4月 252012
 

本年度から,工業数学F2(フーリエ解析)の講義を担当している.その初回講義で,京都大学工学部物理工学科3回生の受講生に宿題を課した.以下のアンケートに回答するという宿題だ.

  1. 自分の人生で成し遂げたい「夢」は何ですか.
  2. 将来,どのような仕事をしたいと考えていますか.
  3. その仕事に就くために,どのような努力をしていますか.
  4. 歴史上の人物で,私淑する,または親炙に浴する人は誰ですか.その理由は何ですか.
  5. 座右の銘は何ですか.それは誰の言葉ですか.
  6. 過去1年間,平均して1ヶ月に何冊本を読みましたか.
  7. 自分の人生に大きな影響を与えた,あるいは最も印象に残っている本は何ですか.その理由は何ですか.
  8. 現在実践している英語学習法はどのようなものですか.
  9. これからの半年間の目標は何ですか.

61名から回答があった.すべての回答に目を通した上で,その回答に対する私のコメントをメモしておこう.第3回目の講義で話した内容の一部になる.

まず,「夢」だが,夢を持つべきと考える人もいれば,持つべきでない,あるいは持たなくてよいと考える人もいるだろう.その判断に対して,私の価値観を押し付ける気は毛頭無い.ただ,大学生活も半分を終えたわけだし,ここで「夢」について一度くらい考えてみるのも悪くないだろう.

様々な夢を書いてもらったが,人の生活をより豊か(快適)にする,人の役に立つ,社会に貢献する,人に必要とされる,人類の問題を解決する,などは個人的に共感を覚える回答だ.願わくば,それらの夢について,どのようにして実現するのかを具体的にイメージして欲しい.イメージができるなら,その実現にも現実味がある.

具体的な夢としては,医師,教員,政治家,パイロット,魚の研究などがあった.中には,今更,医師,政治家,パイロットなんて無理だと考える学生もいるかもしれない.確かに,無理だろう.無理だと考えてしまうような学生には.しかし,自分で可能性を閉ざさなければ,決して無理ではない.実際,私が知っている限りでも,工学部を卒業して,政治家になった者もいれば,パイロットになった者もいる.結局,自分の可能性を限定してしまう最大の要因は,環境でも他人でもなく,自分自身だ.これは肝に銘じておいて良いだろう.

京都大学に入学できるような学生なのだから,頭が悪いはずはない.望むなら,どのような会社にも就職できるだろうし,どのような職業にも就くことができるだろう.しかし,頭が良いだけではダメなのではないか.吉田松陰はこう書き残している.

君子に貴ぶ所のものは志のみ,胆のみ.胆なく志なくんば,則ち区々の才知将た何の用か之れ為さん.

つまり,頭が良くても,志と気力がなければ意味がないということだ.「志」を持っているだろうか.「志」を大切に生きているだろうか.

「夢」を尋ねると,ある一定の割合で,必ず登場する回答がある.それは,大企業のサラリーマンになる,高い給料をもらってのんびり過ごすといった回答だ.確かに,正規社員になることすら難しくなった昨今にあっては,「大企業のサラリーマンになる」というのは夢かもしれない.しかし,京大生がそんなことでいいのだろうか.環境の変化が激しい今の時代にあって,変化したくないという安定志向は果たして安全なのだろうか.進化論は知っているはずだ.変化に対応できないものは生き残れない.よく考えてみて欲しい.

P.F. ドラッカーは著書「ドラッカーの遺言」の中でこう述べている.

絶えざるスキルアップを達成するために最も重要となるのは,自分の強みを把握することです.自分が何を得意とするのかを知り,磨きをかけていく―これこそ個人のイノベーションの要諦であり,成果を挙げ続けていくための唯一の方法です.

知識社会において成果を挙げ得る人間であり続けるためには,スキルを更新する教育を何度も何度も繰り返し受けることが必要となります.真の意味での「生涯教育」であり,つねに教育に立ち返るこの姿勢こそが,個人のイノベーションを促進してくれます.

生涯にわたる継続的な学習が不可欠となった事実を受け入れ,つねに再教育を受ける心構えを持ち,それを自己責任であると認識すること―「いま何を捨て,何を選択し,自己を高めるために何を学ぶべきか」を絶えず問い続けなくてはならないこと―いま,すべての人が身をもって知るべき事実です.

