8月 302011
 

海外・国内を問わず,学会参加時にご一緒させていただくことが多いA氏と食事.今回も,事前に店を予約しておいていただき,夜8:30に店へと向かう.宿泊中のホテルHotel Bernaに近いL’osteria del trenoがそのレストランだ.

人気のL'osteria del treno@ミラノ
人気のL’osteria del treno@ミラノ

人気店らしく,しばらくすると満席になった.

L'osteria del trenoの店内@ミラノ
L’osteria del trenoの店内@ミラノ

サラミやソーセージが中心の前菜の後,柔らかい牛の頬肉や生肉の他,うさぎも食した.その他には,パスタ2種.

兎肉や牛生肉など@ミラノのL'osteria del treno
兎肉や牛生肉など@ミラノのL’osteria del treno

大いに飲んで食べて,1人40ユーロでお釣りがくるくらい.美味しかった.大満足.

8月 292011
 

我が家では,エスプレッソやコーヒーを飲むのに,ネスレネスプレッソ株式会社のエスプレッソマシンCitiZを使っている.今年2月に購入したものだが,その経緯は「ネスプレッソ(Nespresso)のエスプレッソマシンCitiZを購入」にまとめてある.残念なお知らせも含めて...

標準で16種類用意されているカプセルの1つを選び,マシンにセットしてボタンを押すだけで,美味しいエスプレッソが飲めるという優れものだ.カプセルは1個約80円なので,街のコーヒー屋さんやスタバなどで飲むことを思えば,実に安上がりだ.

さて,日曜日のチュートリアルが終わり,ミラノの街を散策したり,買い物をしたりした後,ブラリと立ち寄った,ドゥオーモ近くのデパート「ラ・リナシェンテ」の地下で,ネスプレッソ(Nespresso)の店舗を見付けた.日本の店舗とは異なり,物凄く混雑している.

大賑わいのネスプレッソ(Nespresso)@ミラノ
大賑わいのネスプレッソ(Nespresso)@ミラノ

カプセルの値段だけでも確認しておこうと,価格表を覗き込むと,カプセル10個入りの箱が4ユーロ前後となっている.つまり,カプセル1つで50円はしない.FURLAで鞄と財布を購入したときにも驚いたが,日伊価格差は相当に大きい.

早速,我が家でカプセルを最も消費する彼女に電話して,買って帰った方が良いか,買って帰るとしたら,どのカプセルが欲しいかを尋ねた.すると,買って帰ってきて欲しいが,特にカプセルを決めずに16種類すべてを飲んでいるので,どれでもいいとの返事だった.そこで,エスプレッソのカプセル7種類をそれぞれ2箱ずつ計14箱,購入することにした.

ラ・リナシェンテで購入したネスプレッソ(Nespresso)のカプセル@ミラノ
ラ・リナシェンテで購入したネスプレッソ(Nespresso)のカプセル@ミラノ

グッチやプラダ,イタリアなのにヴィトンなど,どこの店に行っても日本人を見掛けるのだが,ネスプレッソ(Nespresso)で列に並んでいたのは私だけだった.さすがに,こんな買い物をする日本人は多くはないのだろう.

8月 292011
 

ミラノの週末を満喫中.とは言っても,土曜日は朝9:00から夕方5:30まで,日曜日は朝9:00から昼12:30まで,Chance Constrained Optimizationのチュートリアルを受講していて会場に缶詰だ.

ホテルの近くで夕食を軽く済ませようと思い,人気のあるらしいピッツェリアSpontiniへ出掛けた.ブエノスアイレスにあって,創業は1953年というから,ピザの老舗だ.

ピッツェリアSpontini@ミラノ
ピッツェリアSpontini@ミラノ

驚くべきことに(少なくとも私は驚いた),ピザは一種類しかない.私の見立てが間違っていなければ,いわゆるマルゲリータだ.このため,店にはメニューはない.あるのは,ドリンクメニューのみ.そして,客が選べるのは大きさのみ.大か並か,ただそれだけだ.

マルゲリータ並@ミラノのピッツェリアSpontini
マルゲリータ並@ミラノのピッツェリアSpontini

マルゲリータとは言っても,日本のピザ屋で見るマルゲリータとは随分と異なる.とにかく,チーズの量が凄い.トマトソースもたっぷりとかかっていて,生地も分厚い.

店の入口近くにある窯で,ひたすらマルゲリータが焼かれている.次々と取り出されるマルゲリータは,片っ端から切り分けられて,白い皿に盛られていく.

その様子を眺めていて気付いたのだが,ピザはマルゲリータのみというものの,どうやらチーズをかけないというパターンがあるようだ.チーズがかかっていなくても,トマトソースの量が凄い.

一種類のピザを焼きまくり,切りまくる@ミラノのピッツェリアSpontini
種類のピザを焼きまくり,切りまくる@ミラノのピッツェリアSpontini

店内奥にあるテーブル席でピザを食べることができる他,もちろん持ち帰りもできる.どちらにも長い行列ができている.地元民に愛されているのだろう.

持ち帰りの場合は,入口の壁際に設置してある機械から整理券を取り,順番が来たら,希望のサイズを告げる.ピザを切りまくっているおじさんが重量を量って価格を教えてくれるので,その料金をレジで支払えば終わりだ.チーズが包装紙つかないように,ピザに爪楊枝を差してから,白とピンクの紙で包んでくれる.

ピッツェリアSpontini@ミラノ
ピッツェリアSpontini@ミラノ

えっ,どうして,ピザがテーブル席用の皿にのっている写真と,お持ち帰り用の包装紙に包まれている写真があるのかって?

