12月 012013
 

学校における道徳教育が機能不全に陥っているため,道徳教育を強化しようという動きもあるようだ.東日本大震災のときなど,辛抱強い日本人の姿は海外の人々に衝撃を与えたし,今でも日本は諸外国に比べて犯罪の少ない安全な国で,国民は正義正しいという印象を与えている.しかし,周囲を不愉快にさせる人が増えていると感じている人も少なくないのだろう.だから,道徳教育の再興などということが言われるのだろう.

転機は敗戦にある.日本の道徳教育は明治時代から敗戦まで「修身」だった.尋常小学修身書という教科書があり,明治14年に小学校教則綱領が出されてからは,修身が最重要教科に位置付けられた.

明治時代には,欧米列強による日本の植民地化が危惧される中,日本国の総力を挙げて国の近代化・西洋化が進められていたわけで,小学校でも欧米から輸入した知識を教えることに重点が置かれ,むしろ修身はなおざりだったらしい.明治23年に明治天皇が「教育に関する勅語」(教育勅語)を下賜されたのも,そのような「西洋かぶれ」状態を憂え,日本の伝統を踏まえて立派な人物を育てなければならないという想いによるものだろう.こうして,長らく「教育勅語」と「修身」が日本における教育の核となる.

明治天皇は実に立派な方だったようで,陸軍大将で学習院長も務めた乃木希典は,明治天皇崩御に際して,「神あがりあがりましぬる大君のみあとはるかにをろがみまつる」と「うつし世を神去りましし大君のみあとしたひて我はゆくなり」という辞世を残して,殉死している.このとき,乃木希典の妻も自害し,世間に衝撃を与えた.

ともかく,日本の道徳教育は敗戦によって転機を迎えた.日本の復活を阻止したい連合軍は,昭和20年に「修身」の授業停止を命じる.同時に日本史の授業も停止を命じられた.戦後,幸運にも日本は驚くべき速さで復興し,高度経済成長期に突入したわけだが,バブルに浮かれてバブルがはじけた後,長らく低迷状態が続いている.衣食足りて礼節を知る,というが,経済が悪くなると,礼節を忘れてしまうのだろうか.

そして今,企業はアメリカ流経営を手本とせよ,大学には欧米大学の真似をさせろという流れの中で,改めて道徳教育の強化を求める声が強くなっている.歴史は繰り返すとはよく言ったものだ.それに呼応するように,戦前の教育勅語や修身はけしからんという,戦後一貫して一部の人達が唱えてきた批判も強まっている.

しかし,教育勅語や修身は悪いものなのだろうか.というか,きちんと読んだことのある人がどれくらいいるのだろうか.

そもそも「修身」とは,四書五経の一つである「大学」に出てくる,修身・斉家・治国・平天下,つまり,天下を治めるにもまずは自分自身の身を修めるところからという戒めから来ている(はず).「大学」は儒学の入門書であるため,「論語」と共に読んでおくといいだろう.

「大学」には,「天子より以て庶人に至るまで,壱に是皆身を脩むるを以て本と為す」と書かれてあり,近江聖人として名高い中江藤樹はこれに感涙したと伝えられている.それほどに,「修身」は日本人にとって大きなものだった.中江藤樹なんて知らんとかいう人もいるだろうが,それは自慢するようなことではないし,それこそ戦後教育の成果だとも言える.戦前に比べて,日本の歴史や偉人に対する日本人の態度が実にいい加減になっているのだろう.

ここで述べたようなことについて考えるためには,まず,戦前の修身教科書を読んでおく必要がある.読まずに賛成も反対もありえない.というわけで,渡部昇一氏が監修した「国民の修身」および「国民の修身 高学年用」を読んでみた.現代語訳があり,もともと小学生用の道徳の本であるから,すぐに読める.

国民の修身
渡部昇一(監修),産経新聞出版,2013

戦前の修身教科書を再現し,現代語訳を付けたもの.低学年(一年生から三年生まで)用の教科書であるため,絵が多く,文字も人名以外はカタカナがほとんど.平仮名と漢字に慣れている現代人には原文は読みにくい.内容については,下記の目次を見ればおおよそ見当がつくだろう.二宮金次郎や中江藤樹といった偉人・聖人を紹介しつつ,人として当たり前のことを述べている.

人によっては違和感を抱く箇所があるかもしれないが,まずは読んでみないと始まらない.

