1月 302013
 

ボルティモアで開催された国際会議IFPACの終了後,ワシントンを経由してピッツバーグへ向かい,1月28日(月)に,The Duquesne University Center for Pharmaceutical Technology(DCPT)を訪問した.訪問メンバーは,製剤機械技術学会PAT委員会に所属している製薬企業の3名と私の計4名だ.皆さん,元々はIFPACのみに参加する予定だったが,折角はるばるボルティモアまで行くのだから,この機会にDCPTも訪問しましょうと半ば強引に誘い,今回の企画が実現した.なお,今回の訪問に際しては,第一三共からDCPTに留学されている方に大変お世話になった.

DCPTも入っている薬学系の建物@The Duquesne University
DCPTも入っている薬学系の建物@The Duquesne University

薬学系の建物4階から見えるスタジアム@The Duquesne University
薬学系の建物4階から見えるスタジアム@The Duquesne University

今回の訪問の目的は,QbD/PAT分野で精力的に活動しているProf. James K. Drennen IIIとProf. Carl A. Andersonの研究室を訪れ,過去10年にわたってFDAを対象としたQbD/PATに関する講習会も実施している彼らと,DCPT,QbD/PAT講習会,FDAのQbD/PATに対する姿勢,日本の状況などについて意見交換すると共に,研究室の設備を見学させてもらうことであった.

2人はDCPTのコアメンバーであるが,Dr. DrennenがResearch and Graduate ProgramsのAssociate Deanを務めるなど学内用務で多忙なため,センターでの実質的な研究の指揮はDr. Andersonが執っている.

スケジュールは以下の通り.

  1. Introduction of JSPMW/DCPT and discussion of PAT in US and Japan
  2. Graduate student presentations (5 students)
  3. Tour of Mylan School of Pharmacy and Graduate School of Pharmaceutical Sciences (Dr. Drennen)
  4. Lunch
  5. Presentation by Dr. Kano: Virtual Sensing technology
  6. Tour of DCPT (Dr. Anderson)

当初の予定では9時開始だったが,夜にみぞれが降り,公共交通機関が全面的に遅れたため,10時開始に変更となった.我々はキャンパスから徒歩圏内のホテルに滞在していたため,何の問題もなく,交通機関の乱れにも気付いていなかったが,郊外の山の方では影響が大きかったようだ.

最初の意見交換では,Dr. DrennenとDr. Andersonから,米国13大学が参加し,FDAが資金を提供しているコンソーシアムNIPTE(The National Institute for Pharmaceutical Technology and Education)等についての情報を得た.

大学院生5名の研究紹介は,研究室内の会議室で,大型液晶モニターを使用して行われた.学生の資料はDropboxで管理されており,ノートパソコンを持ち込むこともなく,会議室に設置されたデスクトップPCとワイヤレスキーボードが使用されていた.

DCPTの学生による研究紹介@The Duquesne University
DCPTの学生による研究紹介@The Duquesne University

研究科の施設はDr. Drennenに案内していただいた.ピッツバーグに米国本社のあるBAYERが資金提供している建物Bayer Hallでは,実験室等が2012年夏に改装されたとのことで,学生がグループ討議を行うための大型液晶モニター等を備えた会議室も複数用意されていた.TAが実験準備をしていた実験室には,複数のiPadが置かれており,実験資料などはiPadで閲覧できるようになっている.Dr. Drennenの執務室も2012年夏に改装されたとのことで,真新しく機能的だった.

Bayer Hall@The Duquesne University
Bayer Hall@The Duquesne University

ブッフェスタイルのランチ@The Duquesne University
ブッフェスタイルのランチ@The Duquesne University

ブッフェスタイルのランチ@The Duquesne University
ブッフェスタイルのランチ@The Duquesne University

ブッフェスタイルの昼食の後には,私が仮想計測技術に関するセミナーを行った.この5年程でアルゴリズム開発と産業応用を進めてきた局所PLS(Locally Weighted Partial Least Squares)と,当研究室の藤原助教が開発した全く新しい入力変数選択手法であるNCSC-VS(Nearest Correlation Spectral Clustering-based Variable Selection)とを,製剤および他産業への応用事例を交えながら紹介した.

DCPTの研究室はDr. Andersonに案内していただいた.NIR,ラマン,音波など多数の分析装置に加えて,混合,打錠,コーティングなどの製剤装置も設置されており,製剤の実験から分析までを研究室内で実施できるようになっている.一部の装置は分散型制御システムDCSを用いて運転できるようになっていた.FDA講習会も,この設備を用いて5日間かけて実施されている.