それは2回行ったからだ.

8月 282011
 

ミラノ滞在初日.ドゥオーモ(Duomo)の見学を終えたところで,すぐ近くのFURLA(フルラ)へ.お土産ミッションは早めにクリアしておくに限る.今回受注しているのは,FURLAの鞄と財布.彼女の希望は,それぞれDivide-Itラインの白とピンク.Divide-Itはクロコ型圧し牛革のラインで,鞄にはフルラ・チャームが付いている.

詳しいことは私にはわからないので,自宅でプリントアウトした紙を握りしめて,FURLA(フルラ)の店に入る.後は店員さんに紙を見せて,「これ下さい」と言うだけ.

...のはずだったのだが,そんな目論見はすぐに崩れ去った.Divide-Itラインの鞄も財布もあるのだが,希望する色がない.店員さんが色違いの商品や異なるラインの商品を色々見せてくれるのだが,自分で決められるわけはない.そこで,店員さんの了解を得た上で,商品の写真を携帯からメールで日本に送り,写真を見て決めてもらうことにした.「これはいくら?」「他の色はないの?」など,携帯電話を握りしめた私は,彼女と店員さんの間で質疑応答の通訳状態になった.

ともかく,無事に(?),鞄1つと財布2つを購入して,お土産の第一段階はミッションクリア.

ちなみに,購入したDivide-Itラインの白っぽい(白ではない)鞄は150EURだった.仮に1ユーロ120円としても,18000円にしかならない.これはミラノのFURLA(フルラ)での価格だが,同じ商品を日本で購入すると,29400円もする.たまたま今は円高だということもあるが,それを考慮しても,価格差が凄い.この価格差を知ってしまうと,日本で買う気にはならないような気がする.

時間を見付けて,自分用の服や靴も見てみる予定.

8月 282011
 

関空からイスタンブール経由でミラノのマルペンサ国際空港に到着.久しぶりのイタリアだ.空港で少しばかり日本円をユーロに換えようと思ったが,あまりのレートの悪さに閉口した.1ユーロ110円前後の今,どうして120円なのか.日本の空港でも114円だったのに...持参した現金があるのと,大抵はクレジットカードで支払うので,空港では両替しないことにして,宿泊予定のHotel Bernaに向かう.

バスでミラノ中央駅まで行き,そこから徒歩でホテルへ.まだ昼前だったこともあり,残念ながら,部屋の準備ができていないということなので,シャワーを浴びたいのを我慢して,スーツケースを預けて,観光へ出掛ける.

ミラノといえば,とりあえず,ドゥオーモ(Duomo)でしょう.それから,ショッピングでしょう.もちろん,最後の晩餐も必見.

ミラノ中央駅から地下鉄でドゥオーモ駅へ.地上に出ると,目の前にドゥオーモ(Duomo)が現れた.でかい.とにかく,でかい.

でかい!ドゥオーモ(Duomo)@ミラノ
でかい!ドゥオーモ(Duomo)@ミラノ

ガイドブックによると,高さは108.5mもあるそうだ.なんでも,ローマのサンピエトロ大聖堂に次ぐ大聖堂を建築するというのが動機だったらしい.ヴィスコンティ家,恐るべし.フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のドゥオーモも凄いし,ドイツのケルン大聖堂に至っては高さが157.4mもある.欧州人も見栄っ張りだな.

ともかく,ドゥオーモ(Duomo)の中に入ってみる.入るだけなら無料だ.ただし,荷物検査が厳しい.ノートパソコンやiPad2などを詰め込んだ鞄を抱えていたものだから,当然,開けろと言われた.それでも,何も問題はなし.

絵画だらけのドゥオーモ(Duomo)@ミラノ
絵画だらけのドゥオーモ(Duomo)@ミラノ

ドゥオーモ(Duomo)の中に入って,まず気付くのは,やたらと絵画が多いことだろう.至る所に絵画が飾られている.

お決まりのステンドグラスもゴージャスだ.

ドゥオーモ(Duomo)のステンドグラス@ミラノ
ドゥオーモ(Duomo)のステンドグラス@ミラノ

しかし,絵画よりも,ステンドグラスよりも,彫刻よりも,何よりも,他の大聖堂とは違うと感じたのが,聖人のミイラ?が安置されていることだ.いや,安置されているのが珍しいのではなくて,それを普通に見学できるところが珍しい.地下に安置されていて近寄れないものも含めて,三体を見学した.失礼なのだろうが,白い法衣をまとった干からびたミイラを見るというのも,結構えぐい.

聖人のミイラ?@ミラノのドゥオーモ(Duomo)
聖人のミイラ?@ミラノのドゥオーモ(Duomo)

聖人のミイラ?@ミラノのドゥオーモ(Duomo)
聖人のミイラ?@ミラノのドゥオーモ(Duomo)

再びドゥオーモ(Duomo)の外へ出て,次は屋上を目指す.こちらは有料だ.階段コースとエレベータコースがあり,貧乏人はもちろん階段コースへ.

夏のミラノは,とにかく暑い.気温は日本と大して変わらないということだったので,涼しいことを期待していたわけではないが,それにしても暑い.どうも35度を超えていたらしい.汗をかきながら,狭い階段を上っていく.

ようやく視界が開けるところまで来ると,ドゥオーモ(Duomo)の屋根を飾る彫刻や尖塔が目に入る.よくもまあ,こんな手の込んだモノを作ったものだ.

