11月 112012
 

大平光代の”子育てに効く”論語
大平光代,中央公論新社,2012

タイトルは「論語」となっているが,論語の解説をしているというよりは,大平光代氏の想いが語られている本という印象を受ける.いじめにあって自殺未遂(しかも割腹)をし,暴力団にも関係し,水商売も経験し,それでも,そこから大きく生き方を転換して,弁護士になり,非行に走る子供たちと向き合い,大阪市の助役を務め,そして現在はダウン症の愛娘と一緒に田舎で暮らすという,その波瀾万丈な人生経験を踏まえて語られる言葉には重みがある.

例えば,子育てについて,「論語」学而第一の六を引用して,以下のように書かれている.

「論語」学而第一の六

子曰わく,弟子(ていし),入りては則ち孝,出でては則ち弟,謹みて信あり,汎(ひろ)く衆を愛して仁に親しみ,行いて余力あれば則ち以て文を学ぶ.

先生がいわれた,「若者よ.家庭では孝行,外では悌順,慎んで誠実にしたうえ,だれでも広く愛して仁の人に親しめ.そのようにしてなお余裕があれば,そこで書物を学ぶことだ」

この言葉は,現代にも通じる至言です.

ところが,親たちは孔子の教えの真逆をいってしまいがちです.子どもが幼いときから「勉強さえしていればいい」「学校でいい成績を収めていれば,それでいいんだ」と叱咤激励し続け,勉強以外のことは何もさせない.そうやって育った子どもが,いい学校に入ったものの何かのきっかけで挫折を味わったとき,悲劇が起きます.

(中略)

では,子ども時代にどんな経験をさせればいいのでしょうか? 私が今,五歳の悠にさせているのは「お手伝い」です.

(中略)

料理や掃除,選択といった家事全般は,家族みんなが快適な日常生活を送るための「仕事」です.自分のためなら,「嫌になったからしない」という選択もありますが,家族がいると,今日はやめたというわけにはいきません.それだけに負担は少なくないのですが,家を取り仕切っているお母さんたちは,家族のことを思ってその仕事をこなしています.

そうした家事の一部を手伝わせることで,子どもには「自分は家族の一員である」という帰属意識が芽生えます.同時に「自分以外の人に対する思いやりの大切さ」や「役割を担っているだから,自分勝手はできない」,「ものは大切にしなければならない」など,人間関係や日々の生活で大事なさまざまなことを察知し,身につけていきます.

また,「論語」季子第十六に登場する,三友,三戒,九思を紹介しつつ,親が手本となることの重要性が指摘されている.

子どもは,親の「言う」通りではなく,親が「している」通りになるのです.勉強する子どもになって欲しければ,ビール片手にテレビを見ながら「勉強しろ」と命令するのではなく,親自身が本を読むなどしていれば,言われなくても机に向かうようになります.

「論語」季子第十六の四

孔子曰わく,益者(えきしゃ)三友.直きを友とし,諒(まこと)を友とし,多聞を友とするは,益なり.便辟(べんへき)を友とし,善柔を友とし,便佞(べんねい)を友とするは損なり.

孔子が言われた,「有益な友達が三種,有害な友達が三種.正直な人を友達にし,誠心の人を友達にし,物知りを友達にするのは有益だ.体裁ぶったのを友達にし,うわべだけのへつらい者を友達にし,口達者なのを友達にするのは害だ」

「論語」季子第十六の七

孔子曰わく,君子に三戒あり.少(わか)き時は血気未だ定まらず,これを戒むること色に在り.其の壮なるに及んでは血気方(まさ)に剛なり,これを戒むること闘(とう)に在り.其の老いたるに及んでは血気既に衰う,これを戒むること得に在り.

孔子が言われた,「君子には三つの戒めがある.若いときは血気が未だ落ち着かないから,戒めは女色にある.壮年になると血気が今や盛んだから,戒めは争いにある.老年になると血気はもう衰えるから,戒めは欲にある」

「論語」季子第十六の八

孔子曰わく,君子に三畏(さんい)あり.天命を畏れ,大人を畏れ,聖人の言を畏る.小人は天命を知らずして畏れず,大人に狎(おそ)れ,聖人の言を侮る.

孔子が言われた,「君子には三つの畏れ[はばかり]がある.天命を畏れ,大人を畏れ,聖人の言葉を畏れる.小人は天命を知らないで畏れず[我侭に振る舞い],大人になれなれしくし,聖人の言葉を馬鹿にする」

「論語」季子第十六の十

孔子曰わく,君子に九思あり.視るには明を思い,聴くには聡を思い,色には温を思い,貌(かたち)には恭を思い,言には忠を思い,事には敬を思い,疑わしきには問いを思い,忿(いかり)には難を思い,得るを見ては義を思う.

孔子が言われた,「君子には九つの思うことがある.見るときにははっきり見たいと思い,聞くときには細かく聞き取りたいと思い,顔つきには穏やかでありたいと思い,姿には恭しくありたいと思い,言葉には誠実でありたいと思い,仕事には慎重でありたいと思い,疑わしいことには問うことを思い,怒りにはあとの面倒を思い,利得を前にしたときは道義を思う」

家庭での「普通」の子育ての話だけではなく,弁護士として関わった,様々な問題を抱える子供たちとの交流などからは,子育てのみならず,大人の,社会の在り方についても教えられることが多い.

最後に,テレビのコメントに関して書かれていたことを引用しておこう.

そうした自分の体験も含めて,私は言葉の大切さを痛感してきました.それゆえ,テレビ局からいただくコメンテーター依頼を,申し訳ないと思いつつも,いつもお断りしています.人間の営みは複雑であるにもかかわらず,テレビは単純に図式化してわかりやすく見せていますよね.視聴率を考えれば視聴者受けをよくする必要があるからでしょう.出演するとなると,おそらくその「わかりやすさ」を求める流れに迎合しなくてはいけなくなるはずです.けれども,私がそうすることは自分のためにならないのはもちろん,だれのためにもなりませんし,だれかを傷つけるだけだと思うのです.

たとえば何か事件があったとき,テレビは加害者側を一方的に責めることが少なくありません.裏にどんな事情を抱えているかわからないのに,非難に終始する.それはとても怖いことだと思います.一つの立場,一つの方向から物事を捉えたり考えたりすることしかできないと,幅の狭い人間になってしまう,対処を誤ってしまうことがあると,私は長年言い続けてきました.子どもたちには,そのことを知ってほしいと思っています.

子育て中あるいは子育て予定の人はもちろん,そうでない人も読むといいと思う.

目次

「学び」の章

  • 教えられていないことはできない
  • 学びて時にこれを習う
  • 学問よりも大事なことがある
  • 努力をする大切さ

「愛情」の章

  • 「仁」のある暮らし
  • 信じられる人付き合いとは
  • ともを選ぶ基準
  • 親孝行って何?
  • 慣用を心がける

「自律」の章

  • 間違いを認められますか?
  • 主体性を持つ
  • 日々の生活で守りたいこと
  • 心が伴って「礼」になる

「知恵」の章

  • 争いを繰り返さないために
  • 言葉を慎む
  • 利益には知って見失われたもの
  • ほどほどを心がける
  • 「贅沢」と「貧乏」

「希望」の章

  • うまくいかない日もある
  • 「志」を忘れていませんか?
  • 自分を生かしてくれるもの
  • 理想とする生き方
  • まごころと思いやりを胸に