生命とは何か―物理的にみた生細胞
シュレーディンガー,岡小天(翻訳),鎮目恭夫(翻訳),岩波書店,2008
原著”What is life? – The Physical Aspect of the Living Cell”は1943年2月に行われた連続講演をもとにして1944年に出版された.つまり,ワトソンとクリックがDNAの二重螺旋構造を提唱した1953年よりも前の話ということになる.その時点で分子生物学的なモノの見方を提示しているのだから,やはり凄いのだろう(私は分子生物学を知らない).
自然現象を物理法則や化学法則といった形式で表現するために統計が必要であることの例証など実に明快に説明してくれている.また.エピローグ「決定論と自由意思について」に綴られた独白も実に興味深い.
それはともかく,本書を貫く問い「生命とは何か?」に対する物理学者としてのシュレーディンガーの回答を私なりに1枚のスライドにまとめてみた.
生命とは何か
本書「生命とは何か―物理的にみた生細胞」の60節には次のように書かれている.
60 生物体は環境から「秩序」をひき出すことにより維持されている
生物体が崩壊して熱力学的平衡状態(死)へ向かうのを遅らせているこの驚くべき生物体の能力を統計的理論を使ってどのように言い表わしたらよいのでしょうか? 前には次のようにいいました.「生物体は負エントロピーを食べて生きている」,すなわち,いわば負エントロピーの流れを吸い込んで,自分の身体が生きていることによってつくり出すエントロピーの増加を相殺し,生物体自身を定常的なかなり低いエントロピーの水準に保っている,と.
(中略)
事実,高等動物の場合には,それらの動物が食料としている秩序の高いものをわれわれはよく知っているわけです.すなわち,多かれ少なかれ複雑な有機化合物の形をしているきわめて秩序の整った状態の物質が高等動物の食料として役立っているのです.それは動物に利用されると,もっとずっと秩序の下落した形に変わります.
読みやすい文章ではないが面白い.
目次
第1章 この問題に対して古典物理学者はどう近づくか?
第2章 遺伝のしくみ
第3章 突然変異
第4章 量子力学によりはじめて明らかにされること
第5章 デルブリュックの模型の検討と吟味
第6章 秩序、無秩序、エントロピー
第7章 生命は物理学の法則に支配されているか?
エピローグ 決定論と自由意思について