ドゥオーモ(Duomo)の屋根を飾る彫刻や尖塔@ミラノ
ドゥオーモ(Duomo)の屋根を飾る彫刻や尖塔@ミラノ

さらに階段を上って,ようやくドゥオーモ(Duomo)の屋根の上へ.もはや強烈な日差しを避けるモノが何もないので,物凄く暑い.みんな狭い日陰に隠れている.

ドゥオーモ(Duomo)の屋上に登る@ミラノ
ドゥオーモ(Duomo)の屋上に登る@ミラノ

一番高い尖塔は工事中だったが,ここからの眺望はまずまずだ.え~,こういうときは「眺望は素晴らしい」と書くはずなのだが,冷静に判断して,特に素晴らしいわけではないと思う.同じイタリアなら,フィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂からの眺めの方が,オレンジ色の屋根が遠くまで綺麗に見えた記憶があるし,色違いになるが,パリの凱旋門からの眺めは,高さがビシッと統一された白い街並みが実に美しかった.それらに比べると,高さも色もマチマチのミラノは,まずまずという評価になる.

それでも,ハッキリ言うと,京都なんかよりは遙かに美しい.

ドゥオーモ(Duomo)の屋上からの眺望@ミラノ
ドゥオーモ(Duomo)の屋上からの眺望@ミラノ

ドゥオーモ(Duomo)の屋上からの眺望@ミラノ
ドゥオーモ(Duomo)の屋上からの眺望@ミラノ

ドゥオーモ(Duomo)の屋上からの眺望@ミラノ
ドゥオーモ(Duomo)の屋上からの眺望@ミラノ

再び,長い階段を下りて,ドゥオーモ(Duomo)見学を終了した.最後にドゥオーモ(Duomo)の裏側を紹介しておこう.

ドゥオーモ(Duomo)の裏側@ミラノ
ドゥオーモ(Duomo)の裏側@ミラノ

見学を終えたところで,冷たい水を買いに.一気に飲んで生き返る.

8月 212011
 

毎年恒例のブドウ狩り.昨年までは,

に書いたように,太田酒造びわこわいんワイナリーに行っていたのだが,ここが「ワイン造り」に専念するという理由で閉園になったため,今年の夏は,竜王川守観光ぶどう園に出掛けた.

竜王川守観光ぶどう園@滋賀県
竜王川守観光ぶどう園@滋賀県

品種はアーリースチューベンかな.粒は大きく,種がなくて食べやすく,甘かったので,子供たちも大喜びだった.

葡萄を狩る長男8歳@竜王川守観光ぶどう園
葡萄を狩る長男8歳@竜王川守観光ぶどう園

ひたすら葡萄を食べた後は,虫取り網を持って隣接する水田へ.そこで,トンボ,バッタ,カエルを捕った.子供たちは,ブドウ狩りよりもむしろ虫取りに熱中していた.自宅の周りだと,蝉くらいしか捕れないので,夏休みの良い思い出になるだろう.

虫取りをする長男8歳@竜王川守観光ぶどう園
虫取りをする長男8歳@竜王川守観光ぶどう園

ブドウ狩りを終えた後,子供たちはジジババと一緒に妹背の里へ.バンガローやキャンプ場があり,バーベキューなどを楽しむグループで賑わっていた.

子供たちを妹背の里で遊ばせておいて,親は名神高速道路竜王インターチェンジに近い三井アウトレットパーク滋賀竜王へ.そこそこ規模は大きく,アメリカで馴染んだアウトレット感を楽しめる.それにしても,クソ暑いのに凄い人だ.特に,GODIVAの行列が凄かった.冷たいチョコレートドリンクが人気らしい.

ライフジャケットなどアウトドアグッズを購入した後,サングラスを買いにALOOKという眼鏡屋へ.店員さんにも礼儀正しい私だが,非常に珍しく,この眼鏡屋で小言を述べた.彼女がサングラスを購入した際に,クレジットカードをなくし,しかもそれを彼女のせいのように言われたためだ.結局,店の奥に落ちていたようだが,20分ほど無駄にした.

気を取り直して,ハワイのB級グルメとして有名なクア・アイナ(KUA’AINA)バーガーで定番のアボガドバーガーを食べる.3時頃にもかかわらず,ハンバーガー1つが1000円近くするにもかかわらず,凄い行列だ.まあ,ハレイワ(Haleiwa)にあるクア・アイナでチーズバーガーがUS$7.90だから,1ドル=100円の世界ならそれほど高くはない.しかし,今は1ドル=76円の世界だ!

8月 182011
 

先生のホンネ 評価、生活・受験指導
岩本茂樹,光文社,2010

30年にわたる教師生活を経て,現在は社会学研究者という著者が,公立高校の先生たちのホンネを描いたのが本書「先生のホンネ」.

読むのが嫌になって途中でやめようかと思ったが,我慢して最後まで読んだ.特に前半が読み辛く感じたが,読み通してみると,高校の先生ってこういう原理で動いているんだと,その一端を垣間見ることができたのはよかった.校則とか進学とか出世とか.正直,学校というのは大変な職場だと思う.恐らく,私には務まらない.

どうでもいいような校則を徹底させるための指導方法について,かつての生徒としての経験,今までの教師としての経験,職場での立場といったものが,個々の教師の判断に非常に強く影響する.もちろん,先生にだって出世欲もあるし,保身を図ろうともする.それがまた指導にも影響する.進学実績が極端に重視される昨今,中堅進学校にとって,成績優秀者は大切な存在であり,無意識のうちに,彼らには特別な教育的配慮がなされる.不登校のように特別な事情のある生徒に対しても,当然ながら教育的配慮がなされる.そこには生徒個人個人に合わせた教育・指導という美辞麗句があてがわれるが,実のところは,教師の利己的な判断でしかなかったりする.

