7月 292013
 

どうせ死ぬなら「がん」がいい
近藤誠,中村仁一,宝島社,2012

一般には絶対なりたくない病気の代表格が「がん」だろうが,本書で対談している2人の医師は,どうせ死ぬなら「がん」がいいと言い切っている.なぜか.

そもそも,がんは新しい病気ではなく,昔から多くの人ががんで死んでいたはずだ.ただ,がんを見付ける術などなかった昔には,今なら「がん患者」とされる人達の多くは,徐々に食べなくなり,体力も衰え,衰弱して亡くなっていたのだろう.老衰として.

ところが現代では,人間ドックやがん検診で血眼になってがんを探し,見付けるやいなや,外科手術や抗がん剤を駆使して,がんをやっつけようとしている.その結果はどうだろうか.有名人ががんを告白するといったニュースはよく見聞きするが,結局,壮絶な死を避けられずにいる事例ばかりではないだろうか.しかも,あまり長生きしたという話は聞かない.本当にその医療行為は必要だったのだろうか.本当にその医療行為は人を助けたのだろうか.このような疑問に真っ正面から「NO!」と答えているのが,本書の二人,近藤医師と中村医師だ.日本人がよくかかる固形がん(胃がん,肺がん,肝臓がん,大腸がん,乳がんのような,かたまりを作るがん)には抗がん剤は効かないし,外科手術とともに,患者を痛めつけて,患者のQoL(生活の質)を酷く低下させているだけだと手厳しい.

最後に,二人の共通認識が次のようにまとめられている.

2人は,異なった道を歩んできたものの,同じ結論に達しています.がんで自然に死ぬのは苦しくなくて,むしろラク.がん死が痛い,苦しいと思われているのは,実は治療を受けたためである,という結論です.そして,検診等でがんを無理やり見つけださなければ,逆に長生きできるとも.

この結論を受け入れるかどうかは,各自が本書や類書を読んで判断すればいいだろう.自分で調べたり考えたりしない人が騙されるのは世の常だから.

近藤医師は,慶應義塾大学医学部を卒業して,同大学医学部放射線科に入局した後,講師として,乳がんの乳房温存療法を推進している.その経緯についてこう述べられている.

近藤:ぼくは1988年に乳がんの乳房温存療法のことを書いたとき,慶應で孤立することと,ずっと講師でいることはシミュレーションしていました.教員だからやめさせられないし,患者が来ている限り,外来を取り上げるわけにはいかないだろうと.そしたら一時,日本の乳がん患者の1%が,ぼくのところに来たんです.乳房が切り取られるところを残せるとなったから,みんなこっちに来た.

(中略)

ぼくが慶應にい続けたのは,いちばん話に信ぴょう性がつくと思ったからです.それから「大学病院の外来なのに,患者を治療しない」という,ある意味,奇跡的なことができたのは慶應義塾のどこかに「自由」や「独立自尊」の精神が残っているから.そこは感謝しています.

素直に,たいした方だと思う.なかなかできることではないから.

本書では,がん以外のことについても色々と言及されているのだが,まず,がんについていくつか引用しておこう.

近藤:たとえば乳がんは,リンパ節を取っても生存率があがらないことが,1985年までに証明されている.なのに日本ではいまも一生懸命リンパ節まで切り取っています.米国では早期前立腺がんの患者367人を,いっさい治療しないで15年観察した結果「なにもしないで様子を見る」,つまり放置療法が最良という結論が出ています.スウェーデンで同様に10年観察した結論も,全く同じでした.日本ではあい変わらず,前立腺がんの多くは見つけ次第切り取られています.また日本人のがんの9割を占める「固形がん」は抗がん剤で治ることはないし,延命効果さえ「ある」ときちんと証明されたデータが見あたりません.

(中略)

固形がんというのは,胃がん,肺がん,肝臓がん,大腸がん,乳がんのような,かたまりを作るがんです.つまり日本人がよくかかるがんには,抗がん剤は効かない.抗がん剤で治るがんは全体の1割にすぎません.急性白血病や悪性リンパ腫のような血液がん,子どものがん,睾丸の腫瘍.それから子宮の絨毛がん.(中略)その1割の中でも,たとえば急性白血病は,若い人は抗がん剤で治りやすいんですが,年齢とともに難しくなって60歳を過ぎるとまず治らない.高齢になったら,抗がん剤を使っても意味がないということです.また手術や放射線で治らない再発・進行がんにも,抗がん剤は効きません.抗がん剤で治るがんは,本当に少ないんです.

中村:これまで,70歳前後の有名人が何人も,よせばいいのに,人間ドックを受けたためにがんが見つかり,目いっぱいの血みどろの闘いを挑んだ末に,玉砕して果ててますよね.

