3月 072013
 

カナダから来てくれている博士課程学生が来週帰国する.当研究室での滞在は約2ヶ月間で,今年秋には博士号を取得できる見込みだそうだ.彼女を引き受けるに際して,彼女の指導教員が「うちで一番優秀な学生だからよろしく」とメールをくれただけあって,とても意欲的で熱心な学生だった.

彼女との最後の研究打合せでは,当研究グループで開発した2つの手法(Just-In-Time型仮想計測技術であるLW-PLS,相関関係に基づいてグループ毎に取捨選択を行う入力変数選択手法であるNCSC-VS)と,ベイズ推定によるモデリングについて研究している彼女の手法とを組み合わせた検討結果について報告してもらい,課題や方針について実のある議論をした.まだ十分な結果は得られていないが,方向性は間違っておらず,目的も課題も明確なので,カナダに帰国後,成果を出してくれると期待している.

その研究打合せを終えると,彼女が「最後に1つだけ質問をしたい」と言ってきた.一体どんな質問かと思ったら,今後アカデミックの世界で研究者としてやっていきたいが,データ解析やプロセス制御の分野(彼女の所属研究室が対象としているような分野)で,どのような研究に将来性があると思っているか,とのことだった.

身も蓋もない回答は,「そんなことが分かっていれば私がやってます!」だろう.

質問に答える前に,彼女に2つ質問をしてみた.1つは「自分の研究は基礎研究と応用研究のどちらだと思うか?」で,もう1つは「今後どちらをやっていきたいと思うか?」だ.彼女の答えはいずれも応用研究だった.彼女は,自分は科学者ではなく工学者であって,これからも産業応用に取り組んでいきたいという.まあ,だからこそ,私を訪問先の候補にあげたということだろう.

応用研究をしたいという彼女に,当研究室(京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻ヒューマンシステム論分野)の学生には年初に紹介する事柄ではあるが,基礎研究と応用研究が対極にあるのではなく,基礎に対しては非基礎が,応用に対しては非応用があるという話をした.その上で,私の恩師のことを含めて,私が応用研究に取り組むようになった経緯を話した.ここでは,基礎と応用のことを書くつもりはないので,詳細は「最終講義での学生へのメッセージ」などを参考にしてもらいたい.

その基礎と非基礎,応用と非応用の話を踏まえた上で,応用研究に徹している(基礎研究をしないというのではなく,非応用研究はしていない)私から,これから応用研究に取り組んでいきたいという彼女に,自分が重要だと思っていることを3つ話した.

第一に,現場に行って本当の問題に触れること.事件が現場で起こるのと同じく,解くべき課題は現場にある.論文を読んで論文に書かれてある問題を自分なりに解釈して解くという取り組み方もあるが,応用研究の場合には,的外れな研究になる恐れがある.適確にニーズを把握するためには,やはり現場を見て,現場の声を聞く必要がある.

第二に,視野を広げて様々な産業に触れること.データ解析や制御といった技術は,ある産業でしか使えないとかいう類のものではなく,ありとあらゆるところで活用できる技術だ.また,ある産業では普通に活用されている手法が,別の産業では全くその存在さえ知られていないということもある.大学にいるという立場を活かして,様々な産業の事情に通じておくことは,課題を知るためにも,解決策を考えるためにも,大いに役立つ.

第三に,自分の分野を確立すること.○○のことなら△△さんに聞くのが一番だよねと認めてもらえれば,これほど有り難いことはない.情報は集まるし,研究も進む.

このようなことを述べた上で,彼女の元々の質問(どのような研究に将来性があるか)に対しては,こう答えた.

これまでプロセスシステム工学の研究者はモノを効率的に製造する方法を主な研究対象にしてきた.その産業界への貢献は偉大であったわけだが,少なくとも先進国ではモノが溢れかえっている今,社会に貢献したいのであれば,人類の幸福に繋がるような研究をしたいのであれば,今までのようにモノだけではなく,もっと人間に注目する必要があるのではないかと.(我々の研究室はヒューマンシステム論分野という名前ですから)

研究をするのであれば,時々,次のように自問するといいのではないだろうか.今取り組んでいるこの研究は,今からゼロから始める研究だとしても,やるべきか?と.そうすれば,惰性でくだらない研究をすることはなくなるかもしれない.

 Leave a Reply

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>