生徒を公平に扱うというのは,一体,どういうことを意味しているのだろうか.そんな疑問も湧いてくる.

いずれ自分の子供も,中学,高校へと進学するわけで,学校の先生の行動原理を知っておくのは良いことだろう.そういう観点から,本書「先生のホンネ」を読んでみてもいいと思う.

ところで,本書には,次のようなデータも掲載されている.

公立高等学校教員の年代別構成比(平成4年→平成19年)
20代 15.8% → 5.8%
30代 31.6% → 22.4%
40代 26.7% → 37.8%
50代以上 25.9% → 34.0%

正直なところ,この状態で新しいことに挑戦しろと言っても無理だろう.これが日本の教育の現状だ.

目次

  • 服装の乱れは心の乱れ—カチューシャの違反をめぐって
  • 難関校をめざせ—進路指導をめぐって
  • 教育的配慮とは—新たなカチューシャ問題
  • おわりに—教育幻想
8月 162011
 

逆システム学―市場と生命のしくみを解き明かす
金子勝,児玉龍彦,岩波書店,2004

今話題の児玉龍彦教授の著書「逆システム学」を読んでみた.自分がプロセスシステム工学という分野の研究者であるので,「逆システム学」という言葉に興味を持ったというのが理由だ.本書は児玉龍彦教授と金子勝教授との共著で,生物学と経済学の共通点を示しながら,複雑な対象を扱うための,従来の学問的枠組みの問題点を指摘し,逆システム学という新しいパラダイムを提示しようという野心的な著作だ.しかし,その目論見は失敗しているように思える.

まず,特に経済関連の記述において,フィードバックやフィードフォワードという学術用語が乱用されていると感じる.生物も経済も複雑なフィードバック制御で成り立っているということだから,著者に制御工学の素養があれば良かったのにと残念に思う.恐らく,フィードバック制御システムの安定性というモノが理解できていないのだろう.フィードバックなら安定で,フィードフォワードなら不安定という妄想が読み取れる.もちろん,私の誤読かもしれないが,制御屋に意味が分からないのに分かる人がいるのかは疑問だ.

従来の枠組みではダメだという主張はわかるが,結局,自説の開陳に終始しており,逆システム学のどこが新しいのかが理解できずに終わってしまった.

目次

  • 逆システム学とは何か
  • セントラルドグマの暴走
  • 制度の束と多重フィードバック
  • フィードフォーワードの罠――医学と経済学の逆システム学
  • 変化と進化における多様性と適応
  • どのようにしてパラダイムは転換してきたか
8月 142011
 

学会や講演会で良いプレゼンテーションをするための秘訣(コツ)を紹介します.

卒業論文(特別研究)発表や修士論文発表を目前に控えた大学生や大学院生,初めて学会発表する大学生や大学院生,さらには,十分な修行を積むことなく企業に入り,学会発表をする羽目になった技術者や研究者にも,お役に立てればと思います.

もちろん,初めての発表ではないからと安心してはいられません.プレゼンテーションの機会を活かし,その目的を達成できていますか.自信を持って「当然!」と答えられないなら,もう一度,自分のプレゼンテーションを見直してみる必要がありますね.

発表目的を明確にする

学会や講演会での発表には必ず目的があるはずです.まず,目的を明確にして下さい.目的がハッキリしない行為に成功はありません.そもそも,目的が設定されているから成功・不成功を判断できるわけで,明確な目的がなければ,成功も不成功も存在しないのです.

学会発表の場合,自分が提案する理論や方法,実験結果を聴衆に理解してもらい,その意義や重要性を認めてもらうことが目的となるでしょう.その技術を売り込むことが目的かもしれません.そうだとすれば,次の項目についてチェックしておく必要があります.

  • 聴衆はどのような人達か? 同じ研究分野の専門家か,専門外の技術者や研究者か,それとも素人か?
  • 聴衆はどのような情報を求めているのか?

同じ題目で発表する場合でも,聴衆が異なれば,発表内容を変えなければなりません.誰が相手でも同じことしか話さないというのでは,とても成功は望めません.基礎的な内容を説明すべきかどうか,定理の証明などを事細かに説明すべきかどうか,実験装置や分析機器について説明すべきかどうか,といったことは聴衆の立場で考えなければなりません.決して独り善がりにならないようにしましょう.

魅力的な発表をイメージする

発表は魅力的であることが望まれます.自分が「魅力的」と感じる発表をイメージしてみて下さい.発表者はどんな人物ですか.どんな服装で,どんな声で,どんな様子で話していますか.内容はどうでしょう.面白くも何ともないことをダラダラと話してはいませんね.魅力的な発表のイメージをどんどん具体化して下さい.そして,自分を理想に近づけて下さい.発表内容を近づけるだけではありません.自分自身を,自分という人間を,理想に近づけるよう努力しましょう.

イメージする,それもできるだけ具体的にイメージすることは,実はとても重要なのです.これは発表だけではありません.人生においては,イメージしたことが現実になるからです.模範となるプレゼンテーションを積極的に見聞きして,そのような発表をしている自分をイメージして下さい.

優先順位を付ける

発表目的が明確になっていれば,聴衆に伝えたいことも整理されているはずです.あれもこれもと欲張らずに,話したい項目に優先順位を付けましょう.たくさん話せば良いというものではありません.10話して2しか理解してもらえないよりも,5話して4理解してもらった方が良いのです.つまり,話す量を半分に減らして,重要な項目の説明に2倍以上の時間をかける.そういう判断も必要だということです.