(中略)

がんをわざわざ見つけて,手術や抗がん剤治療を受けて玉砕した方たちは,自覚症状は全くなかったでしょうからね.人間ドックなど受けさえしなければ,まだまだ一線で活躍できていたでしょうに.残念のひとことに尽きます.

近藤:今の医学で「早期がん」として発見できるのは,直径1センチ前後から.実はこれ,がんの一生の中では細胞がおよそ30回も分裂をくり返したあとの「晩期」の段階なんです.

(中略)

最近,分子生物学分野の研究が進んで「がん細胞には,できるとすぐに転移する能力がある」ということが明らかになっています.「がんは大きくなってから転移する」という説は間違いだということが,いよいよはっきりしてきた.つまり本物のがんは,早い段階で多数の臓器に転移している.だから,検診で見つかってから標準治療(外科手術,放射線,抗がん剤)をしても治りません.あちこちに転移したがんを治した,という正式な報告は実は一例もない.

普通に読めばわかるはずだが,本書では,「抗がん剤は全く効かない」とか「検診に意味がない」などとは述べられていない.何でも白黒付けるというか,01でしか理解しようとしない人達はもうどうしようもない感じがするが,一口にがんと言っても様々で,早期検出と治療が有効な場合も当然あるだろう.本書が問うているのは,高齢になって体力も落ちてきているのに,外科手術や抗がん剤を武器にがんと死闘を繰り広げたいですか,実際,多くの人達が壮絶な死を迎えていますよね,闘争を選ばないことで安らかな老後を過ごせる可能性もあるのではないですか,ということだ.

選択はもちろん患者に委ねられている.と言いたいところだが,実際には,家族など患者本人以外が口を出すというのも本書の指摘だ.がんはやっつけるものという信念が罷り通っている現代社会では,検診でみつかったがんを放置するのは許してもらえないことが多いだろう.がんに限らず,いわゆる延命治療にも家族の意向が尊重される.私は,身動きも意思疎通も出来ないのに,延命治療でチューブだらけの姿でベッドに縛り付けられるのとかは勘弁して欲しいので,家族には延命治療は不要だと言っている.そうすれば,図らずも,医療費削減にも貢献できるだろう.本書では特に「胃ろう」が取り上げられ,その是非が問われている.胃ろうとは,食物や飲料や医薬品などの経口摂取が困難な患者に対して,腹壁を切開して胃内に管を通し,それらを外部から流入させるための処置である.

中村:胃ろうを造って長くたつと,寝たきりで体を動かすことも,意識の疎通もできず,これが人間かと思うような悲惨な姿に変わりはてます.死んだあと,手足の骨をポキポキ折らないと棺桶に入らないほどひどい.そんなになるまで無理やり生かすことに,どれほどの意味があるんでしょうか.胃ろうを造ること自体,本人じゃなくて家族の意向,家族のエゴですからね.

(中略)

胃ろうを止めるとすぐ「殺人」と騒がれます.アメリカでは裁判所が中止を決めてくれますが,日本ではいまのところ中止を要請してもダメです.「死にゆく自然の経過は邪魔しない」「死にゆく人間に無用な苦痛を与えてはならない」.これは守るべき鉄則だと思いますよ.

中村:体からはいろんなサインが出てるはずなんです.それに素直に従っていたら,自然だし無理がないし,間違いないはずだと思いますけどね.もともと「死」は自然で安らかなものだったのに,医療が濃厚に関与したから,死が不自然で悲惨で非人間的なものに変わってしまったんですよ.

まあ,正解・不正解があるわけではなく,それぞれがどのような死に方を選択するかという話なので,家族でよく話し合っておくことが大切なのだろう.当然,勉強もする必要があるだろうし,きちんと考えることも必要だろう.例えば,ある治療法が「効く」というとき,それは果たしてどういう意味なのか.

中村:抗がん剤にしてもワクチンにしても,患者は肝心な「どう効くのか」ってところを考えませんしね.前に抗がん剤の話であったように,医者が「効く」「効果がある」って言うと患者は「治る」って思いこんじゃう.医者の方は延命効果さえも言ってなくて,ただ「縮小する」とか「腫瘍マーカーの値が減る」って言ってるだけなのにね.

この種の医師と患者の相互不理解というのは至る処で見られそうである.そもそも,産業としての医療と患者の利益とは相反するものなのかもしれない.

中村:ぼくは,医療,教育,宗教は恫喝産業だと思っています.恫喝の仕方はいろいろありますよ.「命がどうのこうの」「将来がどうのこうの」って言われたら,みんな不安になりますから.

一大学教員である私は,恫喝産業の一員として,自分の為すべきことを考えたい.

あ,検診は受けますよ.そればかりでなく,検診結果をもっと適切に解釈するための研究も進めたいと思っています.

目次

  • 第1章 がんの誤解を解く
  • 第2章 医療に殺される
  • 第3章 日本人と死

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