11月 142011
 

量子力学の解釈問題
コリン・ブルース(著),和田純夫(訳),講談社,2008

最先端の量子力学は,我々がパラレルワールドの1つに生きていることを明らかにしている.

こんな話を本で目にすることがあるのだが,最先端の量子力学どころか,初歩の量子力学も知らない私には何のことだかさっぱりわからない.しかし,本当のところ人間がどのような世界に存在しているのかということには非常に興味があるため,本書「量子力学の解釈問題」を読んでみることにした.実は,「ぼくらの頭脳の鍛え方」(立花隆,佐藤優,文藝春秋)で紹介されていたからというのが大きな理由でもある.

本書は,ニュートン力学はもちろん,アインシュタインの相対性理論からも不思議に見える量子力学の諸現象について,それらをどのように解釈すればよいかということを,量子力学の研究の歴史を辿りながら解説してくれる.手品といった身近な例にたとえながら説明してくれてはいるのだが,それでも理解するのは難しい.本書を一回通読してきちんと理解できる人は凄いと思う.

ここで概要や粗筋を解説するつもりはないが,本書が最も尤もらしい解釈として示しているのが「多世界解釈」である.例えば,あなたが宝くじを買う/買わない,買ったとして当選する/しないなど,この世は実に様々な可能性で満たされているわけだが,我々が実体験するのは,多数ある可能性のうちの,たった1つだけである.そして,我々は,我々が体験しなかった可能性は現実には存在しなかったと信じて生活している.しかし,多世界解釈は,そのような常識に異を唱える.すべての可能性は現実に存在しているのだと.宝くじを買ったあなたも/買わなかったあなたも,買って当選したあなたも/しなかったあなたも,すべてのあなたは実在しているのだと多世界解釈は主張する.残念なお知らせは,数多くの世界が実在しているにもかかわらず,あなたが宝くじを買ったが当選しなかった世界に,あなたは存在しているということだ.当然ながら,別の世界には,宝くじに当選したあなたが存在している.おめでとう!

胡散臭い話に聞こえるだろうか.これまでの人類の常識からすれば,確かに違和感があるだろう.しかし,量子力学の世界が示す現実の現象を,無理なく矛盾なく解釈するためには,このような多世界解釈が自然なのだという.

多世界解釈に至る前,量子力学の世界では「コペンハーゲン解釈」が一般的だった.これは,観測した瞬間に状態が収縮するという考え方だ.いまでもコペンハーゲン解釈を支持する研究者もいる.しかし,多世界解釈を支持する研究者の方が多いらしい.だが,もっと多いのは態度を決めかねている研究者だ.それもそのはずで,パラレルワールドの存在を信じていますと断言するのは科学者にとって勇気のいることだろう.

量子力学といえば,シュレーディンガーの猫を思い出す人もいるだろう.箱の中の猫は生きているのか死んでいるのか,そのどちらでもあり,どちらでもないという不思議な話だ.コペンハーゲン解釈では,猫の生死を観測するまでは,いずれの可能性もあり,観測した瞬間に状態が収縮して,猫の生死が決まると考える.一方,多世界解釈では,生きている猫も死んでいる猫も実在している.ただし,その2つの世界は互いに干渉しない.つまり,どちらの世界も別の世界を知ることはできない.

科学の進歩って,なんて素晴らしいのだろう!

目次

  • 不思議な世界
  • 従来の描像に固執すると
  • 推論による収縮
  • 拡大されたホラー物語
  • 先人の証言
  • ヒルベルト空間に移動せよ
  • 望まれる局所性
  • 多世界への導入
  • 多世界を利用する1―信じがたい観測
  • 多世界を利用する2―量子コンピュータ
  • 多世界解釈の推進者たち
  • 多世界の恐怖
  • 古典戦士―ロジャー・ペンローズ
  • 新時代の戦士―アントン・ツァイリンガー
  • 多世界解釈の証明と改良

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