6月 182014
 

理科系の作文技術
木下是雄,中央公論社,1981

先日,「理科系のための英文作法―文章をなめらかにつなぐ四つの法則」(杉原厚吉,中央公論社,1994)を紹介した.本書も「理科系の」で始まるが,英作文ではなく,日本語での文章の書き方が主題となっている.

「理科系の作文技術」は非常に有名な本で,評価も高い.ただ,2001年に改版されているものの,1981年に書かれただけのことはあって,内容がいかにも古いと感じる部分もある.例えば,下書きは鉛筆で,清書はペンかボールペンで,など.それでも,文章の書き方の原則がそう簡単に変わるはずはなく,今なお通用する内容である.しっかりとした論文やレポートを書きたいという人には本書を読むことを勧めたい.

第二次世界大戦で危機的な状況にあった英国で宰相となったチャーチルが作成したメモの日本語訳が本書の冒頭に引用されている.ここでは,原文を引用しておこう.戦時内閣の宰相として膨大な書類を読まなければならないチャーチルが「報告書をもっと短くしろ!」と部下に檄を飛ばしている.このメモにはそのための具体策が書かれているが,今でも通用する内容だ.

To do our work, we all have to read a mass of papers. Nearly all of them are far too long. This wastes time, while energy has to be spent looking for the essential points.

I ask my colleagues and their staff to see to it that their reports are shorter.

The aim should be reports which set out the main points in a series of short, crisp paragraphs.

If a report relies on detailed analysis of some complicated factors, or on statistics, these should be set out in an appendix.

Let us end such phrases as these:

‘It is also of importance to bear in mind the following considerations’, or ‘Consideration should be given to the possibility of carrying into effect’. Most of these woolly phrases are mere padding, which can be left out altogether or replaced by a single word. Let us not shrink from using the short, expressive phrase, even if it is conversational.

Reports drawn up on the lines I propose may seem rough as compared with the flat surface of officialese jargon. But the saving in time will be great, while the discipline of setting out the real points concisely will prove an aid to clearer thinking.

タイトルにある通り,本書が対象としているのは「理科系の仕事の文書」ー理科系の人が仕事のために書く文章で,他人に読んでもらうことを目的とするものーだけである.理科系の仕事の文書の特徴は,読者に伝えるべき内容が事実と意見に限られていて,心情的要素を含まないことである.そう著者は主張する.

そして,理科系の仕事の文書を書くときの心得として,

  1. 主題について述べるべき事実と意見を十分に精選すること
  2. 事実と意見を峻別しながら,順序よく,明快・簡潔に記述すること

であるとしている.

もう少し詳しく,文章を書く心得をまとめると次のようになる.

  1. パラグラフを意識して文章を構成すること.とくに,いま書いているパラグラフのトピック(小主題)は何かを常に念頭に置くこと.
  2. 最初に読み下すときには理解できず,読みかえしてはじめてわかるような,逆茂木型の文を書かぬこと.内容のならべ方に自然な流れがなく,また文のつなぎ方が唐突で読者に抵抗を感じさせるような,逆茂木型の文章を書かぬこと.
  3. 飛躍のない記述をすること.読者は,論文の主題ならびにそれに関連するいろいろな研究を,著者のように知りぬいているわけではない.著者が「これは書くまでもあるまい」と思って論理の鎖の環を一つ省略すると,読者はついて行けないことが多い.
  4. 含みをもたせた,ぼかした言い方を避け,できるだけはっきりと言い切ること.「ほぼ」,「ぐらい」,「らしい」・・・などと書くのは,これらのぼかしことばが本当に必要なのかどうかを検討してからにせよ.これは内容自体の吟味につながる.
  5. 事実と意見をはっきり区別して書くこと.特に事実の記述のなかに意見を混入させるな.これに似た心得として,論文の中では,自分のした仕事と,他人の仕事の引用とがはっきり区別できるように書くことが特に重要である.
  6. できるだけ短い文で文章を構成すること.
  7. 文の途中で主語が入れかわったり,あるべきことばが抜けていたりして<破格の文>にならないように神経を使うこと.
  8. まぎれのない文を書くこと.理解できるように書くだけでなく,誤解できないように書く心掛けが大切だ.
  9. なくてもすむことばは,一つも書かないように心掛けること.
  10. できるだけ,受身(受動態)でなく,能動態の文を書くこと.

本書「理科系の作文技術」に書かれていることを頭に叩き込んで,良い文章を書けるようになりたいものだ.もちろん,学生にもそうなってもらいたい.

目次

 
1 序章
1.1 チャーチルのメモ
1.2 この書物の目標
1.3 <作文>について

 
2 準備作業(立案)
2.1 準備作業の必要
2.2 文書の役割の確認
2.3 主題の選定
2.4 目標規定文
2.5 材料あつめ

 
3 文章の組立て
3.1 記述の順序
3.2 序論
3.3 結び
3.4 本論の叙述の順序
3.5 文章の構成案のつくり方

 
4 パラグラフ
4.1 パラグラフ序説
4.2 パラグラフのみたすべき条件
4.3 トピック・センテンス
4.4 展開部
4.5 文章の構成要素としてのパラグラフ

 
5 文の構造と文章の流れ
5.1 レゲットのいうこと
5.2 文の構造—–逆茂木型の文
5.3 文章の流れ—–逆茂木型の文章

 
6 はっきり言い切る姿勢
6.1 レゲットのいうこと(続)
6.2 明言を避けたがる心理
6.3 明確な主張のすすめ
6.4 <はっきり言い切る>ための心得

 
7 事実と意見
7.1 事実と意見
7.2 事実とは何か 意見とは何か
7.3 事実の記述 意見の記述
7.4 事実と意見の書きわけ
7.5 事実のもつ説得力

 
8 わかりやすく簡潔な表現
8.1 文は短く
8.2 格の正しい文を
8.3 まぎれのない文を
8.4 簡潔
8.5 読みやすさへの配慮
8.6 文章の中の区切り記号
8.7 私の流儀の書き方

 
9 執筆メモ
9.1 日付
9.2 辞書
9.3 単位・量記号
9.4 文献引用
9.5 原稿の書き方
9.6 図と表の書き方
9.7 書直しと校正

 
10 手紙・説明書・原著論文
10.1 手紙
10.2 説明書
10.3 原著論文

 
11 学会講演の要領
11.1 「読む」のでなく「話す」
11.2 話の構成
11.3 スライドの原稿
11.4 手持ち用メモ
11.5 登場するときの心得
11.6 英語講演の原稿

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