日本の若い世代の人達には,20代から遅くとも30代前半のうちに,少なくとも2〜3年は日本を離れて,他国で働く経験を積むことをお勧めしたいと思います.私が接してきた日本人の中には,視野が狭く,「世界について十分な知識が備わっていない」 と感じさせる人が多数存在しました.海外経験の少なさがその原因です.学ぶべき課題は日本の外にいてこそ得られます.ぜひとも国外に出て行って,視野を大いに広げて欲しい.知識社会が招来する新しい時代においても,日本が世界のメインパワーであり続けるための原動力になってほしいと願っています.

その他にも,定番の回答がある.それは名誉を求めるという類の夢だ.その典型は「ノーベル賞をもらう」というものだ.特に化学系の学生に顕著だが,物理工学科の学生にもいた.もちろん,ノーベル賞を受賞できるほどの研究成果を残せれば素晴らしい.それを目指して研究に邁進するのも悪くない.ただ,名誉・名声を求めるという発想が本当によいのかどうかは考えてみる価値があるように思う.論語にはこうある.

子曰,不患人之不己知,患不知人也.

子曰わく、人の己を知らざるを患えず. 人を知らざるを患うるなり.

自分が人に知られているかどうかではなく,自分が立派な人物を知っているかどうかが重要だということだ.また,これは私の座右の銘でもあるが,ローマ皇帝であったマルクス・アウレリウス・アントニヌスは著書「自省録」に書き残している.

名誉を愛する者は自分の幸福は他人の中にあると思い, 享楽を愛する者は自分の感情の中にあると思うが, もののわかった人間は自分の行動の中にあると 思うのである.

結果的に名誉が付いてくるなら,それを拒む理由はないだろう.しかし,名声・名誉を得ることが目的であるとするなら,それは本末転倒になってはいないだろうか.

吉田松陰の話に戻るが,やはり「志」が重要なのではあるまいか.その他の偉人の声にも耳を傾けてみよう.

凡そ学をなすの初めは,必ず大人たるを欲するの志を立てて,しかるのちに書読むべきなり.しからずして徒に聞見を貪るのみなれば,則ち恐らくは傲りを長じ,非を飾らん.

佐藤一斎「言志耋録(げんしてつろく)」

命を知らざれば,以て君子たること無きなり.

孔子「論語」

そもそも人間が志を立てるということは,いわばローソクに火を点ずるようなものです.ローソクは火を点けられて初めて光を放ちます.同様にまた人間は,志を立てて初めてその人の真価が現れるのです.志を立てない人間というものは,いかに才能がある人でも,結局は酔生夢死の輩に過ぎないといえます.

森信三「修身教授録」

今一度,考えてみて欲しい.

アンケートでは,仕事に就くための努力,私淑する,または親炙に浴する人物,座右の銘などを尋ねた.すべてがパッと出てくる必要はないかもしれないが,無い無い尽しの学生は危機感を持ってもよいように思う.仮に夢や目標を持っているにしても,何も努力をしていないのなら,それは単なる妄想に過ぎないだろう.師と仰ぐ人が誰もいないのでれば,お手本がない人生を歩まなければならない.それは茨の道だろう.高校の先生などと回答してくれた学生もいたが, 素晴らしい出会いは人生を豊かにしてくれる.それぞれの学生が大学生活の中で,そのような素晴らしい出会いに恵まれることを願ってやまない.

私は,今の学生が昔の学生に学力で劣るとは全く思わないし, むしろ遙かに優秀だと思っている.実際,私の学生時代と比べれば,本当に優秀な学生が多い.だから,ゆとり世代批判とかには全く共感を覚えない.しかし,敢えて言うなら,良書や古典を読んでいない学生が多いことを危惧する.これに関連した質問が読書量だ.集計結果は下表のようになった.

読書数 [冊/月]
人数 [人]
10以上 4
5以上 5
4 1
3 4
2 11
1 21
1未満 12
0 3

もちろん,何冊読んだから立派だとか,読まなかったからダメだとか,そういう単純な話ではない.しかし,読書せず修養を怠ると, 10年後,20年後に馬脚を露すのではないだろうか.好むと好まざるとにせよ,京大生は社会から活躍を期待されている.その期待に応えるためにも,そして何より自分自身が満足できる人生を歩むためにも,良書を読むことを勧めたい.

英語学習については,もはや言うまでもないだろう.恐らく,逃げ通せるようなものではない.覚悟を決めて取り組もう.

最後に,読書を勧めている手前,お薦めの本をいくつか挙げておこう.


高校生〜大学新入生に勧めたい本

いよいよ自分の責任で自分の人生を決める覚悟をする時期です.自分は何のために生きるのか,どのように生きるのか,ということを学べるような本を読みたいですね.