打錠機の説明をしてくれるDr. Anderson@The Duquesne University
打錠機の説明をしてくれるDr. Anderson@The Duquesne University

分散型制御システムDCSもあるDCPTの実験室@The Duquesne University
分散型制御システムDCSもあるDCPTの実験室@The Duquesne University

米国の現状について(学会参加だけでは到底得られないような)貴重な情報を得ることができ,参加したメンバーにとっては実りの多い訪問となった.

1月 302013
 

ボルティモアで開催されたIFPACの終了後,ピッツバーグでThe Duquesne University Center for Pharmaceutical Technology(DCPT)を訪問する製剤機械技術学会PAT委員会メンバー4名(製薬企業3名+加納)に別行動の4名を加えて,計8名でワシントンに向かった.

ボルティモアからワシントンまでは車で1時間ほどの距離だが,この日は雪のために道路が渋滞し,宿泊先のホテルWashington Marriott at Metro Centerに到着するまでに2時間以上かかった.タクシーの運転手も,ボルティモアに戻るのにまた2時間以上かかってしまうよとぼやいていた.

この8名で食事をするのは最後になるため,ホテルでお勧めのレストランを教えてもらい,ステーキを食べに行くことにした.Bobby Van’s Grillという店だ.高級感がある.

Bobby Van's Grill@ワシントン
Bobby Van’s Grill@ワシントン

メニューを眺めながら,まずは飲み物を注文しないといけないが,「本日はワインのボトルはどれも半額だ」というので,「どんな値段の付け方をしてんねん」と思いつつも,みんなでワインを頼んでみることにする.ステーキにあう比較的辛口の赤ワインで1本100ドル前後のお勧めを尋ねたところ,その答えがSONOMAの”CHATEAU ST JEAN”というワインの2005年.ワインリスト掲載価格1本135ドルのところ,本日は2本で135ドル.

Bobby Van's Grillのワイン@ワシントン
Bobby Van’s Grillのワイン@ワシントン

とりあえず乾杯.ワインの良し悪しはわからないので,美味しいと思っていただく.

メインのステーキの前にフレンチオ二オンスープを注文した.フレンチオ二オンスープとクラムチャウダーは,メニューに載っていると,どうしても注文したくなる.このフレンチオ二オンスープは非常に美味しかった.

Bobby Van's Grillのフレンチオ二オンスープ@ワシントン
Bobby Van’s Grillのフレンチオ二オンスープ@ワシントン

さて,メインのステーキには,やはりフィレを注文しようと思っていたところ,「Tボーンステーキを2人でシェアしないか」と勧められた.Tボーンの片側がフィレ,反対側がサーロインで,大きな塊なので2人分になるという.メニューには載っていないので価格を尋ねると,1人42ドルとのこと.注文しようと思っていたフィレが40ドル弱だったので,たまたま隣に座っていた方と「頼んじゃいますか」「ねぇ」ということで,Tボーンをお願いした.

Bobby Van's GrillのTボーンステーキ@ワシントン
Bobby Van’s GrillのTボーンステーキ@ワシントン

登場したTボーンステーキは巨大だった.2人ではなくて,4人で分けるべきではないですかというほどに大きい.写真では,下側がフィレ,上側がサーロインになる.食べ比べてみると,フィレの柔らかさが際立つ.美味しい.

とても2人では食べきれないので,他の6人にも応援を頼むが,それでも食べきることができなかった.

Bobby Van's GrillのTボーンステーキ@ワシントン
Bobby Van’s GrillのTボーンステーキ@ワシントン

フィレとサーロインの巨大Tボーンステーキを,赤ワインと共にいただきながら,ワシントンでの夕食を満喫した.

食事の後,ホテルへ戻り,私は1人でホテル周辺を散策しに出掛けた.コーヒーでも飲みに行こうかとフラフラと歩いていると,Barnes & Nobleを見付けたので,22時の閉店直前に,子供たちと約束していたディズニーの絵本などを購入した.

1月 302013
 

製剤技術,特に近年注目されているRTRt(Real Time Release Testing),QbD(Quality by Design),PAT(Process Analytical Technology)を主要テーマとする国際会議IFPACに参加してきた.会議の概要と感想を簡単にメモしておく.