もちろん,長く説明したら良く理解してもらえるというものではありませんが,理解するには時間が必要です.時間をかけて説明することは,理解してもらうことの必要条件であって十分条件ではないということです.

まず,あなたが一番伝えたいことは何かを明確にして下さい.ただし,「伝えたい」というのが独り善がりではいけません.例えば,卒業論文発表を控えた学生達を見ていると,自分が頑張ったことを強調する傾向があるようです.仕方ないことなのですが,それではプレゼン素人から抜け出せません.相手に伝えるべきことを強調するのがプレゼンの本質です.それは,相手にとって価値ある情報を伝えるということです.相手が説得される,行動を起こしたくなる,そんな内容を話さなくてはなりません.

さあ,あなたが伝えるべき一番大切なことは何ですか.

ストーリーを考える

発表は物語です.聴衆を惹きつけるストーリーが必要です.論文発表の場合,1)研究の背景と目的,2)従来の取り組み,3)提案する方法・技術,4)有効性の実証,5)まとめ,という順序が一般的でしょう.例えば,いきなり自分が提案する方法の説明をしても,聴衆は「はぁ?何の意味があるの?」と感じてしまいます.

1)世の中にはこういう問題があります.この問題を解決することは非常に重要で社会的に意味があることです.

2)これまでにもこの問題に取り組んだ人達がいますが,こういう点が未解決です.

3)そこで,問題解決のために,こんな方法・技術を提案します.

4)こういう条件の下では,提案する方法・技術はこんな効果があります.凄いでしょ.

このような流れで発表すると,聴衆も違和感なく受け入れることができるでしょう.発表は流れるように.

強調すべき部分を考える

ストーリーができたとして,もちろん,上記1~4を同じ程度の力で話すのがベストではありません.聴衆によって,発表の目的によって,何を強調すべきかを適切に判断する必要があります

聴衆がその分野の専門家だとしたら,研究の背景は簡単に触れておけば十分でしょう.詳しく説明しても,「そんなこと誰でも知ってるぞ.馬鹿にしてるのか?」と思われてしまうだけです.逆に,聴衆が専門外の人達なら,研究の背景や目的こそ強調しなければなりません.その研究の必要性を理解してもらえなかったら,方法や結果を説明することに,何の意味もありません.

ここで再度,プレゼンの目的を見直しましょう.そして,聴衆について確認しておきましょう.目的と聴衆によって,強調すべき部分は変わります.

  • 聴衆はどのような人達か? 同じ研究分野の専門家か,専門外の技術者や研究者か,それとも素人か?
  • 聴衆はどのような情報を求めているのか?

スライドを作成する

思い描いたストーリーに沿って,スライドを用意しましょう.いきなり凝ったスライドを作成してはいけません.まずは,頭の中で描いたストーリーをスライドとして具体化し,ストーリーに無理がないか,スライド作成に必要なデータや情報が揃っているかを確認します.

原稿を作成する

思い描いたストーリーに沿って,適切な分量で,説得力のある発表原稿を用意しましょう.この作業を疎かにしてしまうと,聴衆から誉めてもらえるような良い発表などできません.

自分では内容を完璧に理解していて,スラスラと発表できるつもりでいても,いざ文章にまとめようと思うと,全然文章にならないことがあるものです.そんなとき,もし原稿を用意していなかったら,見苦しい発表になるのは当然でしょう.そんな愚を犯してはいけません.

素晴らしいプレゼンテーションを行うためには,内容が優れていることは当然必要なのですが,それと同時に,良いスライドと良い原稿が不可欠です.

原稿を作成していると,スライドを修正したくなります.こんな説明の方が良いのではないか,こんな図を使った方が理解してもらいやすいのではないか,そんなアイディアが次々と浮かんできます.原稿を作成しない人には,そういうチャンスは訪れません.日本語での短い発表であっても,必ず,原稿は作成しましょう.手を抜けば,そこであなたの成長は終わりです.

とにかく練習する

素晴らしいプレゼンテーションを行うために,何度も発表練習を繰り返しましょう.そして,何度もスライドと原稿を推敲しましょう.

学会発表に慣れてくると,この作業を怠る人が多くなります.特に母国語での発表であれば,「なんとかなるさ」という根拠のない自信に溺れてしまいがちです.確かになんとかなるのですが,それは発表が終わるという以上の意味ではありません.いかに見苦しい発表をしたとしても,なんとかなったと言い逃れすることはできます.しかし,皆さんは,そんなレベルで満足してしまわないで下さい.

ちなみに,研究室の学生には次のように言っています.

「スライドと原稿を完成させて,原稿を頭に叩き込んだ状態になったとして,プレゼンに絶大な自信を持っているなら,10回以上練習すれば良いだろう.自信がないなら,最低50回は練習しろ.下手な奴が根拠のない自信を持ち,自己満足してしまうのが最悪のケースだ.そうなると,一生プレゼンが下手なままになる.気を付けろ.手を抜くな.」

原稿は見ない

修正に修正を重ねて,やっとの思いで完成させる原稿ですが,発表本番では使いません.どうしても覚えられなかったら仕方ないのですが,原稿を見ながら発表するのは邪道です

学会での研究発表でも,修士論文や卒業論文の発表でも,自分で研究したことを自分の言葉で語れないというのは奇妙です.本当にお前がやったのか?という疑問を聴衆が抱いても不思議ではありません.しかも,母国語での発表にもかかわらず,原稿を見るようでは,プレゼンテーション能力の欠如をアピールしているようなものです.

