6月 222011
 

なぜ、国際教養大学で人材は育つのか
中嶋嶺雄,祥伝社,2010

2004年に日本初の公立大学法人として秋田県に設立された国際教養大学(Akita International University: AIU).その設立から携わった国際教養大学理事長・学長による宣伝本が本書「なぜ、国際教養大学で人材は育つのか」だ.開学理念に「卓越した英語力と幅広い教養を備えた,世界で活躍できる人材育成」を掲げる国際教養大学の学生教育は,確かに,日本の古臭い大学とは一線を画するものだ.

国際教養大学の凄さを如実に物語っているのは,就職活動について語った卒業生の言葉だろう.

他大学のみなさんが強みとしてアピールすることって,たいていアルバイトとかサークルなど学校外のことなんですね.でも,私たちは大学の中での経験が言えるんです.1年から4年まで真剣に勉強して,留学にも行って,本当にいろいろ経験しているし,そのぶん,苦労もいっぱい知っているので,結局,その経験の深さであったり,乗り越えたハードルの数が違うのかなと思います.

正直,学生が課外活動しかアピールできないような大学という場の存在意義とは何だろうかと思う.そういう意味で,学生にこのように発言させる大学というのは凄い.では,国際教養大学ではどのような教育が行われているのか.ポイントは,厳格な進級・卒業審査,英語での講義,海外留学,そして少人数教育だろう.

まず,成績評価について.国際教養大学では,欧米の大学と同様,GPAで学業成績を評価している.A+(100点)からF(59点以下)までの12段階評価で,D(60-65点)以上であれば,合格として単位が認定される.ただし,各科目の成績について,A+を4.0点,B(83-86点)を3.0点,C(73-76点)を2.0点,Dを1.0点,Fを0点と換算して,その加重平均であるGPAが4期連続で2.0を下回ると,アドバイザーとの面談が義務づけられ,改善されないようなら,休学や退学を勧告されることになる.60点取れば単位が認定され,誰からも文句を言われない大学とは覚悟が違う.

次に,英語での講義について.国際教養大学での講義はすべて英語で行われる.このため,入学後最初に,英語集中プログラム(EAP)の受講が義務づけられている.EAPを修了するにはTOEFLで500点以上を取らなければならず,このハードルをクリアして初めて,基礎教育科目を受講できる.本書によると,ほぼ全員が,春学期が終わる7月にはEAPを修了するとのことだ.

こうして培われた英語力を利用して,学生には1年間の海外留学も義務づけられており,提携大学で25-30単位を取得しなければならない.留学するための必要条件は,EAP修了,EAP以外に27単位取得,基礎科目のGPA2.5以上(平均80点以上に相当),TOEFL550点以上である.

最後に,少人数教育について.学生専任教員比率は15対1,学生数が50人を超える講義は2.3%にすぎず,20人未満の講義が78%を占める.国公立大学ならともかく,私立大学では決して望めない数字だろう.

本書「なぜ、国際教養大学で人材は育つのか」で中嶋学長が繰り返し強調しているのは,日本の大学の危機的状況と,それを覆すための語学を含む教養教育の重要性だ.このことは,開学理念が「卓越した英語力と幅広い教養を備えた,世界で活躍できる人材育成」であることからもわかる.

状況を改めるには,欧米の一流大学並みに,大学院教育を実のあるものにしなければなりません.それには,学士課程の教養教育の充実こそが必要です.高校を卒業したばかりで,世の中のこともよくわからない学生を,いきなり専門の狭い学問領域に押しやるような教養不在の学部教育をしていたのでは,高度な専門性を身につけるためのベースとなる,広く深い知的土台など築けるはずがないからです.語学力も含めて幅広い教養がなければ,高度な専門性は身につきません.学部での教養教育の再生がないまま,大学院の充実を求めても,成果は知れています.

21世紀の知的基盤社会を日本が生き抜いていくには,卓越した語学力と幅広い教養をベースに,高度な専門性を身につけた世界標準のエリートの育成が不可欠です.(中略)教養は,単に知識の量ではなく,人格形成とも深く関わっています.教養と格闘するからこそ個性的な自己発見があり,それが高い専門性の獲得,ひいては世界で通用するエリートの育成へとつながるのです.教養教育の大切さは,まさにその点にこそあります.

英語を操ることへの想いは強烈だ.優秀な留学生を日本へ惹きつけるためには,大学・大学院の英語化は避けられない.それができないなら,日本の大学は国際競争から脱落する.

「日本人の教員が,日本の学生だけを相手に,日本語で授業する」のがあたりまえの,言ってみれば「知の鎖国」としか言いようのない高等教育を続けている限り,優秀な留学生に,日本の大学へ来てもらうのはきわめて難しいでしょう.

海外の優秀な留学生に日本へ来てもらうことも重要だが,それよりも,日本の学生が極端に内向きになっていることが危惧される.実際,ハーバード大学・大学院の国別留学者数を1999年と2009年とで比較すると,日本は151人から101人へ減少しているのに対して,中国は227人から463人へ,韓国は183人から314人へと大幅に増加している.フラット化する世界において,これは国として危機的状況ではないだろうか.ニートだ何だと言われるが,日本の大学生はインターネット(日本語のみ)に張り付いて,日本に引き籠もっている.この状況を放置しておいてよいのか.

平気で「ネットで十分」などと言う.実際には,自分のほしい情報だけをせっせと集めているので,驚くほど知の土台が弱く,関心が狭い.特定の範囲に興味と情報が集中していて,幅広い教養や人間性を獲得できていない若者が多いのです.しかも不幸なことに,それを個性と勘違いし,「自分らしく生きたい」などと言う.これは結局,(中略)知的好奇心を育み,若者を海外へ雄飛させる大きな翼となるべき教養教育を,この国がないがしろにしてきたツケなのではないでしょうか.私たちの国際教養教育とは,外国語を含む幅広い教養を身につけ,世界へ飛躍できるような知的土台を築くことにあります.

国際教養大学の学生は,企業から高く評価されている.昨今の不況下にあっても,就職率はほぼ100%だという.英語に注目されるが,英語だけではない.

英語力より,私という人間を見てほしい-.そう堂々と主張できる強さ.それこそ国際教養大学の学生が,多くの企業から高く評価される所以ではないかと思います.

2004年に開学したばかりの新設田舎大学が,日本の大学教育に大きな風穴を開けた.しかし,世間から認められてしまうと,それが足枷にもなる.真価が問われるのは,これからだろう.中嶋学長も,その点を指摘している.

就職がいい,偏差値も高い.あの大学なら,いい会社に入れるに違いない-.どうも最近は,そんなふうに考えて国際教養大学を受験する学生が,かなり増えているようです.(中略)一番困るのは,「就職がいい」「高偏差値」という理由だけで,受験勉強ばかりのモヤシっ子みたいな優等生が増えて,いわゆる”偏差値大学”になってしまうことです.

今後の動向を注視したい.

目次

  • 人材は、厳しい環境で育つ
  • 就職率100%の秘密
  • 日本最先端の大学を秋田に作る
  • なぜ、国際教養が必要なのか
  • 企業の求める人材が変わった
  • 日本が沈まないために