名称:IFPAC 2013 – 27th International Forum and Exhibition Process Analytical Technology (Process Analysis & Control)

期間:2013年1月22-25日

場所:Baltimore Marriott Waterfront, Baltimore, Maryland, US

IFPACは毎年1月に極寒の米国ボルティモア(ワシントンの北)で開催される.こんな北方の都市で真冬に会議を開催しなくても,カリフォルニアやフロリダで開催すればいいじゃないかと思っているのは私だけではないはずだ.しかし,規制当局との関係が重要である製薬業界にとっては,米国FDA(U.S. Food and Drug Administration)の拠点近くで学会を開催することで,FDAから多くのスタッフに参加してもらうことが大切なのだろう.

今回の参加者は640人(事前登録)で,そのほとんどを製薬企業および関連するハードウェア・ソフトウェア企業などが占める.その他,FDAからの参加も多く,IFPACは製薬企業と規制当局が意見交換をする重要な場となっている.

参加者数と発表件数が共に多いFDAに加えて,欧州のEMA(European Medicines Agency)からも発表があるのに対して,日本の規制当局であるPMDA(医薬品医療機器総合機構)の存在感は極めて薄く,「PMDAは何を考えているのかわからない」という不満を共有している関係者は少なくないようである.

米国も含めて大学からの参加者は少なく,最先端の研究内容を発表するための会議というよりは,企業と規制当局が情報収集や意見交換を行うための会議という印象が強く,発表内容も概念的なものや申請に関するものが多い.例えば,新しいモデル構築方法を開発して予測精度が飛躍的に改善したという研究発表があると,その方法の詳細以上に,規制当局が求める妥当性検証はできるのかといったことが問題にされる.このようなところに,医薬品産業の特殊性と研究対象としての難しさが現れている.

技術の方向性としては,とにかくPATと称して重要品質特性を予測してみるという段階は終わり,リアルタイムモニタリングやプロセスコントロールに焦点が移っている.会議中に多変量統計的プロセス管理(MSPC)やモデル予測制御(MPC)といったプロセス制御分野では馴染みの言葉を頻繁に耳にした.特に,会議前ワークショップのテーマがSPCであることからもわかるように,各種製剤工程へのMSPCの適用が重要な課題となっている.なお,議論されている技術は古典的で,手法そのものに新規性はないが,実際に使用して成果をあげることが目標となっている.これは重要なことだ.理論が整備されていても,実際に使えないならメリットは生まれない.その他,バッチプロセスから連続プロセスへの転換も引き続き重要なテーマとなっている.

メガファーマにおけるQbD/PAT技術の現状を知る,規制当局と意見交換する,展示会で情報収集する,という観点からはIFPACは素晴らしい会議であるが,他分野でも活動している一研究者としては,何かと不満のある会議でもある.

何よりもまず,運営が実に適当臭い.アカデミック向けの会議参加費が明示されておらず,今回は事務局とメールで遣り取りして価格が決まった.その上,会場で受付をしようとすると,「参加費が支払われていない」と文句を言われ,潔白が証明されるまで待たされた.また,ホテル宿泊代金や食事代金が会議参加費に含まれているため,延泊を学会事務局を通して申し込んだのだが,ホテルに間違った情報が伝えられていた.

企業や規制当局からの発表がほとんどであり,それらを促す必要があるため,論文の投稿は求められておらず,要旨だけで発表が認められる.中には,要旨すら提出していないものもある.このため,先にも書いたとおり,概念的な発表が多く,似たような内容が繰り返し発表される.新しい技術を紹介するものも玉石混淆であり,分析装置メーカーやソフトウェアメーカーの宣伝に近い発表もある.

良いところは,朝から晩まで,スターバックスコーヒーが飲み放題で,パンやお菓子も食べ放題になっているところだ.食事も学会参加費に含まれているため,本当に缶詰状態での学会参加となる.セッション開始は朝7:30頃で,昼食を挟んで,夕方18:00頃までセッションがあり,夕食後にもセッションがあるといった具合だ.

日本からの参加者は15名程度で,ほとんどが製薬関連企業からの参加である.開催国であるアメリカを除くと,日本からの参加者数の多さは目立っていたように思う.実際,開会挨拶でも日本からの貢献について触れられていた.ただし,発表件数は少なく,PMDAからの参加もないため,存在感は希薄だったと言わざるをえないだろう.

