1月 122012
 

現在参加中の国際会議Chemical Process Control (CPC)において,MITのGeorge Stephanopoulos教授から”Systems Thinkng in the Management of Process Operations”と題した講演があった.製造プロセスのオペレーション(要するに運転)のマネジメントにおけるシステム的思考の重要性を訴える内容であるが,企業が実際に陥ることがある問題として”Capability Trap”の紹介があった.不勉強で初めて聞いた内容だったので,メモしておく.

講演者のGeorgeは,名前から分かる通りギリシア出身で,私の元ボスの親友であり,米国アカデミア界の大御所でもある.プロセスシステム工学分野の重鎮だが,日本との付き合いも古く,かつ濃く,かつては三菱化学のCTOを務めていたこともある.今回の”Capability Trap”の話題についても,彼の三菱化学時代の経験をふまえたものである.

“Capability Trap”とは,元々,MIT教授のNelson RepenningとJohn Stermanが定義したものだ.彼らは,多くの企業においてプロセスの改善活動が失敗してしまう原因を調査し,マネジャーや担当者が”Capability Trap”に陥ってしまうことが原因であることを突き止めた.”Capability Trap”とは,みずからを追い込んだり,あるいはマネジャーに強制されたりすることで,担当者がより賢く働く(work smarter)よりもむしろ,より一生懸命に働く(work harder)ようになってしまう状態を指す.これは,仕事をする方法を改善するためにではなく,従来のままの方法でより一生懸命に働くような方向に経営資源が継続的に振り向けられることで発生する.

次のように解釈することもできるだろう.改善活動の成果を「すぐに」出せという指令が来ると,目先の成果をあげるために,もっと頑張って働けという圧力が強くなり,その結果,まさにもぐら叩きに全力を尽くすようになる.確かに,モグラを叩きまくれば点数は上がるが,その効果は叩いている間しか継続しない.しかも,モグラを叩きまくることに担当者の時間と労力が費やされるため,逆に長期的な視点で”Capability”を向上させるための投資が疎かになってしまう.こうして,一時的に改善効果が現れたとしても,その効果は持続せず,現場が疲弊しきったところで改善活動は失敗に終わる.

つまり,”Capability Trap”に陥らないためには,改善活動で成果をあげるためには時間がかかること(何かをしてから効果が出るまでには遅れがあること)を認識すると共に,現場に懸命に働くことを求めるのではなく,賢明に働くことを求めること,そしてそのための自由を与えることが大切である.


reference:
N. Repenning and J. Sterman (2001). Nobody Ever Gets Credit for Fixing Problems that Never Happened: Creating and Sustaining Process Improvement. California Management Review 43(4), 64-88.

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