11月 292013
 

担当している大学院生向けの講義前半が最終回を迎えるにあたり,それまでの技術経営(MOT)の話も踏まえて,「なぜ組織の改善活動は失敗するのか?」というテーマで話をした.紹介したのは,MIT教授の研究成果で,失敗する組織は”Capability Trap”に陥っているというものだ.無理矢理日本語にすると,「能力の罠」となるだろう.

製品に欠陥があって顧客からクレームが来たとか,事故が起こったとか,何でも構わないが,何か問題が発生したとき,あなたが所属している組織はどのように対応しているだろうか.もちろん,その問題を解決する必要がある.そのために,上司は部下に「何とかしろ!」と叫ぶだろう.部下は必死になって問題を解決する.その結果,上司は胸を撫で下ろし,自分の指導力に満足する.

しかし,これこそが問題だというのがMIT教授らの指摘だ.確かに,問題は解決された.しかし,目の前の問題を解決するために全力を傾けてばかりいると,人・金・時間といった資源は有限であるため,長期的に組織能力を改善する余裕がなくなる. つまり.短期的な成果はあがっても,長期的に組織が凋落してしまうというわけだ.主に米国の企業が対象だが,多くの企業が失敗した事例を丹念に調査して,その共通点として,このような現象があることが判明した.そして,これを「能力の罠」と名付けた.

要するに,”Capability Trap”あるいは「能力の罠」というのは,みずからを追い込んだり,あるいはマネジャーに強制されたりすることで,担当者がより賢く働く(work smarter)よりも,より一生懸命に働く(work harder)ようになってしまう状態である.あるいは,仕事をする方法を改善するためにではなく,従来のままの方法でより一生懸命に働くような方向に経営資源が継続的に振り向けられることで発生する問題である.

では,この”Capability Trap”あるいは「能力の罠」を回避して,組織能力を高めるためにはどうすればよいのか.第一に,改善活動で成果をあげるためには時間がかかること,しかも改善効果は逆応答を示すことを認識する.第二に,現場に懸命に働くことを求めるのではなく,賢明に働くことを求める.第三に,そのための時間と自由を与える.これが解決策だと述べられている.

この”Capability Trap”あるいは「能力の罠」は身近なところにも沢山事例がありそうだ.昨今の国立大学改革も他人事ではない.研究室運営においても,当然,この問題に陥ることは避けなければならない.目先の研究成果のみにとらわれて,「懸命に研究しろ!」と怒鳴るばかりで,学生に時間と自由を与えないのはまずいだろう.懸命なだけでなく,賢明に研究しなければならない.

学生が就く職業は様々だが,何らかの組織に所属するだろうし,その組織を指揮する立場にもなるだろう.そのとき,私が述べたことが少しでも役立てばと思い,講義を担当した.飛躍を期待しています.

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