今回のIFPAC会期中に,製剤機械技術学会PAT委員会のメンバー4名(製薬企業3名+加納)はCAMO(Unscramblerの開発販売)とのディナーミーティングに参加し,意見交換を行った.この4名はIFPAC終了後にThe Duquesne University Center for Pharmaceutical Technology(DCPT)を訪問した.これに関しては別のメモにまとめる.

ボルティモアで一番クラブケーキが美味しいらしい店に招待していただき,そのクラブケーキをいただいた.確かに美味しかった.もちろん,アメリカのレストランなので,ボリュームは満点だ.さらに,食後のデザートに燃えるアイスクリームケーキを注文していただき,皆で少しずついただいた.当然ながら,大人6人でも食べきれない.

燃えるアイスクリームケーキ@CAMOディナーミーティング
燃えるアイスクリームケーキ@CAMOディナーミーティング

生クリームの内部はミントアイスクリーム@CAMOディナーミーティング
生クリームの内部はミントアイスクリーム@CAMOディナーミーティング

さらに翌日のセッション終了後には,Umetrics(SIMCAの開発販売)に日本人参加者向けのセミナーを開催していただいた.日本人参加者は私が事前に把握していた13名で,Umetrics社からは発表者6名の他にも数名が参加してくれていた.さらに,米国大学やメガファーマからも数名が参加していた.

Umetricsセミナーのアジェンダ@ボルティモアIFPAC
Umetricsセミナーのアジェンダ@ボルティモアIFPAC

ディナーを含めて3時間半ほどのセミナーで,SIMCAファミリーの各ソフトウェアについて,担当者から概要を紹介してもらったので,日本人参加者の情報収集には役立ったと思われる.

Umetricsセミナーのオープンバー@ボルティモアIFPAC
Umetricsセミナーのオープンバー@ボルティモアIFPAC

セミナーに先立つディナーはビュッフェ形式で,オープンバーも用意してくれていた.各種ビールやワインなどが飲み放題で,料理もボルティモア名物のクラブケーキをはじめ,魚,肉,野菜などが食べ放題で,このセミナーに相当コストをかけてくれていることがわかる.

Umetricsセミナーのビュッフェ@ボルティモアIFPAC
Umetricsセミナーのビュッフェ@ボルティモアIFPAC

クラブケーキなど@Umetricsセミナーのビュッフェ
クラブケーキなど@Umetricsセミナーのビュッフェ

実質4日間の会議であったが,日本人参加者向けセミナーを企画するなど,充実したプログラムで,QbD/PAT分野で仕事をしている日本人研究者・技術者の横の繋がりを強化していくきっかけになったのではないかと思う.既にメールベースで,会議で得た情報の共有化も始められており,これを機に,会社の垣根を越えたネットワークが構築されていくことを期待している.

1月 222013
 

雪月花の数学―日本の美と心に潜む正方形とルート2の秘密
桜井進,祥伝社,2010

本書「雪月花の数学」を読んで,数学が面白いと感じたり,数学に興味を持ったり,数学が好きになったりすることはあるだろう.桜井進氏の数学への愛が伝わってくる,読んで楽しい本だ.

本書のキーワードである「白銀比」とは,黄金比1対1.6に対して,1対1.4で与えられる比のことだ.

黄金比は,正確には1対(1+√5)/2で表され,クフ王のピラミッド,アテネのパルテノン神殿,ミロのヴィーナスなど,古来,多くの建築物や芸術作品に取り入れられてきた.身近なところでは,各種カードや名刺,国旗の縦横比が黄金比になっている.

一方,白銀比は1対√2で表され,著者によると,この白銀比こそが日本の美と心を解読するための鍵となる.白銀比が用いられている身近な例としては,A版やB版といった用紙の縦横比があげられる.1対√2は,正方形の1辺と対角線の長さの比であり,丸太から最も無駄なく角材を切り出すときの断面,平安京のような碁盤の目状の都市の区画,4畳半の茶室,1坪である畳2畳,風呂敷など,いたるところに正方形が登場する日本においては,ひときわ重要な意味を持つ.また,1対√2は,法隆寺や菱川師宣の見返り美人図などにも現れるという.

このように,本書前半は,西洋における黄金比と,日本における白銀比の対比を軸に話が進められていく.黄金比について語るには,もちろんフィボナッチ数列は欠かせない.本書でも詳しく取り上げられている.さらに,黄金比については,ダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード」から,ラングドン教授の言葉が引用されている.