ただし,原稿通りに一字一句間違えずに発表する必要はありません.発表で大切なのは,言うべき内容を言うことです.その目的が達成できるのであれば,細部の言い回しが多少違っても気にする必要はありません.とにかく,練習しましょう.発表がうまくなるには,練習しかありません.

どうしても原稿を覚えられないという人は,手に持つ原稿を工夫しましょう.発表中に避けるべき事態は,自分が原稿のどの部分を読んでいるのか分からなくなってしまうことです.大勢の聴衆の前で,沈黙して現在位置を必死に探す行為は,大変な精神的苦痛を伴います.そのような事態に陥らないために,1)スライド毎に原稿を用意する,2)キーワードを目立たせるなど,自分なりの工夫をしてみて下さい.

発表態度を正す

さて,ここから発表本番です.

まず,見苦しくない服装で発表に臨んで下さい.ドレスコードの有無はケースバイケースですが,学会発表であれば,ジャケットにネクタイが基本でしょう.「他の学生はカジュアルな服装ですよ」と言いたい人がいるようですが,それがどうかしましたか.アドバイスを聞く気がないなら,勝手にすればいいでしょう.最初に書いたとおり,どのような発表にも目的があるはずです.その目的を達成するために最も適した服装をするのです.

発表中は,背筋を伸ばして,ピシッと立ちましょう.フニャフニャしているのは見苦しいですし,ポケットに手を突っこむなど言語道断です. えっ,どっちを向いて立っているのですか.発表は聴衆を向いてするものです.

ゆっくりと大きな声で話す

発表本番は大変緊張するので,どうしても早口になりがちです.練習の時から,ゆっくりと大きな声で話すように心掛けて下さい.聴衆に理解してもらえなければ,その発表は無意味です.理解してもらうためには,見易いスライドを用いて,懇切丁寧に説明するしかありません.ボソボソと呟くなんて論外です.学会発表で呟いている研究者もいますが,ハッキリ言わせてもらうと,最悪です.

重要なことなので繰り返しますが,ゆっくりと大きな声で話して下さい.

ゆっくりと大きな声で話せるようになったら,単調な発表にならないように注意してみましょう.発表の間ずーっと同じ調子で話されると,聞いている方は,どこが重要なのか分からず,眠くなってしまいます.どうしても伝えたい重要な部分はしっかり強調しましょう.より大きな声で話しても良いですし,その前後で間を取るのも良いでしょう.

適切にポインターを使う

原稿を見るなと私が主張する理由の1つは,スライドを活用できなくなるからです.原稿に目がいくと,どうしてもポインターを適切に使えなくなります.原稿とスライドを同時に見ることは不可能ですから,原稿を見なくても済むように準備しておくべきです.原稿を見るにしても,見ないにしても,しっかり練習して,適切なタイミングで,適切な場所を指せるようにして下さい

ポインターは使い続けるものではありません.図や表で注目して欲しい箇所を指し示すのに活用しますが,いつもスクリーンをビーム攻撃している必要はないのです.というか,そんなことをしてはいけません.プレゼンテーションで大切なのは,聴衆に向かって話すことです.ポインターを使うのは,必要なときのみです.

たまにポインターを振り回す人を見かけますが,最悪です.また,スライド中の文章を読む際に,ポインターで文章を追う人がいますが,そんなことをする必要はありません.目障りなので,どの項目を読んでいるかを指し示すだけにして下さい.

聴衆を見ながら話す

上記のアドバイスに従って発表できるようになると,次の課題は聴衆を見ながら話すことです.いわゆる,アイコンタクトと言われるものです.会場に来てくれた一人一人の顔を順番に見回すぐらいの余裕を持って発表ができるようになりましょう.そこまでできなくても,最低限,聴衆の方を向いて発表しなければなりません.決して,スクリーンに向かって黙々と話し続けてはいけません.そんな先生がいませんでしたか,自分が講義を受けているときに...

とにかく,体の正面を聴衆に向けて話しましょう.スクリーンに向かって話してはいけません.

時間は厳守する

学会発表や講演の持ち時間は事前に決まっているはずです.例えば,学会発表の場合,発表時間15分と質疑応答時間5分の合計20分というように決められています.指定された発表時間は厳守して下さい.ルールを守るというのは,発表の善し悪し以前に,最低限の条件です.発表原稿を用意しない人は,時間配分に計画性がなく,発表時間を守れない傾向があります.このため,くだらない前置きをダラダラと話し,肝心な部分についてはサッと流すという本末転倒な発表になってしまいます.このような愚を犯してはいけません.

学会などでは,自分が発表するセッションの開始に先立ち,プレゼンテーション用ファイルを会場に備え付けられたコンピュータにアップロードするように指示されたりします.こういう指示にも確実に従いましょう.社会人としての最低限のマナーです.

質疑応答で右往左往しない

質問されると,質問者が質問している最中なのに,質問の内容も完全には解らない段階なのに,必死でスライドを探す人がいます.一体何をしているのでしょうか.質問されているときは質問に集中しましょう.質問が終わったら,どのように答えるのが最も良いか判断しましょう.スライドを使うと非常に分かり易く答えられる場合もあるでしょう.しかし,スライドがなくても答えられる質問も多いはずです.そんな時に,必死にスライドを探していると,内容を理解できていないのがバレバレです.聴衆もガッカリしていまいます.気を付けましょう.

質問は最後まで聞きましょう.途中で質問を遮ったりしてはいけません.

質問にはダイレクトに答えましょう.「はい」か「いいえ」で答えれば済むものは,それで十分です.補足したいのなら,「はい」か「いいえ」で答えた後に補足説明をすればよいのです.

