2月 232012
 

文部科学省の「博士課程教育リーディングプログラム」事業に,京都大学から2件のプログラムが採択されました.

文部科学省によるこの事業は、優秀な学生を俯瞰力と独創力を備え広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーへと導くため、国内外の第一級の教員・学生を結集し、産・学・官の参画を得つつ、専門分野の枠を超えて博士課程前期・後期一貫した世界に通用する質の保証された学位プログラムを構築・展開する大学院教育の抜本的改革を支援し、最高学府に相応しい大学院の形成を推進する事業です。

採択されたプログラムの1つが,オールラウンド型「京都大学大学院思修館」 で,その概要は下記のようになっています.

本プログラムでは、志、自鍛、責任感を重視し、専門分野の深い知識・経験と幅広い学識を兼ね備えるとともに、柔軟性ある思考で既存の学問や課題領域を束ねることができ、かつ国内外での豊富な実践教育を通じて、現地実践力と突破力を備えたグローバルリーダーたる人材を育成します。

「博士課程教育リーディングプログラム」のオールラウンド型で採択されたプログラムは日本全体で以下の3件です.

  • 京都大学: 京都大学大学院思修館
  • 大阪大学: 超域イノベーション博士課程プログラム
  • 慶應義塾大学: 超成熟社会発展のサイエンス

京都大学のプログラム名称「思修館」は漢字だけで,これはこれでインパクトがあります.ところで,思修館って一体何なのでしょう.私もその名称の由来を全く知らなかったのですが,本日,たまたま説明を聞く機会がありましたので,ここにメモしておきます.

仏教における様々な修行の結果として得られる「さとり」の慧(または智慧)を,般若というそうです.この慧が働く様子を三段にわけて聞慧・思慧・修慧といいます.まず聞き,次に考え,そして実際に修行(行動)することによって慧が完成すると捉えます.これを聞思修といいます.

既におわかりだと思いますが,この聞思修が「思修館」の由来です.聞く(学ぶ)段階を学部教育と位置づけ,この全寮制・5年一貫教育の大学院「思修館」では,考え,行動する段階の人材育成を体現するということです.

博士課程教育リーディングプログラムのオールラウンド型としては,大阪大学の「超域イノベーション博士課程プログラム」が名前の凄さで有名ではないかと思います.既に立派なウェブサイトも公開されています.一方,京都大学は「思修館」と地味ですが,個人的にはカタカナ多用が好きではないので,「思修館」も良いと思っています.

ちなみに,文部科学省の博士課程教育リーディングプログラムは,あくまでプログラムであり,予算が付く間だけのもの(金の切れ目は縁の切れ目)なのですが,オールラウンド型「京都大学大学院思修館」は,総長の指揮下,単なるプログラムではなく,大学院として正式に設置するとのことです.この新しい大学院を設置・運営していくとなると,これは大事ですが,やるからには優秀な人材を輩出して,国際的にも認められるような成果を挙げてもらいたいと思います.

2月 162012
 

マックス・ウェーバーは「職業としての学問」で,「私講師や研究所助手が他日正教授や研究所幹部となるためには,ただ僥倖を待つほかはない(中略)これほど偶然によって左右される職歴はほかにないであろう.」と述べています.これは100年近く前の講演録ですが,状況は現在もそれほど変わってはいないでしょう.

私が今あるのは,私の実力のおかげなどではありえません.教授になれたのも,幸運に恵まれ,巡り合わせがよかったからにすぎません.もちろん,公募で採用される程度には研究業績を挙げるために,時間と労力を費やしてきました.しかし,そうだからといって,自分だけの力で教授になれたなどということはありえないわけです.

京都大学に入学できたのも卒業できるのも,自分の力だけでなんてことはありえません.もちろん苦労も努力もしてきたことと思います.それでも,親,家族,友人,先生,その他,自分を取り巻く諸々の環境に恵まれて,今の自分があることを忘れてはいけないでしょう.