ダ・ヴィンチは人体の神聖な構造を誰よりもよく理解していた.実際に死体を掘り出して,骨格を正確に計測したこともある.人体を形作るさまざまな部分の関係がつねに黄金比を示すことを,はじめて実証した人間なんだよ

黄金比は自然界のいたるところに見られる.偶然の域を超えているのは明らかで,だから古代人はこの値が万物の創造主によって定められたにちがいないと考えた.古の科学者はこれを”神聖比率”と読んで崇めたものだ

後半では,正岡子規が提唱した575の韻律を持つ俳句や,1月7日の人日,3月3日の上巳,5月5日の端午,7月7日の七夕,9月9日の重陽からなる5節句,子供の成長を祈る753参りなどを引き合いに出しながら,日本人が陰陽道において陽の数とされる奇数,そして素数をいかに大切にしてきたかが述べられる.さらに,素数を探索するという話から,指数と対数,音と対数の関係,そしてグランドピアノの形状が指数関数であるという話へと発展していく.実に面白い.

江戸時代の和算についても紙面が割かれており,当時の日本の数学がいかに世界の最先端を走っていたかがわかる.徳川綱吉の時代に直参旗本であった関孝和は,「発微算法」を著し,文字係数多元高次方程式の解を与えた.彼自身が著した書物はこれのみではあるが,その業績は物凄く,筆算,代数方程式,ニュートンの近似解法,極大極小理論,終結式と行列式,近似分数,関・ベルヌーイ数,円周率の計算,ニュートンの補間法,求弧術,パップス・ギュルダンの定理,円錐曲線論,等々に及ぶそうだ.これらを独力で成し遂げたというのだから,天才と呼ぶに相応しい人物だろう.世界の超有名数学者に全く引けを取らない.

ところが,それほどまでに発展した和算も,明治維新を機に忘れ去られていく.西洋文明の導入に伴い,西洋式の数学を用いなければならなくなったからだ.なんとも残念な話だが,それ以降も数学界における日本人の果たしてきた役割は非常に大きいとされる.1994年にワイルズが完成させたフェルマーの最終定理の証明では,谷山・志村予想と岩澤理論が重要な役割を果たした.1936年に設けられたフィールズ賞はこれまでに3人の日本人が受賞している.

その他にも,富士山の稜線が指数関数で表されること,そこに登場するネイピア数eはオイラーの公式を通して円周率π,虚数単位iと結びつけられていること,葛飾北斎の浮世絵には黄金比が取り入れられていること,等々,数にまつわる興味深い話がたくさん織り込まれている.最後の方はやや著者が熱くなりすぎているような感じもするが,本書「雪月花の数学」は数学の面白さに触れられる好著と言えよう.

目次

  • 日本の美に潜む√2と正方形の謎-日本人が愛する「数」と「形」
  • 黄金比が描く「動」、白銀比が示す「静」-数が明らかにしたヨーロッパと日本の感性の違い
  • 「五・七・五」と「素数」の関係-なぜ日本人は「3・5・7・9」の「奇数」を大切にするのか
  • 江戸の驚異的数学「和算」の世界-天才数学者を輩出する日本、その伝統と理由
  • 雪月花の数学-四季折々の自然を愛でる心、数式はすべてを知っていた
1月 212013
 

21日(本日)から10日間の予定でアメリカ出張に行く.今回は,まず,ボルティモアで開催されるIFPACという製剤系の国際会議(QbD/PATがメインテーマ)に参加し,その後,ピッツバーグに移動して大学を訪問する.往路は,伊丹空港から成田空港経由でワシントンダレス空港へ.自宅から伊丹空港までは,MKスカイゲートシャトルを利用するが,なんとお迎え時間が4:45AMというお知らせが来た.早い...

20日(日)夕刻,センター試験を終えて帰宅し,海外出張準備を終えて,メインマシンとして利用しているノートパソコンSONY VAIO Sで仕事をしていると,フリーズした.よくあることだ.”Ctrl+Alt+Del”も効かないので,仕方なく電源ブチッとやると,再起動できずに,”Operating System Not Found”と言われてしまった.その後,”Ctrl+Alt+Del”や電源ブチッを繰り返すものの,どうしても起動できない.いろいろいじっていると,RAID0(ストライピング)にしている512GB(256GBx2)のSSDが壊れたらしいことが判明した.もはやどうしようもない.

この時点で夜10時.シャトルのお迎え時間まで,あと7時間を切っている.さあ,どうする!?

