1月 222013
 

雪月花の数学―日本の美と心に潜む正方形とルート2の秘密
桜井進,祥伝社,2010

本書「雪月花の数学」を読んで,数学が面白いと感じたり,数学に興味を持ったり,数学が好きになったりすることはあるだろう.桜井進氏の数学への愛が伝わってくる,読んで楽しい本だ.

本書のキーワードである「白銀比」とは,黄金比1対1.6に対して,1対1.4で与えられる比のことだ.

黄金比は,正確には1対(1+√5)/2で表され,クフ王のピラミッド,アテネのパルテノン神殿,ミロのヴィーナスなど,古来,多くの建築物や芸術作品に取り入れられてきた.身近なところでは,各種カードや名刺,国旗の縦横比が黄金比になっている.

一方,白銀比は1対√2で表され,著者によると,この白銀比こそが日本の美と心を解読するための鍵となる.白銀比が用いられている身近な例としては,A版やB版といった用紙の縦横比があげられる.1対√2は,正方形の1辺と対角線の長さの比であり,丸太から最も無駄なく角材を切り出すときの断面,平安京のような碁盤の目状の都市の区画,4畳半の茶室,1坪である畳2畳,風呂敷など,いたるところに正方形が登場する日本においては,ひときわ重要な意味を持つ.また,1対√2は,法隆寺や菱川師宣の見返り美人図などにも現れるという.

このように,本書前半は,西洋における黄金比と,日本における白銀比の対比を軸に話が進められていく.黄金比について語るには,もちろんフィボナッチ数列は欠かせない.本書でも詳しく取り上げられている.さらに,黄金比については,ダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード」から,ラングドン教授の言葉が引用されている.

ダ・ヴィンチは人体の神聖な構造を誰よりもよく理解していた.実際に死体を掘り出して,骨格を正確に計測したこともある.人体を形作るさまざまな部分の関係がつねに黄金比を示すことを,はじめて実証した人間なんだよ

黄金比は自然界のいたるところに見られる.偶然の域を超えているのは明らかで,だから古代人はこの値が万物の創造主によって定められたにちがいないと考えた.古の科学者はこれを”神聖比率”と読んで崇めたものだ

後半では,正岡子規が提唱した575の韻律を持つ俳句や,1月7日の人日,3月3日の上巳,5月5日の端午,7月7日の七夕,9月9日の重陽からなる5節句,子供の成長を祈る753参りなどを引き合いに出しながら,日本人が陰陽道において陽の数とされる奇数,そして素数をいかに大切にしてきたかが述べられる.さらに,素数を探索するという話から,指数と対数,音と対数の関係,そしてグランドピアノの形状が指数関数であるという話へと発展していく.実に面白い.

江戸時代の和算についても紙面が割かれており,当時の日本の数学がいかに世界の最先端を走っていたかがわかる.徳川綱吉の時代に直参旗本であった関孝和は,「発微算法」を著し,文字係数多元高次方程式の解を与えた.彼自身が著した書物はこれのみではあるが,その業績は物凄く,筆算,代数方程式,ニュートンの近似解法,極大極小理論,終結式と行列式,近似分数,関・ベルヌーイ数,円周率の計算,ニュートンの補間法,求弧術,パップス・ギュルダンの定理,円錐曲線論,等々に及ぶそうだ.これらを独力で成し遂げたというのだから,天才と呼ぶに相応しい人物だろう.世界の超有名数学者に全く引けを取らない.

ところが,それほどまでに発展した和算も,明治維新を機に忘れ去られていく.西洋文明の導入に伴い,西洋式の数学を用いなければならなくなったからだ.なんとも残念な話だが,それ以降も数学界における日本人の果たしてきた役割は非常に大きいとされる.1994年にワイルズが完成させたフェルマーの最終定理の証明では,谷山・志村予想と岩澤理論が重要な役割を果たした.1936年に設けられたフィールズ賞はこれまでに3人の日本人が受賞している.

その他にも,富士山の稜線が指数関数で表されること,そこに登場するネイピア数eはオイラーの公式を通して円周率π,虚数単位iと結びつけられていること,葛飾北斎の浮世絵には黄金比が取り入れられていること,等々,数にまつわる興味深い話がたくさん織り込まれている.最後の方はやや著者が熱くなりすぎているような感じもするが,本書「雪月花の数学」は数学の面白さに触れられる好著と言えよう.

目次

  • 日本の美に潜む√2と正方形の謎-日本人が愛する「数」と「形」
  • 黄金比が描く「動」、白銀比が示す「静」-数が明らかにしたヨーロッパと日本の感性の違い
  • 「五・七・五」と「素数」の関係-なぜ日本人は「3・5・7・9」の「奇数」を大切にするのか
  • 江戸の驚異的数学「和算」の世界-天才数学者を輩出する日本、その伝統と理由
  • 雪月花の数学-四季折々の自然を愛でる心、数式はすべてを知っていた

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