3月 072013
 

カナダから来てくれている博士課程学生と研究について話をした後に,彼女が「日本の文化は素晴らしい」と言ってくれた.

そもそも彼女が日本に興味を持ったのは,東日本大震災の映像を見てからだという.地震や津波の映像も見たようだが,彼女に最も強い印象を与えたのは,震災直後,品薄のスーパーマーケットなどで整然と列を作って忍耐強く待つ日本人の姿だったという.暴徒化することもなく,自分のことだけを考えるのではなく,じっと辛抱する姿を見て,こんな国は他にはないと思ったそうだ.しかし,自分の周りには日本人がいない.それで,日本に行ってみたいと思うようになったらしい.先に「研究について外国人学生と語る」に書いたような研究以外にも,言葉の通じない日本を敢えて選んだのには,そういう背景があったようだ.

それにしても,世界中の人達にそのような強い印象を与え,素晴らしい文化を持っていると思ってもらえる日本人を誇りに思う.グローバル化だなんだと騒がしい世の中になったが,日本人が尊敬されるとしたら,その理由は,英語が話せるとかそんなことでではない.やはり,日本文化を大切にできる人,日本文化を発信できる人をこそ世界に誇りたい.

日本人はこの素晴らしい文化をしっかり守っていかなければならないと思う.

東日本大震災の際に自衛隊の活躍に感激した人も多いだろうが,そこで陣頭指揮を執られた第三十一代陸上幕僚長の火箱芳文氏がインタビューで次のように答えられている.

多くの国民がこの誇るべき国を潰してなるものかと思うことで,再び甦ると思います.日本は小さな島国でありながら独自の文明国家として,長い歴史と伝統を持ち,近代においては西洋の技術文明を取り入れ,世界に誇るべき技術大国としてここまで発展を続けてきた.そういう素晴らしい歴史や文化,伝統というものを子供たちにもっとしっかりと教育すべきだと思います.

その火箱氏が心の支えとしてきたのが,吉田茂元首相が防衛大学校第一期学生卒業式で述べた訓辞だという.

君たちは自衛隊在職中,決して国民から感謝されたり,歓迎されることなく,自衛隊を終わるかもしれない.・・・自衛隊が国民から感謝され,ちやほやされる事態とは外国から攻撃されて国家存亡の時とか,災害派遣の時とか,国民が困窮し国家が混乱に直面している時だけなのだ.・・・どうか,耐えてもらいたい.

頭が下がる.

3月 072013
 

カナダから来てくれている博士課程学生が来週帰国する.当研究室での滞在は約2ヶ月間で,今年秋には博士号を取得できる見込みだそうだ.彼女を引き受けるに際して,彼女の指導教員が「うちで一番優秀な学生だからよろしく」とメールをくれただけあって,とても意欲的で熱心な学生だった.

彼女との最後の研究打合せでは,当研究グループで開発した2つの手法(Just-In-Time型仮想計測技術であるLW-PLS,相関関係に基づいてグループ毎に取捨選択を行う入力変数選択手法であるNCSC-VS)と,ベイズ推定によるモデリングについて研究している彼女の手法とを組み合わせた検討結果について報告してもらい,課題や方針について実のある議論をした.まだ十分な結果は得られていないが,方向性は間違っておらず,目的も課題も明確なので,カナダに帰国後,成果を出してくれると期待している.

その研究打合せを終えると,彼女が「最後に1つだけ質問をしたい」と言ってきた.一体どんな質問かと思ったら,今後アカデミックの世界で研究者としてやっていきたいが,データ解析やプロセス制御の分野(彼女の所属研究室が対象としているような分野)で,どのような研究に将来性があると思っているか,とのことだった.

身も蓋もない回答は,「そんなことが分かっていれば私がやってます!」だろう.

質問に答える前に,彼女に2つ質問をしてみた.1つは「自分の研究は基礎研究と応用研究のどちらだと思うか?」で,もう1つは「今後どちらをやっていきたいと思うか?」だ.彼女の答えはいずれも応用研究だった.彼女は,自分は科学者ではなく工学者であって,これからも産業応用に取り組んでいきたいという.まあ,だからこそ,私を訪問先の候補にあげたということだろう.

応用研究をしたいという彼女に,当研究室(京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻ヒューマンシステム論分野)の学生には年初に紹介する事柄ではあるが,基礎研究と応用研究が対極にあるのではなく,基礎に対しては非基礎が,応用に対しては非応用があるという話をした.その上で,私の恩師のことを含めて,私が応用研究に取り組むようになった経緯を話した.ここでは,基礎と応用のことを書くつもりはないので,詳細は「最終講義での学生へのメッセージ」などを参考にしてもらいたい.

その基礎と非基礎,応用と非応用の話を踏まえた上で,応用研究に徹している(基礎研究をしないというのではなく,非応用研究はしていない)私から,これから応用研究に取り組んでいきたいという彼女に,自分が重要だと思っていることを3つ話した.

第一に,現場に行って本当の問題に触れること.事件が現場で起こるのと同じく,解くべき課題は現場にある.論文を読んで論文に書かれてある問題を自分なりに解釈して解くという取り組み方もあるが,応用研究の場合には,的外れな研究になる恐れがある.適確にニーズを把握するためには,やはり現場を見て,現場の声を聞く必要がある.

第二に,視野を広げて様々な産業に触れること.データ解析や制御といった技術は,ある産業でしか使えないとかいう類のものではなく,ありとあらゆるところで活用できる技術だ.また,ある産業では普通に活用されている手法が,別の産業では全くその存在さえ知られていないということもある.大学にいるという立場を活かして,様々な産業の事情に通じておくことは,課題を知るためにも,解決策を考えるためにも,大いに役立つ.

第三に,自分の分野を確立すること.○○のことなら△△さんに聞くのが一番だよねと認めてもらえれば,これほど有り難いことはない.情報は集まるし,研究も進む.

このようなことを述べた上で,彼女の元々の質問(どのような研究に将来性があるか)に対しては,こう答えた.

これまでプロセスシステム工学の研究者はモノを効率的に製造する方法を主な研究対象にしてきた.その産業界への貢献は偉大であったわけだが,少なくとも先進国ではモノが溢れかえっている今,社会に貢献したいのであれば,人類の幸福に繋がるような研究をしたいのであれば,今までのようにモノだけではなく,もっと人間に注目する必要があるのではないかと.(我々の研究室はヒューマンシステム論分野という名前ですから)

研究をするのであれば,時々,次のように自問するといいのではないだろうか.今取り組んでいるこの研究は,今からゼロから始める研究だとしても,やるべきか?と.そうすれば,惰性でくだらない研究をすることはなくなるかもしれない.