人を動かす
デール・カーネギー,創元社,1999

良い人生を送るために,どのように人に接するべきか.人を味方にし,友を増やし,心豊かな人生を送るために,どのように人に接するべきか.この本には人心掌握の原則が書かれている.豊富な具体例が説得力を持つ.読むべき書物だ.大学院講義で複数の推薦図書を挙げたところ,学生が読んで参考になる,感銘を受けるという意味で,本書が一番良かったようだ.圧倒的な支持を得ていた.

青年の大成―青年は是の如く
安岡正篤,致知出版社,2002

高校生・大学生に是非とも読んで欲しいと思う.如何に生きるべきかということを,多くの実例を交えながら,わかりやすく説いている.必ずや,心に響くことが見付かるだろう.本書では,人間にとって最も大切なのは「徳」であり,徳性を身に付けるために修練しなければならないと説く.では,人間として自己を錬成するために必要なものは何か.それは,寸暇を惜しむこと,私淑する師と良い友人を持つこと,そして,愛読書を持つことだ.

ビジョナリー・ピープル
ジェリー・ポラス,スチュワート・エメリー,マーク・トンプソン,英治出版,2007

本書は,「ビジョナリー・カンパニー」の著者らが,政財界,宗教,芸術など様々な分野のビジョナリー・ピープルにインタビューを行い,成功し続ける人達の条件を明らかにしようとするものだ.本書に散りばめられたビジョナリー・ピープルの言葉には大いに刺激を受ける.非常に示唆に富む内容で,自分の生き方を見つめ直すきっかけを与えてくれる書籍だ.

[決定版]生きがいの創造
飯田史彦,PHP研究所,2006

飯田氏は本書で,「自分にとって有意義な価値観を自分自身の判断で選び取ることの大切さ」を訴えている.そして,自分に適した価値観を選ぶための情報として,死後の生命や生まれ変わりがあると信じることの妥当性を,科学的な研究成果を参照しながら示している.死後の生命や生まれ変わりを信じるか信じないかの判断は,本書で参照されている科学的研究成果を自分自身で確認してみてからでも遅くはないだろう.自分で確かめもしないで否定する人は,例えば,ガリレオが教会から受けた仕打ちを思い出してみるといい.人生とは何かについて考えるきっかけを本書に求めてみるのもよいだろう.特に,今の人生を辛いと感じている人は.

引き寄せの法則 エイブラハムとの対話
ジェリー・ヒックス,エスター・ヒックス,ソフトバンククリエイティブ,2007

人は,何かを強く望み,その実現を信じるならば,欲しいものを所有でき,なりたい人物になれ,したいことをできる.これは,人の思考が放つ振動が宇宙から共鳴するものを引き寄せるためである.これこそが宇宙を支配する法則,「引き寄せの法則」である.したがって,人はこの宇宙の法則を理解し,実践することによって,幸せな人生を謳歌することができる.逆に,自分が望むような人生を送っていないと感じる人は,「引き寄せの法則」を理解し,自分の思考を修正する必要がある.

話し方入門
デール・カーネギー,創元社,2000

人前で上手に話すための秘訣が書かれている.もちろん,単なるハウツウではない.人に伝えたいと切望するものがあること,周到に準備をすること,練習に練習を重ねて自信を持つこと,始め方と終わり方に注意すること,わかりやすく話すこと,そして,美しい言葉を身に付けることなどが挙げられている.人前で話すことの重要性を認識し,上手に話せるようになりたいと願う人にはきっと役立つ.


大学生〜大学院生に勧めたい本

この大切な時期を無為に過ごすことのないようにと願います.教養を身に付け,社会に貢献するための基盤をつくりましょう.勉強するのは当然で,それに加えて,寸暇を惜しんで良書を読みたいですね.

ドラッカーの遺言
P.F. ドラッカー,講談社,2006

20世紀最高の知識人とも評されるピーター・F・ドラッカー.彼が亡くなる直前のインタビューをまとめたのが,本書である.そこで扱われる領域は広く,しかも日本に焦点を当てた記述も多い.はじめてドラッカーに触れるという人にも,ドラッカーを敬愛する人にも,満足感を与える本であると思う.激動の21世紀を生きていくために,その足場を築くために,是非,本書を読んでみて欲しい.

経営者の条件
P.F.ドラッカー,ダイヤモンド社,2006

本書の対象は決して「経営者」ではない.組織において意志決定を行う知識労働者すべてが対象である.本書の前提は2つ.1つは,エグゼクティブの仕事は成果をあげることだということ.もう1つは,成果をあげる能力は修得できるということ.その上で,成果をあげる能力を修得するためになすべきことが書かれている.知識労働者として成果をあげるべき人に強く勧めたい.

