10月 222011
 

AIChE Annual Meeting(アメリカ化学工学会年会)も終わりに近づいた頃,一度,日本人研究者で夕食でも食べに行きましょうという話になり,7名(学生2名を含む)でハイアット内のスポーツバーに出掛けた.みんな初対面という方も複数おられて,自己紹介も兼ねつつ,仕事の話などをした.面白かったので,以下にメモしておく.

当日,学会会場からホテルに戻り,いつものフィットネスルームで200Kcalを消費した後,シャワーを浴びて,ハイアットへ.

参加メンバーのうち,米国の企業&大学で活躍する日本人研究者は3名で,その経歴は以下の通り.1)3M@セントポール(日本でPh.D取得→アメリカでポスドク→3M入社),2)ファイザー@グロトン(日本企業に就職→カナダでPh.D取得→Pfizer入社),3)ジョージア工科大学GIT@アトランタ(日本企業に就職→米国でPh.D取得→ドイツでポスドク→GIT就職).皆さん,米国採用・米国勤務で頑張っている日本人だ.

グリーンカード(永住権)

まず,グリーンカード(永住権)申請の話題で盛り上がる.推薦書を7,8通提出する必要があるが,誰に書いてもらうべきかという質問に対して,米国内で3通ほど,残りは国外で,推薦者の国はバラバラの方が良いという返答.研究者が永住権を取得するためには,国際的に活躍するOutstanding Researcherであることを証明しないといけないので,偏りがない方が良いらしい.

日本生まれで日本育ちの私はグリーンカードと縁がないが,Pfizerの日本人研究者の他,DuPontとPfizerの外国人研究者から依頼されて推薦状に署名したことがある.GITの先生のも引き受ける.文面は企業や大学の弁護士が作成するので,こちらは内容を確認して署名するだけでいい.

既にグリーンカード(永住権)を取得した方によると,どうせ文面なんて(忙しくて)誰も読まず,推薦者の所属などを確認しているだけだろうだから,とにかく推薦者の国をばらけさせて,8通以上提出するのがいいとのこと.中国や韓国などと比較すると,日本人の申請は非常に少ないので,申請すれば通る可能性は高いそうだ.

留学は日本人有利

実は,日本人が有利という事情は,米国の大学への入学でも同様である.中国人,韓国人,インド人などの米国留学希望者が物凄い数なのに対して,日本人はほとんどいないためだ.日本人から願書が来ると,多様性を重視する大学は「おっ,こいつ入学させておこう」となるらしい.皆さん口を揃えて,「日本人,もっとアメリカに来いよ」と仰る.

日本人にアメリカに来て欲しいという皆さんの想いは切実なようだ.連れて行った京都大学大学院生2人を見ながら,日本人学生のポテンシャルは高いのに,とにかくアメリカの大学では数が少なすぎて,まるで存在感がないと溜息をつかれる.それが日本人として釈然としないと.日本の学生にはもっともっと海外留学を考えて欲しいと.入学が有利で,大学院なら費用は大学が面倒を見てくれるのだから,行かないのは損だという考え方もある.

仕事

次に,仕事ぶりについて.アメリカ人やドイツ人の働き方を間近で見てきた皆さんの感想を聞く.なお,ブルーカラーでも普通のホワイトカラーでもなく,ハイレベルな研究者の話であることには注意.海外でPh.Dを取得したり,ポスドクを経験した皆さんの指導教員は各分野で高名な大教授であって無茶苦茶忙しい.観察によると,朝早く来て夕方5時頃に帰宅する.これは企業でも似たようなものだが,大先生になると,家族と夕食を共にした後,再び大学に戻って来て,日付が変わっても仕事をしているそうだ.ちなみに,日本の大学の教員もその程度には忙しい.なお,世界が視野に入っていない人がどうなのかは知らない.

一方,普通の企業人の労働時間は短い.とにかくサッサと帰宅する.ドイツでは平日なら午後5時頃,金曜日なら午後3時頃には誰もいなくなるそうだ.米国企業も似たような感じらしいが,早く帰宅できていいなと羨ましがるのは軽率かもしれない.ドイツでもアメリカでも,早く仕事を片付けるために,朝早くに出社し,夕方までは真剣に無駄なく仕事に集中するのだそうだ.ダラダラしたり,無駄口を叩いたり,時間を浪費するようなことはない.そういう意味では,日本企業で働く労働者の生産性は凄く低いのじゃないかという指摘がある.皆さんの略歴を先に書いておいたが,学位を取る前に日本企業で働いた経験があるので,このような働き方についての比較ができる.

休暇については,アメリカとドイツでは随分と違うようだ.3Mでは有給休暇は20日くらいから始まり,勤続年数によって増えていく.ところが,ドイツなど欧州では,いきなり初年度から有給休暇が40日もあったりする.ふざけてるのかと.ドイツの研究所で働いているとき,同僚に論文原稿を送ってチェックを頼んだら,バケーションで1ヶ月音沙汰なしだったということもあったそうだ.ともかく,欧米は長期休暇を大事にしている.日本の大学教員は,そういう意味では明らかに働き過ぎだろう.効率は知らないけれど...

高給な化学工学Ph.D

日本では「化学工学」を知らない人が多いが,アメリカでは圧倒的な人気を誇る分野で,初任給も他より高い.明らかに高い.有名な経営者にも化学工学出身者は多く,企業から一目置かれている.昨今,エネルギー問題に興味を持つ学生が増え,GITでは化学工学人気が物凄いらしい.GITを含む米国有名大学で化学工学のPh.Dを取れば,初任給10万ドル(1千万円)は確実だと言われる.なお,今は円高が激しいので給料を日本円に換算すると悲しくなると,皆さん涙目だ...日本なら,初任給はアメリカの半分程度だろうか.博士だからといって修士より待遇が良くなるわけでもなく,科学技術立国とかいうわりに研究者や技術者を冷遇する不思議な国だ.