とにかく代替機を入手しなければならない.自宅用ノートPCもあるが,あくまで自宅(私以外)用なので,LaTeX環境はもちろん,Adobe Master Collectionなど,普段使用しているソフトウェアがインストールされていない.これでは不十分だ.幸い,先代ノートPCのVAIO Zが教授室に保管されたままになっているので,急ぎ大学へ向かう.自転車に乗っている場合ではないので,自家用車で急ぐ.大学に到着すると,1年以上ぶりにVAIO Zが動作することを確認して,自宅へ引き返し...

来たときには開いていた京都大学吉田キャンパスの自動車用ゲートが閉じられている.しかも,鍵がかかっている.いや,ほんとに,そんなの聞いてないよ.普段,自転車通勤なものだから...守衛所に駆け込み,「すみません.どこから自動車で出られますか?」と尋ねると,「えっ,学生?」と鋭い眼光で睨まれてしまった.「いえ,教員です」と告げると,「普段自動車は使っていないの?今からゲートを開けに行くから,そちらへ自動車を動かして」と優しく対応してもらえた.本当に助かりました.ありがとうございました.

思わぬタイムロスがあったものの,制限速度を守りつつ,自宅へ戻る.大学から自宅へ向かっている最中も,ノートPCはWindows Updateのインストールを継続したままだ.とにかく1年以上放置してあったわけだから,Updateの数も凄いことになっていて,129個もある.

それにしても,旧バージョンではあるが,大概のソフトウェアをインストールしたままにしておいたのが幸いした.とりあえず,使えるノートPCを手に入れることはできた.問題は仕事で使うファイル群だが,そのほとんどはDropbox for Team(有料版Dropbox)で同期してあるので,手に入れた旧型ノートPCで同期させればいい.ただ,ファイル群の容量は100GBを軽く超えているので,シャトルのお迎え時間までに全てをダウンロードすることはできない.重要なフォルダを選択して,とにかくそれだけを同期させる.

現在の時刻は4:22AM.あと20分しかないが,まだ同期中だ.メールソフトThunderbirdのファイルが大きすぎる...

それでも,過去の講演用スライドファイルと論文原稿ファイルはダウンロードできたので,これで機内でプレゼン資料の作成と論文の執筆はできる.あとは,空港のラウンジなどで,ひたすら同期を進めるしかない.

ともかく,徹夜のまま,アメリカへ行って参ります.このまま時差ボケ解消してしまえればラッキーなのだけれども...

みなさん,バックアップは忘れずに!(データだけじゃなく)

1月 192013
 

大学や大学院で勉強するとき,さらに研究室に配属されて研究を進めるときに,要求されるレベルについていけない,必要な能力が不足しているという学生は,共通点として,「国語力」(この表現が適切かはわからないが)に問題を抱えていることが多いのではないだろうか.

勉強にしても研究にしても,まずは,本や論文を読んで書かれてあることを正確に読み取ることが必要である.また,解くべき問題を整理するためにも,問題を解決するためにも,論理的に考えることが必要である.さらに,自分の考えや検討した結果を言葉で表現することも必要である.国語力が弱いということは,読解力が低く,論理的に考える力が弱く,自分の意見を言葉で表現する力も弱いわけであり,そのような状態で勉強や研究がまともにできるはずはないだろう.

もちろん国語力だけが原因だとは言わないが,相対的に研究遂行能力が高くないと感じられる学生の共通点を考えてみると,国語力の強化は最優先で取り組む価値のある問題ではないかと思われる.

もちろん,何事にも向き不向きや好き嫌いはあるわけで,国語力に問題のある学生がそうでない学生に対して劣っているとか努力が足りないと断じるつもりはない.それでも,研究をするのであれば,最低限要求されるレベルの国語力はないと困る.研究テーマによって求められるレベルは様々だろうが,文献を読んで論文を執筆する必要があることを考えると,かなり高いレベルの国語力を身に付けておいた方がいいのは確かだ.

そもそも国語力が身に付いていないのは,これまでの読書量が不足していることも原因の1つだろう.実際,学部生に読書量(教科書と雑誌・コミック類を除く)を尋ねてみると,年間0冊という学生もいるし,多くの学生は年間10冊も読んでいない実態がわかる.自分で何とかしたいという人は,まずは意識して本を読むようにしたらいいだろう.

ただ,研究室で学生の国語力強化に取り組むことを考えた場合,読書しろよと悠長なことも言っていられないので,国語力・作文力に焦点を合わせて,学生に読んでもらう本をいくつか購入した.以下に列挙する.


