5月 062015
 

Papers

学生や共同研究者が執筆するジャーナル論文や国際会議論文を毎日のようにチェックしている.本当に,毎日のようにだ.もちろん,論文は英語で書くわけだが,日本語ですら完成度の高い論文を書けるかどうか怪しい人が英語で論文を書くのは容易ではない.当然だ.

自分自身を振り返ってみても,ボスの手を離れて,自分でまともに論文が書けるようになるまでには,論文を10報くらいは書く経験が必要だったように思う.元々,英語力が悲惨だったという要因も大きいが...

今でこそ偉そうに「こんな原稿でいいわけないだろ!書き直してこい!」と卓袱台をひっくりかえす勢いだが,ボスに徹底的に指導していただいたおかげで,今の自分がある.その恩を返す対象は,後生しかない.だから,私が赤ペン先生に情熱を注ぐのは,今目の前にある原稿の完成度を高めるためではなく,学生や共同研究者が独力で完成度の高い論文を書けるようになるためだ.完成度を高めるのが目的であれば,私が代わりに書いてしまえばいい.

自分が共著者の論文であれば,1つの論文に対して少なくとも5回程度は赤ペン先生チェックを入れる.英語論文が仕上がっていく流れを呟いたところ,なかなか好評そうなので,まとめておけば誰かの役に立つかもしれないと思い,ここにメモしておくことにした.あくまで私はこうしているというだけで,もっと効率的に取り組んでいる人もいるだろうが...

第1段階:日本語で論文原稿を書く

まず,英語で論文を執筆する場合であっても,日本語で全体の構成を固め,そのまま日本語ジャーナルに論文投稿できる程度に仕上げる.英語が得意な人は,いきなり英語で書けばいい.しかし,英語が苦手な人がいきなり英語で書いても,無茶苦茶な文章にしかならず,それを読まされる方はたまったものではない.

なお,日本語で原稿を書く際に,次の英語化に備えて,主語と述語はできるだけ明示して,一つ一つの文は短くしておく.主語がなくても意味が通じる日本語と異なり,論文に書くような英語であれば,主語を書かないと文にならない.また,長い文章を無理に英語化しようとすると,関係代名詞を連発するなどして構造が複雑で読みにくい文になる危険性が高い.そのような事態に陥らないために,主語と述語が明確な短い文にすることを心掛けるといいだろう.

第2段階:英語化する

日本語原稿ができたら,それを英語化する.

ここで,とにかく辞典を使うようにして欲しい.

英和辞典と和英辞典で十分だと思っている人は根本的に考えが甘い.英単語の意味をきちんと把握して,文脈にぴったり合う言葉を探すために,少なくとも英英辞典は使うようにしたい.

英文を書くときには,単語と単語の相性に気を付ける必要がある.和英辞典で見付けた単語を適当に繋げたら良いというものではなく,正しい単語と単語の組み合わせを使わなければ,自然な英文にはならない.ここで役立つのがCollocation辞典だ.この辞典は,ある単語の前後で利用できる動詞,形容詞,副詞,前置詞,名詞などを豊富な例文と共に示してくれるので,この辞典に掲載されていないような表現(単語と単語の接続)は使わないというルールを守れば,無茶苦茶な英文は書けなくなる.

英語で文章をいくらか書けるようになると,毎回同じ表現しか使っていないことが気になってくる.つまり,語彙の乏しさを痛感するようになる.違う表現を使いたいと感じたときに便利なのが,Thesaurus辞典だ.Thesaurus辞典には,多くの類義語や反義語が記載されているので,表現の幅を広げるのに役立つ.

この他にも,ネットには無料のcorpusがあるので利用するといい.これくらいの武器を手にして,英語化に取り組んでもらいたい.

第3段階:意味がわかる文章にする

論文原稿を英語化できたら,意味不明なところを丹念に潰していく.そして,重要なことは漏らさずに書き,主張すべきことはしっかり主張する.

この段階で,赤ペン先生から「意味不明」とだけ書かれた原稿が学生に返され,学生が修正版原稿を再提出するという作業が何回も繰り返されたりもする.自分が意味不明な文章を書いていることを自覚できるようにならないと,自分だけで論文を書けるようにはならないので,この遣り取りは不可避だろう.

ここで,事前に作成した日本語原稿が役立つ.日本語原稿がないと,意味不明なところは本当に意味不明になり,何が言いたいのか全くわからないという状態に陥る.完成度の高い日本語原稿があれば,少なくとも何が言いたいのかはわかるので,英語を直せる.また,赤ペン先生として経験することだが,主張すべき重要な事柄であっても,英語化するのが難しいと,その重要な事柄を書かずに済まそうとする人が出てくる.これでは論文の価値が低くなってしまう.そのような事態を避けるためにも,日本語原稿が必要になる.

第4段階:原稿を推敲する

話の流れや読みやすさを意識して,論文原稿を何度でも修正する.これでもかというほど修正する.想定される読者が容易には理解できない/納得できないだろうと思われるところがあれば説明を追加し,冗長な部分は容赦なく削除する.読者には行間は読まさない.必要なことは全部書く.

誤解や混乱を避けるため,専門用語は統一し,同じ概念を表すのに違う用語は使わない.

接続詞の濫用は慎まなければならない.赤ペン先生をしていると,特にhoweverやthereforeの無駄使いが目立つ.いや,それ全くhoweverじゃないだろとか,このthereforeの前後に因果関係なんてないよねとか,そんなことばかりだ.接続詞の使いすぎは,文章の構成の悪さに起因する場合が多い.このため,文章の構成を見直し,読みやすく理解しやすい文章にすることを心掛ける.

段落も適切に使う.気分で改行するんじゃない.意味で改行する.

第5段階:細部にも気を配る

数式,図表(キャプションも含めて),参考文献も含めて,論文原稿の細部にも気を配り,その完成度を高める.徹底的に高める.

数式中の記号が間違っているとか,記号のイタリック,ローマン,ボールド,上付き,下付きなどが無茶苦茶だとか,図中の文字の大きさがバラバラだとか,図の解像度が低くて汚いとか,参考文献の情報が間違っているとか,本当に勘弁してもらいたい.ところが,こういうミスを何度でも繰り返す不注意な人が多いのも事実である.そんな1人にならないように,くれぐれも注意して,徹底的に原稿を修正しよう.

第6段階:印刷して声を出して読む

そして,最後にこれだ.原稿を提出する(教員に原稿の確認を依頼する)前に,必ず,印刷して,声を出して読む.これだけでケアレスミスは確実に減る.

主要アドバイス一覧

勉強,レポート作成/論文執筆,研究発表/プレゼンテーションについて,主に卒業や修了を目指す学生へのアドバイスの一覧