3Mでもファイザーでも他の企業でも,研究者はPh.Dを持っていて当然とされる.というか,Ph.Dを持たない人を研究者とみなすことがなければ,研究職で雇うこともない.グローバル化だとか言われるけれども,日本企業の研究開発陣におけるPh.D保有率は低すぎる.このような状況がいつまで続くのだろか.今や,企業のトップはどこの国籍であっても不思議ではない.3Mの次期トップはスウェーデン人になるらしい.別に中国人になっても何の違和感もないとのことだ.そういう状況で,Ph.Dを持たない人達が研究職につくという慣習は日本で持続可能なのだろうか.

職場の女性

女性について.今回一緒に飲んだのは全員男性だったが,米国では女性が企業で活躍するのは普通だ.改めて言うまでもない.ファイザーでは,女性が副社長になり,なんと,上級管理職の70%が女性になっているそうだ.さすがに,なんじゃこりゃ!という感じらしい.3Mの方もファイザーの方も,今あるいは前の上司は女性だという.ファイザーの方の女性上司には以前お会いして,研究とかの話をしたことがある.

おわりに

ファイザーも3Mも本社採用の日本人は極めて少ないそうだ.日本法人から来る人はいるが,米国で採用されて働いているのは数人しかいない.日本人学生には,もっと留学して,海外の企業で活躍して欲しいと仰っていた.

実は,3Mの方とはお互いに初対面だと思っていたのだが,話をしているうちに,「あれっ?」となった.ポスドクとしてオハイオ州立大学におられた時期と,私が客員研究者としてオハイオ州立大学にいた時期とが被っているのだ.化学工学分野で日本人は非常に少なく,研究室まで連れていってもらって挨拶したのを覚えている.3Mの方も覚えておられて,「もしや,あのときの!」ということになった.世間は狭い.

皆さん,ありがとうございました.これからもお世話になりますので,よろしくお願いします.

10月 222011
 

ミネアポリスで開催されているAIChE Annual Meeting(アメリカ化学工学会年会)に参加している.会期中に,ファイザーの本社採用(ローカルな日本採用ではなく)で,コネチカット州グロトンにあるPfizer Global Research & Developmentで研究をしている方に色々と話を伺った.お互いにQbD/PAT(Quality by Design / Process Analytical Technology)関連の研究に携わっているため,普段から交流がある.ファイザーに入社される随分と前からの知り合いでもある.

以下,度肝を抜かれた研究所のリストラについてメモしておく.

今年の春に,ファイザーは米国グロトンにある研究所の人員を半分にするという大リストラを実施した.この研究所は,米国と英国に1つずつあるファイザーの研究拠点の1つであり,ファイザー最大の研究所である.元々,グロトンの研究所だけで4000人程度の従業員がいたが,今や2000人程度に減っているそうだ.もちろん,英国の研究所も無傷ではすまない.

莫大な新薬開発費を投じながら,いっこうに経済的メリットの大きな新薬が生まれないため,新薬開発という博打から手を引きたいとファイザーは考えているのではないだろうか.新薬開発はベンチャー企業に任せて,見込みのある新薬が開発された時点で,その企業か薬を買収すればいいという経営判断なのかもしれない.

人員半減という凄まじいリストラを実行したファイザーだが,非常に興味深いのは,例えば10人→5人の人員削減を実行するときに,まず10人→3人の人員削減を実施して,次に2人を新規採用するということだ.ここに,流動性を重んじるファイザーの人材観が現れているのだろう.

以前にも書いたが,ファイザーの研究所では80%以上がPh.Dホルダー(博士)である.その他20%にはパートタイムの人達も含まれるので,研究者=Ph.Dホルダー(博士)だと認識してよい.つまり,ファイザーに博士でない研究者は存在しない.そこには,Ph.Dを持っていないと話も聞いてもらえないという現実がある.単なる大卒はもちろん,修士でも研究できるとは全く想定されていないということだ.日本のように,修士課程を修了した程度で研究者気取りというのはありえない世界がここにはある.

問題は,その大量のPh.Dが十分な成果をあげているのかということになる.必ずしもそうでもないから,ファイザーは大リストラを実行した.研究者が成果を挙げられない原因は,専門分野に閉じ籠もりがちで,視野が狭く,挑戦的でないということだ.なんか日本でもよく聴くような話じゃないか.

ちなみに,ファイザーの研究者の多くがケミストリーやバイオの専門家らしいから,引き籠もりがちなのも当然ということかもしれない.彼らには,製造プロセス全体を視野に入れた解析,制御,最適化等を考えよと言っても無理だろう.それこそ専門外だという話になる.しかし,だからこそ,真っ先にリストラの対象となったわけでもある.

ともかく,そんな大リストラの荒波を潜り抜け,精神的にもタフに,ファイザーの研究所で頑張っている日本人って凄い.ファイザーの研究所については昔書いたメモがあるので,興味ある人のために貼っておこう.

Pfizer Global Research & Development @ Groton/New London Laboratories

<以下,追記>

今回の大リストラが解雇される人に厳しいのは,前回のリストラほどの補償が行われないかららしい.詳しくは聞いていないが,少なくとも前回は,なんと年収3年分が支給されたそうだ.解雇された人は,それでもホクホク顔だったらしい.それだけで家が買えたのじゃないだろうか.