基本的に,定番中の定番を集めてあることがわかるだろう.

数日内に研究室本棚に配備されるので,学生は読むように!

仮に大学院において,研究遂行能力に不安のない学生に入学してもらいたいと考えるのならば,大学院入試で文章を書かせてみた方がよいのではないかと思う.テーマは研究関連でも時事でも何でも構わないだろうが,ある程度の長さの文章を書いてもらったら,まるで国語ができない(当然研究もできない)学生が研究しなければならない組織に入ってしまうのを防げるかもしれない.

赤ペン先生を頑張ろうと思っている私だが,残念ながら1日24時間しか持ち合わせていないので,私の添削を受けるための必要条件として,購入した本を読んでおくことを求めるようにしないといけないのかもしれない.教員が(研究費では買えないような)良い本を購入して研究室の本棚に並べているのだから,その想いには応えてもらいたいなと勝手ながら思う.

1月 102013
 

15歳の日本語上達法(15歳の寺子屋)
金田一秀穂,講談社,2010

図書館で,ふとこの本の背表紙が目を引いた.「おっ,金田一先生の日本語教室か.日本語を上達するための方法ってどのようなものだろうか」と思って読み始めた.

そもそも私は,学校で習う国語が好きでなかった.特に,登場人物や作者の心情を答えなさい系の問題は大嫌いだった.「知るか,そんなもの.作者に確認したのかよ」と思っていた.自分の作品が国語の問題に引用された人達が,その問題と模範解答を見て,「いや,そういう意図ではなかったのですけどね」と答えているのを見掛けたりすると,ますます嫌いになった.それでも,誰かの主張を正しく理解したり,自分の考えを正確に述べたりするためには,日本語の力は欠かせないので,嫌いだからと避けている場合ではない.

現在は大学教員として学生のレポートや論文原稿を添削しているが,正しい日本語が書けなかったり,論理的な文章が書けなかったりする学生は少なくない.もちろん,企業人でも同様だ.むしろ,書ける人の方が少ないのではないかとも思う.しかし,研究者や技術者として,あるいはそれ以外の職業であっても,正しい日本語が使えることや論理的な文章が書けること,話せることは大切だろう.少なくとも,そういう基礎的なこともできないのに,京都大学卒業生ですなどと言われては恥ずかしくて困る.だからこそ,膨大な時間を赤ペン先生業務に割いているのだが,長年そういう経験をしていると,「効果的に日本語力を身につけてもらうためにはどうしたらいいのか?」という疑問を自然と抱くようになる.

日本語を上達するために,第一人者はどのような勉強法を推奨しているのか.この点に興味があって,本書「15歳の日本語上達法」を,40歳を超えた大学教員が読み始めた.

難しい漢字を知らなくたって,別に恥ではないんです.人間にとって大切なのは漢字を記憶することよりも,言葉を使って考えることだからです.

冒頭から何とも有り難いお言葉だ.鬱葱とか,薔薇とか,書けなくても恥じる必要はないと.本書で金田一氏が強調しているのは「考える力」の大切さであり,そのための言葉の重要性であり,それがこの一文に良く現れている.

では,なぜ,考えるために言葉が重要なのか.金田一氏はこう語る.

もしも,「金田一」だとか「大学教師」とかいった言葉の情報をぜんぶ取り払ってしまったら,ぼくは何者でもなくなってしまう.なんというか,勝手に動く,ぶよぶよした,気味の悪いへんてこりんなものになってしまうんですね.いや,ぼくに限らず,言葉というものがなければ,みなさんにとって,お父さんもお母さんも,担任の先生も,すべてが見分けのつかない,へんてこりんなものになってしまうんです.

だからこそ,人間には言葉が必要なんです.

言葉がないと人間は生きてはいけません.

ぼくたち人間は,言葉を通じて世界とつながっています.

英米人には肩凝りがないと聞いたことがある.そもそも,肩凝りという言葉がないらしい.例えば,研究社新英和・和英中辞典には,「肩凝り stiff shoulders/肩凝りをほぐす massage one’s stiff shoulders #英米人には肩凝りはあまりないという. したがってこの言葉もあまり用いられない.」とある.肩凝りがないから肩凝りという言葉が生まれなかったのか,肩凝りという言葉がないから肩凝りが認識されないのかはわからないが,対応する言葉がないものは「へんてこりんなもの」でしかなくなる.