武士道
新渡戸稲造,教文館,2000

”BUSHIDO: The Soul of Japan”の邦訳本である.新渡戸稲造は,日本人特有の高い精神性,日本の道徳思想の源流を武士道に求め,日本の道徳思想を正しく外国人に伝えるために本書を執筆した.本書には膨大な引用がなされている.その範囲は,聖書を筆頭に,古代ギリシヤ,古代ローマ,ドイツ,フランス,イギリス,アメリカ,中国等々の哲学者,思想家,歴史家,詩人等々,実に多岐に渡っている.そのような本だからこそ,世界の心ある人々に強く訴えかけることができたのだろう.

ハーバードからの贈り物 – Remember Who You Are
デイジー・ウェイドマン(著),幾島幸子(訳) ,ランダムハウス講談社,2004

本書「ハーバードからの贈り物」には,15人の教授からのメッセージが収められているが,いずれのメッセージも教授各々の体験・人生に深く根差しており,読み応えがある.この本を読んで凄いと思ったのは,ある1つの大学院の教授陣が,自分の体験に基づいて,これだけのメッセージを学生にきちんと伝えているという事実だ.教授が自分の人生観を自分の言葉で学生に伝えていることだ.本書で語られている訓話を抽象化してしまえば,どれもこれも既に語られていることだろう.世の中に,哲学,自己啓発,人生論,リーダーシップ論などの書籍は掃いて捨てるほどある.そうそう新しい理論が出てくるものではない.しかし,語られているメッセージは浅薄な抽象論ではない.教員が自分の人生を通して学び,学生に伝えたいと切望した内容だ.真剣に講義を受講した学生が,こういう話を最終講義で聴けば,強い刺激を受けるだろう.その場にいることができない者としては,せめて本書「ハーバードからの贈り物」を読んで,雰囲気を味わうことにしよう.

リストラなしの「年輪経営」
塚越寛,光文社,2009

このような善良な経営者がいるのかと感激する.マネーゲームに奔走する金の亡者になってしまう前に,いや,なってしまった後であっても,一読を勧めたい.就職活動をする学生にも強く勧めたい.就職先を選ぶのも,そこで自分が幸せになりたいと願ってのことだろうから,社員を幸せにする会社とはどのような会社であるか,本書を読んで真剣に考えてみて欲しい.

日本でいちばん大切にしたい会社
坂本光司,あさ出版,2008

本書「日本でいちばん大切にしたい会社」で紹介されている会社では,社員の表情が明るく,会社に誇りを持って,活き活きと一生懸命に働いている.経営者は社員とその家族を大切にし,顧客を大切にし,地域社会に役立とうと精一杯のことをしている.その結果,素晴らしい業績をあげている.著者は「会社は株主のもの」という考え方に真っ向から異を唱え,幸せでない社員が顧客を幸せにできるはずがなく,そんな会社が株主を幸せにできるはずもないという.就職活動をする学生にも既に就職した社会人にも是非読んでもらいたい.

職業としての学問
マックス・ウェーバー(Max Weber),岩波書店,1993

本書は1919年,マックス・ウェーバーの晩年の講演をまとめたものであるが,100年後の今なお色褪せていないと感じられる.文章の読解しにくさには面食らうが,学問を職業とする人の心構えや学問の存在意義を明らかにしようとする本書は一読に値する.

自動車の社会的費用
宇沢弘文,岩波書店,1974

社会的費用というのは,受益者負担の原則が貫かれていないために,社会全体が被っている損失のことである.「自動車の社会的費用」とは,つまり,自動車を利用している人達がその社会的責任を全うせず,社会全体に押し付けているコストということになる.本書は,その社会的費用を算出しようという企てである.研究者や技術者が技術を評価する場合にも,コスト・ベネフィット的な考え方しかしてこなかったのではないだろうか.新しい時代の要請に応える評価方法を模索する必要があるのではないか.

成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート
D.H.メドウズ,D.L.メドウズ,J.ラーンダズ,W.W.ベアランズ三世,ダイヤモンド社,1972

ローマ・クラブの「成長の限界」について見聞きしたことがない人は恐らくいないだろう.本報告書は,人類が無為無策に傍若無人な振る舞いを地球上で続けるなら,100年もしないうちに,資源不足,環境汚染,食糧不足などを原因として,危機的状況に陥ると警告している.この警告が出されたのが1972年.それから30年以上が経ち,まさに警告通りの道を人類は歩んでいるのではないかという危機感を持つ.それと同時に,ローマ・クラブの先見の明に敬服する.近年,環境,エネルギー,資源,食料などの問題が深刻化しており,それに取り組む研究も多数あるが,この「成長の限界」をまとめるに至ったプロジェクトのように卓越した視点と手法によるものが,どれ程あるのだろうか.様々な観点から,一読しておくべき報告書だと思う.

