万人のノア、一〇〇万隻の方舟
  • アルカイダにグリーンで勝つ(一つ買えばおまけが四つ)

第四部 中国

  • 赤い中国はグリーンな中国になれるか?

第五部 アメリカ

  • 一日だけ中国になる(でも二日はだめ)
  • 民主的な中国か、それともバナナ共和国か?