就職活動は非常に厳しく,大企業の正規社員になれる人なんて,ほんの一握りしかいません.それでも,ここにいる学生の多くは,京都大学化学工学専攻という看板のおかげもあって,比較的簡単に就職を決めることができたはずです.各社において卒業生がどれだけ支援してくれたか,親や先生がどれだけ気にかけてくれたかを,決して忘れないで欲しいと思います.

君達は,いや私達は,それだけの幸運に恵まれているわけです.だからこそ成功してきたし,これからも成功していくでしょう.そのような幸運に感謝し,成功に伴う責任を果たさなければなりません.そのように自覚しなければならないと思うのです.それがノーブレス・オブリージです.

「論語」には,「命を知らざれば,以て君子たること無きなり」という孔子の言葉が記されています.天命を知れということです.吉田松陰は「君子に貴ぶ所のものは志のみ,胆のみ.胆なく志なくんば,則ち区々の才知将た何の用か之れを為さん」と言いました.頭がいいといっても,志がなければ何の意味もないということです.これからも,志を持って人生を送って下さい.

自分が恵まれていることを自覚し,そのことに感謝して,ノーブレス・オブリージを果たすべく,責任感のある行動によって,幸せになってもらいたい.そう願っています.

2月 162012
 

昨日,今日,明日と,私の旧所属である化学工学専攻の修士論文&卒業論文発表会です.プロセスシステム工学研究室の学生の発表は,修士は1日目,学士は2日目で終了したため,本日は打ち上げのコンパがありました.2月1日付で情報学研究科システム科学専攻に異動した私も,修了生や卒業生と共に追い出してもらいました.

その追い出しコンパでは,修了生と卒業生にプレゼントを贈るのが慣例になっているのですが,計らずも,私も在学生からプレゼントをもらいました.プレゼントはフォトブックなのですが,最近の写真だけでなく,桂キャンパスに移転する前,吉田キャンパス高分子別館2階に研究室があった時代の昔々の写真まで拾い集めてくれてあり,しかも,プロセスシステム工学研究室の先輩・後輩である卒業生,在校生による寄せ書きまでありました.

本当に感激しました.これ以上のプレゼントはありません.

修士課程でプロセスシステム工学研究室に配属されてから,3月末でちょうど20年になります.この間,常に素晴らしいスタッフと学生に恵まれてきました.私がハッピー&ラッキーな研究者生活を送って来られたのは,偏にスタッフと学生のお陰です.もちろん,数多くの共同研究を通して,企業の方々にも大変お世話になりました.このように縁のあった方々のお陰で,今の自分があります.本当にありがとうございました.

これから,ヒューマンシステム論分野という新しい研究室を立ち上げるわけですが,プロセスシステム工学研究室に負けない研究室を創ることが目標です.これからも引き続き,よろしくお願いします.

さて,この最後のコンパで,学生全員に私からの感謝の気持ちを込めて,本を贈りました.3種類あって,論語(孔子),武士道(新渡戸稲造)自省録(マルクス・アウレリウス・アントニヌス)です.留学生には”Bushido:The Soul of Japan”を贈りました.いずれも流行廃りとは無縁の良書ですので,末永く座右に置いてもらえればと思っています.

寄せ書きを寄稿して下さった卒業生の皆様,在校生のみんな,そしてスタッフに心より感謝申し上げます.本当にありがとうございました.

2月 102012
 

4月になれば,新体制の下,本格的に研究室の活動を開始しますが,それまで1ヶ月以上あります.

先行き不透明な国際情勢の中で,日本の将来もかなり不安で,学生としては自分の就職のことも心配かもしれません.しかし,京都大学大学院を修了して社会に出る人材が,自分のことで頭が一杯というのでは困ります.俺が社会を引っ張っていくくらいの気概を持ってもらいたいと思っています.少なくとも,企業は,単なる一社員としてではなく,将来リーダーになる人材として京大卒業生を採用したいと考えています.