神曲 地獄篇煉獄篇,天国篇
ダンテ(著),平川祐弘(訳),河出書房新社,2008

人類史上最高の文学作品とも謳われる「神曲」の主人公は,作者のダンテ・アリギエーリ本人である.「神曲」はダンテの旅行記であるが,旅先が地獄,煉獄,天国であるという点が尋常でない.人類の思想に多大な影響を与えた本書を,教養という観点からも,読んでおく価値はある.

幸福論
ヒルティ(著),草間平作(訳),岩波書店,1961

人間の幸福について書かれた本は数多くあるが,本書は素晴らしいと思う.少なくとも,ショーペンハウエルの「幸福について―人生論」よりも,私の感覚によく合う.ヒルティは幸福になるためには,正当に仕事をすること,善いことを行う習慣を身に付けること,神を信じることなどが必要であると記している.聖書やダンテの「神曲」からの引用が膨大であるため,「神曲」を読んでから本書を読むことを勧めたい.

人生の短さについて 他二篇
セネカ,岩波書店,1982

「人生の短さについて」,「心の平静について」,「幸福な人生について」の三篇からなる.人は時を浪費するのを止め,最高の善,徳を求める生活をすべきであると説く.決して取り戻すことのできない時間を他人が奪っていくことを問題視し,多忙にかまける人間を咎め,時間を自分のために使うべきとする.セネカはローマ皇帝ネロの教育係であり,政治家であった.新約聖書の時代であり,興味深い.

自省録
マルクス・アウレーリウス,岩波書店,2007

自省録は何度読んでも,難しいところが多い.元々,人に読ませたり,本として出版するために書かれたものでなく,ローマ皇帝マルクス・アウレーリウスが文字通り自省しつつ書き連ねたものを,後世の人達が整理したものであるためだ.難しくはあるが,それでも,しっかり心に響く.私にとっては非常に良い本であり,座右の書である.

クリシュナムルティの教育原論―心の砂漠化を防ぐために
ジッドウ・クリシュナムルティ(Jiddu Krishnamurti),大野純一(訳),コスモスライブラリー,2007

クリシュナムルティは現代の教育を全否定する.それは完全に失敗したと.先進国では高等教育を受けた人々が贅沢な暮らしを謳歌しているが,争いや戦争が絶えず,貧困がはびこっている.悲惨な現実にまるで気付かないかのように振る舞う利己主義な人間を大量生産する教育.そんな教育が正しいはずがない.親や教師が「勉強しなさい」「良い大学に入りなさい」と子供に説くのも,すべては安穏とした人生を手に入れるためではないか.安定や安心を求める心は,恐怖や不安に突き動かされ,天下り的な社会の規則,なんとか教徒やなんとか民族,に自分を,そして子供たちを縛り付ける.それが自由な人間だろうか.心が鎖に繋がれた奴隷だろう.現代の教育は,そんな奴隷を量産しているにすぎない.そのような状態から解放され,真に自由な人間になるためには,まず,自分を縛り付けているものを自覚しなければならない.自分の内面に向き合って,自分が何者であるのかを知らなければならない.自分自身を知れとはそういうことなのだろう.本書は,スラスラと読めるような本ではない.巷に溢れる軽薄な教育本や勉強本とは次元が異なる.

20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義
ティナ・シーリグ(Tina Seelig),高遠裕子(訳),阪急コミュニケーションズ,2010

非常に示唆に富む本だ.本書を際立たせているのは,これがスタンフォード大学で起業家精神について教える集中講義の様子を伝えていることだろう.常識を疑うスキルを磨くための演習,ルール破りを実践するための演習,チャンスを見極めるための演習,失敗から教訓を引き出すための演習などが紹介されており,実に興味深い.多くの自己啓発本のように,自分のためだけに読むこともできるが,教育に活かすこともできる.本書を読んで,自分の行動を見直すこともできたし,自分がやりたい講義についてのヒントも得られた.自分の可能性を広げるために,自分で設けた限界を壊すために,学生も卒業生も読んでみることを勧めたい.

  2 Responses to “3回生アンケート結果:どんな大学生活を送っているのか?”

  1. 凝り固まった自分の価値観に適合しない学生を叩きたいだけ?

    • 同じ話を同じ人から聞いて,そこから何かを学ぶことができる人と,何も学ぼうとしない人がいます.どちらになるかは本人次第ですね.

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