目次

  • 一年生(最初に学ぶ大事なこと/祖国を大切にしよう/正直に生きよう/思いやりをもとう/よい子どもになろう)
  • 二年生(家族を大切にしよう/礼儀を守ろう/強くなろう/けじめをつけよう/ありがたいお言葉/軍神・廣瀬武夫/人を敬おう/我慢強くなろう)
  • 三年生(皇后陛下のやさしさ/谷村計介と二宮金次郎/真心を尽くそう/決まりを守ろう/落ち着いて行動しよう/歴史を知ろう/謙虚になろう/健康を大切にしよう/中江藤樹と毛利元就/助け合おう)
  • 教育勅語

国民の修身 高学年用
渡部昇一(監修),産経新聞出版,2013

読み応えがあるのは,同じく修身教科書でも高学年用のこちらだ.昭和20年に連合軍が「修身」の授業停止を命じて以来,学校では教えられることがないばかりか,修身の復活に断固反対という日本人もいる.果たして,それほどに修身は悪いものなのだろうか.本書「国民の修身」を監修した渡部昇一氏は,そうではない,修身は今でも大切であるという立場だ.

戦前教育を否定する人達は,その教育がために日本は戦争に突き進んだと考えているふしがある.そこで,高学年用の修身教科書から,日本と外国との関係について触れたところを抜粋してみる.

国旗(四年生)

国旗はその国の印でございますから,我ら日本人は日の丸の旗を大切にしなければなりません.また礼儀を知る国民としては外国の国旗も相当に敬わなければなりません.

博愛(五年生)

知っている人も知らない人も博く愛するのが人間の道であります.いろいろ災難にあって困っている者を救うのはもちろん,たとえ敵でも,負傷したり,病気になったりして苦しんでいる者を助けるのは,博愛の道です.明治三十七,八年戦役に上村艦隊が敵の軍艦リューリクを打ち沈めた時,敵のおぼれ死のうとする者を六百余人も救い上げたのは,名高い美談であります.

国交(六年生)

隣り近所どうし互いに親しくして助け合うことが,共同の幸福を増す上に必要なことは,いうまでもありません.それと同様に,国と国とが親しく交わり互いに助け合っていくことは,世界の平和,人類の幸福をはかるのに必要なことです.今日各国互いに条約を結び,大使・公使を派遣して交際につとめているのも,主としてこれがためであります.

明治天皇は,諸外国との和親について非常に大御心をお用いになりました.明治四十一年に天皇の下し賜った詔書の中にも,ますます国交を修めて列国と共に文明の幸福を楽しもうと仰せられてあります.

(中略)

我らも国交の大切なことを忘れず,つとめて外国の事情を知り,外国人と交際するに当たっては,常に彼我の和親を増すように心掛けましょう.

国運の発展(六年生)

明治の初めにあたって,明治天皇は,世界の文明を取り入れて我が国の発達をはかり公論によって政治を行うという大方針をお立てになりました.それからわずか六十年余りの間に我が国運は非常な進歩発展をとげました.

(中略)

我が国は,徳川幕府が久しい間外国と交通することを禁じていたので,明治以前には余程世界の大勢に後れていました.それがため,外国と交際を開いた時には,大そう不利益な条約を結び,その後長らく苦しみました.

しかし国民はよくこれに耐え,力を合わせて国の繁栄をはかった結果,ついに外国も我が実力を認めたので,我が国は条約を改正することが出来て,外国と対等に交際することになりました.

(中略)

しかし現在でも,英・米・独・仏等の諸国に比べて見ると,まだ及ばない所があります.将来我が国が更に発達してこれらの国々と肩を並べて共々に,文明の進歩をはかって行くようにするのは,我らの責任です.

ときどき,他国の国旗を燃やしている人達の映像を見掛けるが,そういう国の人達にこそ,このテキストを読ませてあげたらいいのではないか.とすら思える内容ではないか.

ともかく,日本人として,この2冊(あるいは他書)の修身教科書には一度目を通しておくといいと思う.

目次:国民の修身 高学年用

  • 我が國(我が國(五年生)/皇大神宮(六年生) ほか)
  • 公民の務(禮儀(五年生)/良心(六年生) ほか)
  • 祖先と家(孝行(四年生)/祖先と家(六年生) ほか)
  • 勤勉、勤勞(勉學(五年生)/勇氣(五年生) ほか)
  • 自立自營(自立自營(四年生)/克己(四年生) ほか)

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