ヒューマンシステム論分野には,その期待に応える人材を輩出する責務がありますし,そうなるように努力していきます.講義に出て単位を取って,修論卒論を仕上げればそれでOKというレベルでは満足しません.

まず,視野を広げること,自分の人生について考えることから始めましょう.そのために有効なのは,恐らく,読書です.これまで,どれくらい本を読み込んできたかは分かりませんが,これからは本を読んで下さい.そうでないと,底の浅い,しょうもない人物になりかねません.社会に出て大成するのは難しいでしょう.大学生のうちに大量に読んでおくことを勧めます.私がこれまで所属していた研究室では,学生は年50冊読むことを目標としていました,それくらい読めば,当然,他の学生とはレベルが違ってきます.

お薦めの本を紹介しておきます.何から読んでいいかわからなければ,まずは,この中から選んでみて下さい.図書館で借りるなどしても良いでしょう.

年齢別の本棚: 心から推奨する書籍

ここには含めていませんが,就職を控えた学生なら,トーマス・フリードマンの「フラット化する世界」も読むといいでしょう.日本の中だけ見ていたのでは痛い目にあうだろうことが痛感できると思います.これから諸君が勝負すべき相手は日本人ではありません.

まず,この春休みに,10冊程度読んでみることを勧めます.これまで読書してこなかったのなら,それだけでも目が覚めるかもしれません.

2月 012012
 

本日(2012年2月1日),京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻に着任しました.ヒューマンシステム論分野という研究室を担当します.

教員として約18年,修士課程時代も含めると約20年もの長きにわたってお世話になった化学工学専攻プロセスシステム工学研究室を離れることになりました.(1992年修士課程進学→1994年助手→2004年助教授→2007年准教授→今2012年)

振り返ってみれば,本当に多くの方々に支えていただいて,今の自分があることに気付かされます.家族はもちろん,同僚である大学教職員,他大学の先生方,企業の方々,学協会の方々,卒業生や在学生,等々.とても数え上げることはできそうにありませんが,中でも,2人の元ボスには心から感謝しています.

1人は,当時大学院生だった私に研究者としての道を示して下さった恩師です.修士課程修了直後に助手として採用していただき,論文博士制度を利用して学位を取得すると,「留学は若いうちでないと意味がない.今すぐ行け.いくらあったら足りるんだ.300万円で足りるか.よし,それだけ研究室から出す」と言われ,学位を取得した8ヶ月後には既にアメリカで生活を始めていました.この恩師については,改めて書き留めておこうと思っています.

もう1人は,その恩師の後を継がれた元ボスです.全く使いものにならないばかりか,学位を取るとサッサと海外留学に行ってしまった私を忍の一字で見守って下さり,とうとう20年です.我ながら,これほど使いにくい部下はいなかったであろうと思います.元ボスのお陰で,私は好きな研究に好きなだけ取り組むことができ,研究費に困ることもなく,抜群に優秀な学生に恵まれ,今こうして次のステップに進む機会に恵まれています.

実際,プロセスシステム工学研究室での教員生活は最高に快適でした.研究環境は素晴らしく,数多くの共同研究に携わり,自分たちが開発した手法のいくつかは産業界で活用していただき,論文もそこそこ書き,いくつかの賞も授与していただき,海外にも頻繁に行かせていただき,これで文句を言ったら罰があたるという環境です.

それでも,いや,だからこそ,新しい環境に移らなければならないと考えました.端的に言えば,惰性で教育も研究もできてしまう環境では,もはや自分を成長させるのは困難ではないかと恐れたということです.ちょうどそのようなタイミングで,今回の異動の話があり,幸いにも,新しい環境に挑戦する機会を与えていただくことができました.

これまでに受けた数々の恩に報いるためにも,素晴らしい研究室を創り上げていきます.

今後ともよろしくお願いいたします.