4月 292014
 

理科系のための英文作法―文章をなめらかにつなぐ四つの法則
杉原厚吉,中央公論社,1994

英語論文の書き方を伝えようとする本は数多いが,本書「理科系のための英文作法」の特徴は,数理工学を専門とする著者が,安全な英語を書くための規則を論理的に解説している点にある.そのために,文章の読みやすさに影響を与える要因を,様々な「仮説」として提示しているところが面白い.「○○しなさい」に納得して従える人はそれでいいが,「△△なので○○すべきである」と言われないと納得できない私みたいな輩には本書の書き方はとても良い.まさに,理科系人間による理科系人間のための英語論文執筆指南書と言える.

加えて,副題「文章をなめらかにつなぐ四つの法則」にある通り,本書は文と文の正しい繋ぎ方に焦点を合わせている.つまり,1つの孤立した文(大文字からピリオドまで)を正しく書く方法ではなく,文と文を繋いで全体を読みやすくするためにはどうすべきかが書かれている.このため,最低限の文法の知識は既に身に付いていることが前提である.

学生や共同研究者が書いた英語論文の赤ペン先生を大量にしていると,まず気になるのが,スペルミスや初歩的な文法間違いである.このレベルのチェックはワープロソフトでもしてくれるので,本人の自覚の問題である.だから,「ふざけるな」と言って突き返す.このレベルをクリアした人達が,まさに本書の対象読者だろう.1つ1つの文は間違っていないが,文章として読みにくかったり,不自然だったりするというレベルだ.

本書が示す「四つの法則」というのは,1)話の道筋に道標を,2)中身に合った入れ物を,3)古い情報を前に,4)視点はむやみに移動しない,であり,それぞれが1つの章に対応している.

例えば,「話の道筋に道標を」では,接続詞や副詞を道標としてできるだけ利用して,話の流れを良くするための方法が示されている.英文を添削していると,やたらとhoweverを使う人や,やたらとthereforeを使う人がいることがわかる.いや,そこ,全然howeverじゃないでしょうとか,そこに因果関係ありませんよねとか,そういうことが気になる.読みやすい文章を書くためには,文章の流れにもっと気を配る必要がある.

「中身に合った入れ物を」では,文や文章が階層構造を持つことに着目して,語句と語句との繋がりや文と文との繋がりの強さを意識して,並べる順番や書き方を決める必要があると説かれている.読みにくい,わけがわからない文章を書いてしまう人は,ここで述べられているような,文や文章の構造を強く意識する必要があるだろう.

「古い情報を前に」では,文中に既出の言葉と新出の言葉が登場する場合に,既出の言葉が先に,新出の言葉が後に配置されるべきという規則が示されている.文章を自然に読み進められるためには,つまり文章をなめらかにつなぐためには,その方が良いからである.

「視点はむやみに移動しない」では,それぞれの文の視点(その文における主人公)がコロコロ変化するような文章は読みにくいと指摘されている.例えば,実験者と被験者が登場する文章を書く場合,一貫して実験者の立場で書くか,一貫して被験者の立場で書くか,いずれかにすべきということである.英文法で習う分詞構文にも主語の一致という原則がある.これは読みやすい自然な英文にするために必要な規則だが,疎かにしている日本人は多いと感じる.

本書には,「四つの法則」に対応する4つの章に加えて,「動詞が支配する文型」という章がある.この章では,不自然な英語表現を避けるために,鋭い感覚に頼るといった無理ゲーを強いるのではなく,文型を利用して機械的に実行する方法を推奨している.そのために持っておくべき辞典として「オックスフォード現代英英辞典」が紹介されている.(注:最新版は本書中で引用されている版と異なる)

英作文に使うという観点で英英辞典や英和辞典を選ぶときには,可算名詞と不可算名詞を丁寧に区別してあるものがよい.そうすれば,不定冠詞a/anを付けるべきかどうか,複数形があるかどうかがわかるので,ミスを減らすことができる.

私も英作文が苦手なので,自分が苦労してきた経験を踏まえて,英作文初心者に繰り返し言うのが,「安全確実な英文を書くように」ということだ.正しいかどうかわからない文章を書くのではなく,これなら正しいはずという文章を書く.

日本人が苦手なものに前置詞の使い方があると思うが,それも含めて,繋げられる単語の組み合わせ,繋げられない単語の組み合わせがある.この動詞の後に,この前置詞は使えるが,この前置詞は使えないとか,この名詞に,この形容詞は使えるが,この形容詞は使えないとか,そのようなルールを自然に身に付けるためには,英文を大量に読んで感覚を養う必要がある.しかし,連語(collocation)辞典を使えば,大量の例文から,使っても大丈夫な単語の組み合わせがわかる.

このような辞典を地道に活用して,美しくはないかもしれないけど,間違っておらず,確実に伝えるべきことが伝わる英文を書くことは重要だと思う.本書でも「安全第一」に英文を書くことの重要性が繰り返し強調されている.

本書「理科系のための英文作法」は,薄くて読みやすく,独特の視点から自然な文章を書くための方法を示しており,さらに言えば,英作文だけでなく日本語の作文にも活用できる方法を示している.少なくとも理科系で論文を書く必要があるなら,一度は読んでおいて損はしないだろう.

本研究室の学生には全員読んでもらおうと思うので,研究室で用意する.

目次

第1章 談話文法を利用しよう

  • 足りないのは文をつなぐ技術である
  • 談話文法との出会い
  • 初心者は安全第一
  • いくつかの約束など

第2章 話の道筋に道標を

  • 読み手は霧の中を進まなければならない
  • 道標としての接続詞と副詞
  • 道標の型
  • 道標の種類と代表例
  • 道標の使われ方

第3章 中身に合った入れ物を

  • 文は階層構造をもっている
  • 名詞列、形容詞句、形容詞節
  • 節と文
  • 仮定や約束の及ぶ範囲
  • 用語や記号の定義
  • 括弧とピリオド

第4章 動詞が支配する文型

  • 外国人の手紙から
  • 基本5文型では不十分である
  • Hornbyによる動詞の分類

第5章 古い情報を前に

  • 古い情報の引き継ぎ
  • 引き継ぎの省略
  • 英文による引継ぎ
  • 同じ語句のくり返しが最もよい
  • 新しい情報は一つずつ

第6章 視点をむやみに移動しない

  • 文には視点がある
  • 分詞構文の中の視点
  • to不定詞の意味上の主語
  • 所有格と視点
  • 一人称と視点
  • 重文と複文における視点
  • 文章の流れと視点
  • 情報の新旧と視点

おわりに

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