11月 032014
 

U.S. News & World ReportからBest Global Universities Rankingsが発表された.今回発表された世界大学ランキングでは,東大が24位に入ったものの,日本の大学が軒並み順位を落としたことが注目されている.ちなみに,早稲田大学は284位,慶應大学は364位である.

1位ハーバード、東大24位 米誌が世界大学ランキング

米誌のUSニューズ・アンド・ワールド・リポートは28日、世界の大学ランキングを初めて公表した。トップは米国のハーバード大で、上位10校のうち8校は米国の大学が占めた。日本からは、東京大学がアジアの大学として最も高い24位で、京都大学が60位に入った。

(朝日新聞 2014年10月30日05時35分)

この世界大学ランキングの是非はともかく,大学の評価は一朝一夕に定まるものではない.この数年間,あるいはそれ以上の期間の活動の結果として相対評価が低下したという事実は受け止めなければならない.スーパーグローバル大学をはじめ,大学に改革を迫り続けている高等教育行政についても同様だ.

しかし,ここで,その話をしようというのではない.

日本の高等教育行政に多大な影響を与えている世界大学ランキングにおいて,お金の力で順位を上げる,それも特定の分野でトップ10に入る大学が現れたという話だ.まず,”To some a citation is worth $3 per year“(October 31, 2014)で指摘された数学分野の世界大学ランキングを見てみよう.

1103MathRanking

トップ3には,University of California-Berkeley,Stanford University,Princeton Universityとアメリカの有名大学が並ぶ.記事で指摘されているのは,第7位のKing Abdulaziz University (KAU)だ.サウジアラビアの大学だが,数学分野では全くの無名大学だという.その無名大学が世界大学ランキングでトップ10内に躍進できたのはどうしてだろうか.日本の大学もその戦略を学ばないわけにはいかないだろう.

KAUがどの程度無名かというと,ランキングでトップになったUC-Berkeleyに在籍する研究者(著者)が,KAUの研究者に会ったことも,KAUの卒業生がポジションを求めてきたこともないと述べるくらいだ.

Even more surprising is the entry at #7 that I have boldfaced: the math department at King Abdulaziz University (KAU) in Jeddah, Saudi Arabia. I’ve been in the math department at Berkeley for 15 years, and during this entire time I’ve never (to my knowledge) met a person from their math department and I don’t recall seeing a job application from any of their graduates.

トップ10に入るような大学なら,優れた研究成果を挙げており,著名な研究者もいるはずだ.一体どういうことなのだろうか.著者もその点に興味を抱いたらしく,KAUについてググっている.その結果,KAUは1967年に設立された大学だが,数学専攻のPh.D.プログラムは僅か2年の歴史しかなく,専攻長のProf. Abdullah Mathker Alotaibiは研究業績なしで2005年に学位を取得していることが判明したという.この大学がどのようにしてトップ10入りを果たせたのか?

その理由を明らかにする前に,U.S. News Best Global Universities Rankingsの評価方法を確認しておこう.このランキングでは下表の8項目が評価される.

Ranking indicator Weights used for
soft sciences
Weights used for
hard sciences
Global research reputation 12.5% 12.5%
Regional research reputation 12.5% 12.5%
Publications 17.5% 15%
Normalized citation impact 7.5% 10%
Total citations 12.5% 15%
Number of highly cited papers 17.5% 15%
Percentage of highly cited papers 10% 10%
International collaboration 10% 10%

もちろん,論文の発表数と被引用数は重要であり,日本の大学の多くが苦しんでいる国際性も評価対象になっている.これらの評価指標で高得点を取るためにKAUが採用した作戦は,被引用数が顕著に多い研究者を外部教授(非常勤教員)として雇用するというものらしい.

In fact, in “normalized citation impact” KAU’s math department is the top ranked in the world. This amazing statistic is due to the fact that KAU employs (as adjunct faculty) more than a quarter of the highly cited mathematicians at Thomson Reuters.

この記事には,KAUから著名研究者へのメールも掲載されている.「Re: Invitation to Join “International Affiliation Program” at King Abdulaziz University, Jeddah Saudi Arabia」と題されたこのメールでは,月給6000USDを支払うこと,年間3週間KAUで働くこと,ビジネスクラス航空券代金や五ツ星ホテル滞在費を含めて必要経費はすべて支払うこと,KAUのローカルな研究者と共同研究しなければならないこと,などと共に,最後に,KAUに所属していることを明示してISIジャーナルに論文を発表することが明示されている.

1103letter

この現実をどのように考えるか.KAUの手段は反則だろうか.仮に問題があるとしたら,何が問題なのだろうか.

サウジアラビアには,King Abdullah University of Science and Technology (KAUST)という別の大学がある.KAUSTは,大学運営のためにCalTechの元学長を迎え入れるなど,優れた研究者の獲得に力を入れていることで知られる.日本でも,OISTは著名な国内外の研究者を集めていることで知られる.海外にもそのような大学は多く,日本は人材獲得競争で取り残されていると言えよう.

KAUは年3週間の滞在と共同研究の実施に対して72000USD(≒800万円)を支払うと申し出ているわけだが,では,お金を支払って非常勤研究者を雇用することがいけないのだろうか.もちろん,そんなことはない.日本の大学でも,海外の大学でも,同じようなことを実施している.違いがあるとすれば,KAUが提示している条件が非常に良いということだろう.日本の大学法人が3週間の滞在に800万円どころか100万円も出せるわけがない.ノーベル賞受賞者に年数千万円の給料を支払うのがけしからんとされる国だ.

問題視されるのは,実質的にそこで研究が行われたわけではない研究機関が,研究者の所属機関としての名声を得るという点だろう.実際,その結果として世界ランキングが7位にまで急上昇したために,こうして人目に触れるようになったわけだ.

しかし,サウジアラビアの無名な大学が世界大学ランキングでトップ10に入ることができたのは事実であり,そのようなランキングに上から下までが右往左往しているのが,今の大学を取り巻く環境である.

大学は優れた研究が生まれる環境であって欲しいものだ.学生も含めて研究者同士が活発に交流し,面白いと思うことに挑戦していく場であって欲しいものだ.その多くが失敗するとしても,いや多くの失敗ができるからこそ,そのような場から優れた研究も生まれるのだと思う.研究も教育も補来,長い目で見るべきものだろう.