答えるときに,フェードアウトしてはいけません.質問に答えるときには,最後の「です/ます」までハッキリと口にしましょう.これは発表でも同じです.

質問には的確に答える

質問に的確に答えることは極めて重要です.これに失敗すると,ダメな奴というレッテルを貼られてしまいます.一度貼られてしまったレッテルを剥がすのは極めて困難です.人生なんて,そうそうやり直しのきくものではありません.質問されたときに,何を聞かれているのかを,質問の本質を,瞬時に理解しなくてはなりません.そのためには,発表内容を完全に理解している必要があります.もし質問の内容がハッキリしないなら,質問者に質問内容を確認しましょう.「あなたの質問は○○という意味ですか?」と尋ねることは,決して失礼な行為でも恥ずべき行為でもありません.質問を聞き返すのが問題なのではなく,見当違いな回答をすることが問題なのです.

また,質問の中には頓珍漢な質問もあるものです.そのような場合,質問者を責めるような応答は控えて,易しい言葉で正しい方向へ導いてあげましょう.あなたの発表に関しては,あなたが世界一の権威なのですから,ゆとりを持って対応すれば良いのです.なお,質問を受けそうな内容が予測できている場合には,質問対策用のスライドを用意しておくと良いでしょう.

質問を聞き返してもよいと書きましたが,質問が意味不明のときには,「は?アホですか?」という態度ではなく,「もう一度お願いします」や「○○ということでしょうか」と丁寧に対応します.紳士淑女であるように心掛けましょう.

答える際に,「さっき言いましたが」みたいな前置きは不要です.説明が意味不明だから質問が来るのだと考えましょう.何でも他人の責任にしていると全く自分の力がつきません.

言うべからず集

「え~」,「あの~」など,無意味で耳障りな言葉.通常,話している本人だけが気付いていないので,要注意.

最後に,数多くの招待講演をこなし,色々なプレゼン書籍を読んできた私が厳選した本を3冊だけ挙げておきます.あなたのプレゼン能力を高めるのに,きっと役立つと思います.

もう1つ,スタイリッシュなプレゼンをするためには,スライド送り機能を備えたレーザーポインターが必須アイテムです.なお,プレゼン本番に先立ち,電池は新しいものに交換しておくこと.あるいは,予備を手元に置いておきましょう.

主要アドバイス一覧

勉強,レポート作成/論文執筆,研究発表/プレゼンテーションについて,主に卒業や修了を目指す学生へのアドバイスの一覧

(2015年1月15日リンク追加)

話し方入門
デール・カーネギー,創元社,2000

プレゼンテーションや話し方に関する書籍で,私が最高だと思い,自信を持ってお勧めするのが,この「話し方入門」です.人前で上手に話すための秘訣が書かれています.もちろん,単なるハウツウではありません.人に伝えたいと切望するものがあること,周到に準備をすること,練習に練習を重ねて自信を持つこと,始め方と終わり方に注意すること,わかりやすく話すこと,そして,美しい言葉を身に付けることなどが挙げられています.人前で話すことの重要性を認識し,上手に話せるようになりたいと願う人にはきっと役立つはずです.

マッキンゼー流 プレゼンテーションの技術
ジーン・ゼラズニー,東洋経済新報社,2004

研究発表向けの書籍ではありませんが,ビジネスでプレゼンする機会が多い,ビジネスにおけるプレゼン能力を磨きたい,というのであれば,この「マッキンゼー流 プレゼンテーションの技術」を読むと良いでしょう.プレゼンには人を動かすという目的があるはずであり,その目的を達成するために,プレゼンテーションに不可欠な要素は何かということが書かれています.このため,もちろん研究発表にも役立ちます.このようなノウハウの蓄積は,さすがマッキンゼーといったところでしょうか.

スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則
カーマイン・ガロ(著),井口耕二(訳),日経BP社,2010

プレゼンテーションをうまくなりたいなら,つべこべ言わずに,本書「スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン」を読め!と言いたくなる本です.アップルのファンを熱狂させただけでなく,プレゼンの手本として絶賛されたスティーブ・ジョブズのプレゼンを分析し,その成功の秘訣をわかりやすく解説しています.実際,私は,本書を読んだ直後に,ある講演用のスライドをすべて書き換えたほどです.本書で強調されている点は次の3点です.第1に,プレゼンで伝えようとするモノに情熱を持つこと.第2に,聞き手が興味あることを,わかるように伝えること.第3に,練習し,練習し,そして練習すること.

LOGICOOL プロフェッショナルプレゼンター タイマー機能・LCD搭載 R80

手元のボタンで,ページ送りなどパワーポイントの操作もできる,明るいグリーンレーザーのポインターとしては,非常にコストパフォーマンスが良く,使いやすいレーザーポインターです.2012年現在,私はこれを愛用しています.

8月 142011
 

知的生産の技術
梅棹忠夫,波書店,1969

京大式カードで有名な,梅棹忠夫の「知的生産の技術」.本書が発行された1969年と言えば,私が生まれた年でもある.既に40年がたっているわけで,本書で紹介されている技術は,当然ながら,パソコンやスマートフォンなんてものが現れる以前の時代に,どのように情報を収集し,整理し,蓄積し,活用し,アイディアを創造するかということになる.

今や,情報収集はEvernoteでという時代だ.まったく隔世の感を禁じ得ない.だが,同時に,情報の収集,整理,蓄積,活用という点について,その核心は不変であったことにも気付く.実際,「改訂版 EVERNOTEでビジネスを加速する方法」(中嶋茂夫,浅井達也,ソーテック社,2011)で紹介されている,最新のテクノロジーを駆使した情報管理術と40年以上前の「知的生産の技術」を比べてみると,基本は同じであることを痛感する.