言葉は大切だ.言葉を知ることは世界を知ることに繋がる

言葉の意味をきちんと理解すること.それは,世の中を正確に理解することにつながっていきます.ちょうど,画素数の少ないカメラより,画素数の多いカメラのほうが被写体をより正確に美しくとらえることができるように,語彙を増やし,それを正確に理解しておくと,人は世の中の出来事をきちんと定義できるようになる.そうやって,人は自分の心を整理することができるようになるんですね.

語彙が貧弱だと,理解することも,表現することも,ままならなくなる.幼児は自分の感情をうまく言葉にできないと怒るが,似たような大人もいることだろう.

話を最初に戻すと,人間にとって大切なのは言葉を使って考えることである,というのが金田一氏の主張であった.では,どうすれば言葉を使って考えられるようになるのか.それこそが,本書「15歳の日本語上達法」の核心であろう.金田一氏は三つの提案をしている.提案項目が3つというのは,ジョブズのプレゼンなどでもお馴染みの技法だ.

人間にとって大切なのは記憶することではなく,頭を柔軟にし,視野を広げて,考える力をより高めていくことです.具体的には,ある知識と,まったく別の知識を結びつけて,別の考え方を作り上げていくことなんですね.言葉で考えるという力を養っていくために,ぼくはみなさんに三つの提案をしたいと思います.

1.外国語を身につけよう,外国で過ごしてみよう

2.古典にアタックしてみよう

3.目にしたものを言葉にしてみよう

で,でたな,グローバル人材!! しかも,教養人!! などと仰け反らないで,話に耳を傾けてみよう.

外国に行き,現地の生活に適応できるかできないかは,そこの生活をどう楽しむかにかかってきます.そのために必要なのは旺盛な好奇心であり,おもしろがり精神なんですね.それができれば語学への関心だって自然に生まれてくるはずです,さまざまな国の価値観を楽しむことで,人はものを見る目や考え方が大きく広がっていく.それはぼくらの考える力が確実に増していくことにつながります.

私自身も,アメリカに留学させてもらい,たかだか10ヶ月ではあったけれども,日本以外の国に住むという経験をして,視野が広がったと思う.そこに住むというのは,海外旅行とは全く別の次元の経験となる.そういう経験が考える糧になるのは確かだろう.

ぼくたちは「ホンモノ」に出会ったとき,それに感動できる受け皿としての能力を,自分なりに作っておいたほうがいいし,そのほうが絶対により豊かな人生を送れます.「ホンモノ」とはこういうものだ,という感受性を養うためにも,ぜひ,古典に親しむ機会を作ってみてください.

恐らく,本だけはない.音楽にしても,絵画にしても,広く古典に親しむ,昔から受け継がれ,その価値が認められ,大切にされてきたものに親しむというのは素晴らしいことだろう.

人生にはどうしても,この相手だけには自分の考えをきちんと伝えたいという場面が必ずあります.そんなとき,論理的で明晰な文章の構成力が身についていれば,自分の意見を感情的にならず,客観的に正確に相手に伝えることができるのです.

「自分の気持ち以外のもの」を言葉にする訓練は,実際に文章を書かないと,なかなか身につきません.いざ,やってみると,言葉で物事を正確に伝えることの難しさがよくわかり,「なるほど,日本語力を磨くとはこういうことなのか」と実感できるはずです.

まさに,その通りだ.学生のレポートや論文原稿を添削しまくる赤ペン先生業務を通して痛感している.私にしても,先生方に根気強く指導していただいたおかげで今があるので,その恩に報いるためにも,赤ペン先生は頑張ろうと思っている.

この3つの提案は大いに頷けるないようだ.

最後に,15歳の若者に向けた金田一氏のメッセージを引用しておこう.

結局,人間というのは悩みを乗り越えて,自分で自分を作り上げていくしかない生き物です.「自分探し」なんて考え方は嘘っぱちで,人は自分自身から逃れることはできないのです.

どうか,若いみなさんは思春期の悩みに押しつぶされることなく,あわてず,一歩一歩,人生を歩んでいってください.そして,世界に目を向け,自分にも目を向けて,自分自身をしっかりと表現できるような人間になってください.

目次

  • ぼくは学校が嫌いだった
  • 言葉ってナニ?
  • 正しくなくても,伝わる言葉
  • 言葉にならない言葉
  • 考えるための言葉
  • 十五歳のための日本語力上達法
  • ゆっくり大人になっていいんです