というか,『Evernoteは京大式カードのクラウド版』だと思う.

例えば,いつでもどこでもカードを持ち歩き,見聞きしたことや思い付いたことは,その場で何でもカードに書き付ける.写真もカードに貼り付ける.名刺もカードに貼り付ける.資料もカードに貼り付ける.何もかもカードに貼り付ける.

こうして作成したカードには,日付とタイトルを必ず書き込む.それらのカードは,大きなテーマごとに分類して箱に入れておく.

完璧にEvernoteと同じだ.カードがノート,箱がノートブックに対応している.カードにつけるタイトルはダグだ.自分が書いた文章だけでなく,写真,名刺,ネットで見付けた資料などを全部Evernoteに取り込んでおくという作戦も,京大式カードの使い方を踏襲したものだ.ツールは劇的に進化したが,「知的生産の技術」は驚くほど何も変わっていない.ここで心に浮かぶ疑問は,現代人の創造力はツールの進化に見合うほど増してきたかということになる.

本書「知的生産の技術」で梅棹忠夫は,カードという道具に行き着くまでの経緯も紹介している.氏が何もかもを書き付けたのは手帳だった.

わたしたちが「手帳」にかいたのは,「発見」である.まいにちの経験のなかで,なにかの意味で,これはおもしろいとおもった現象を記述するのである.あるいは,自分の着想を記録するのである.それも,心おぼえのために,みじかい単語やフレーズをかいておくというのではなく,ちゃんとした文章で書くのである.(中略)「発見の手帳」をたゆまずつけつづけたことは,観察を正確にし,思考を精密にするうえに,ひじょうによい訓練法であったと,わたしはおもっている.

しかし,手帳に情報を記録することはできても,その後の活用が難しい.そこで行き着いた先がカードというわけだ.カードの大きさや仕様についても試行錯誤がなされ,最終的に京大式カードとして世に知られるものが誕生する.

つまり,京大式カードは元々そういうカードが文房具屋にあったわけではなく,梅棹忠夫とその友人らが作り上げたモノだ.本書「知的生産の技術」を読んでわかるのは,カードのみならず,原稿用紙にしろ,便箋にしろ,とにかく何でも手作りして,自分が最も使いやすい形を追い求め,その上で業者に作らせていたということだ.知的生産のための道具への執着が凄まじい.

ただ,京大式カードへの誤解も少なくないようだ.梅棹忠夫は次のように書いている.

カードについてよくある誤解は,カードは記憶のための道具だ,というかんがえである.英語学習の単語カードなどからの連想だろうが,これはじつは,完全に逆なのである.頭のなかに記憶するのなら,カードにかく必要はない.カードにかくのは,そのことをわすれるためである.

カードは,蓄積の装置というよりはむしろ,創造の装置なのだ.

カードをEvernoteに読み替えてもよい.その蓄積能力は素晴らしいが,使用者として興味があるのは新しいアイディアを生み出すことだろう.そのための方法論が必要となるはずだ.京大式カードであれば,カードを自由自在に並べ替えることから創造の作業が始まる.

まさに,今,ここに書いている通り,私は本を読んだ記録をブログに書くようにしている.もちろん,梅棹忠夫は読書記録をカードに書いた.

年末には,その一年間に蓄積された読書カードをめくって,自分の勉強のあとをふりかえってみるのだが,そのあまりの貧弱さに,われながらあきれてしまうのだ.

よむことには,かなりの努力をはらっているのだが,それでも,一年間に読書カードは100枚とはたまらない.

実は,この一文を読んで,ホッとした.私も年間100冊は読んでいないからだ.

最後に,2つほど,印象に残った部分を書いておこう.

1つは,ローマ字だ.かつて,平仮名や漢字なんてやめて,日本語を全部ローマ字にしてしまえという運動があったことは知っていたが,梅棹忠夫らは,ローマ字だけの学術雑誌を発行している.

戦後まもないころ,わたしは河根君たちといっしょに,ローマ字の雑誌をだしはじめた.1947,8年のころであった.雑誌の名は”Saiensu”といい,全文ローマ字がきの専門的な学術雑誌だった.ローマ字がき日本語を,実践面においていっきょに確立しようというのであった.

馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないが,相応の理由があった.それは,和文タイプライターがなかったことだ.英文タイプライターが開発されて,誰でも綺麗な文字で高速に英文を打てるようになった.ところが,和文は手書きのままだ.作業効率が全く異なる.この格差を埋めるための方法として,ローマ字の採用と和文タイプライターの開発が進められたというわけだ.パソコンで自在に和文を操れる我々がいかに恵まれているかということを感じずにはいられない.

もう1つは,大学人の忙しさについてだ.梅棹忠夫は次のように書いている.

今日のようにいそがしい世の中では,ながい論文など,だれもよんでくれないぞ,とおしえられたのであった.わたしたちは,論文をいかにみじかくするかに苦心した.

昨今の(まともに教育と研究をしようとする)大学人の忙しさは常軌を逸していると思う.もちろん,これは大学に限ったことではなく,先進国を中心に人間全体がそうなってきたのだろう.ところで,それは幸せなことなのだろうか.

目次

  • はじめに
  • 発見の手帳
  • ノートからカードへ
  • カードとそのつかいかた
  • きりぬきと規格化
  • 整理と事務
  • 読書
  • ペンからタイプライターへ
  • 手紙
  • 日記と記録
  • 原稿
  • 文章
  • おわりに