8月 242015
 

日韓歴史認識問題とは何か
木村幹,ミネルヴァ書房,2014

日韓歴史認識問題とは何か

日韓の間に横たわる歴史認識問題とは,単に,日本と韓国の間に横たわる「過去」にのみ関わる問題ではないのである.それは「過去」以上に,それぞれの「過去」と向き合いつつそれぞれの時代を生きる人々の問題であり,そこにはそれぞれの時代の状況が複雑に反映されている.歴史認識問題とは,戦争や植民地支配といった第二次世界大戦以前,つまり,「戦前」の問題である以上に,その「過去」に対峙してきた第二次世界大戦後,あるいは植民地支配終焉後の,つまりは「戦後」の問題なのである.

本書で木村氏が繰り返し強調しているのは,歴史認識問題は,過去に何が起こったかという問題ではなく,現在の人々が過去とどのように向き合うかという問題であるという点である.だからこそ,歴史問題ではなく,歴史認識問題なのだと言える.

正直なところ,日韓間の政治的問題にはあまり関心がない.しかし,両国でナショナリズムが高まる中で,ますます歴史認識問題の解決が困難になっているように見える今,基本的な事実を確認し,状況を整理しておくために,本書「日韓歴史認識問題とは何か」を読んでみることにした.

木村氏は,韓国や日本の新聞の記事数などから,歴史認識問題が1990年代以降に激化したことを示している.それまでは韓国政府も歴史認識問題を外交問題とはしてこなかった.そこには冷戦下でいかに生き残るかという韓国政府の事情があった.歴史認識問題はその名の通り,現代人による過去への意味づけの問題であるから,政治・経済を含めて,両者のその時々の状況をよく理解する必要がある.特に,事実に基づいて主張や議論を行うことは大切だ.妄想では話にならない.

本書では,歴史認識問題として,歴史教科書問題や従軍慰安婦問題が取り上げられている.これらの問題について分析するにあたり,木村氏は,紛争が起こるために必要な3つの条件に着目している.

ある事象が紛争に発展するためには,最低限,次の三つの条件が必要である.この事象とその意味付けが複数のアクターによって「発見」され,第二にこれらの複数のアクターがこの事象に対して互いに衝突する「認識」を有し,第三に,これらのアクターがその衝突により失われるであろう不利益を上回る,何らかの「重要性」をそこに見出している,ということである.

歴史教科書問題は,日本のマスメディアの誤報で勃発した.まったく情けない話だが,その誤報を起点として,紆余曲折を経て,日本の右傾化の証として批判の対象になっていく.しかし,当時の歴史教科書の記載内容は植民地支配や大陸進出に関する記載を増やす方向にあり,右傾化の証拠となるようなものではなかった.批判は妄言でしかないが,中国や韓国だけでなく,日本国内にも右傾化の証拠と理解している人が多かったと指摘されている.

慰安婦従軍慰安婦問題が大きく取り上げられる昨今であるが,日韓基本条約という制約の下で解決に向けた取り組みを日本政府は色々と行ってきた.結局うまくいかなかった原因としては,短命政権ばかりの日本政府と,日本に対して強硬姿勢でないと支持を失う韓国政府という両政府の事情が挙げられる.宮沢政権は,とりあえず反省と謝罪をするという態度であったため,結果的に「誠意がない」と批判されるはめになった.この「誠意をみせろ」という要求はあまりまともな文脈では見聞きしないが,そこには,法的賠償は求められそうにないが,国民向けによい顔をしないといけない韓国政府の事情があった.そして,各国に評価された河野談話の後,非自民の細川元首相が政権を投げ出してから日韓関係は悪化する.決定的なのは「戦後50周年の終戦記念日にあたって」という村山談話である.歴史認識問題の解決に意気込む村山元首相は,みずからの談話を出すことに執心したが,認識のズレは乗り越えがたく,結局,村山政権の歴史認識は両国間の関係を悪化させることになった.当時の政府内のゴタゴタの原因として脆弱な政権基盤が挙げられる.実力もないのに想いだけで空回りしたというところか.ともかく,結果的に,日本はアジア女性基金を含む外交カードを浪費することになる.

本書を読む中で,断片的に知っていたことが繋がって,朧気ながらも全体像を掴むことができた.その上で,「歴史認識問題とは何か」ということについても,ある程度理解が進んだ.当初の目的通り,自分の頭の中が整理できたので,本書を読んでよかったと思う.ただ,歴史認識問題の解決に向けての見通しは明るいとは言えないようだ.

目次

 

はじめに

序 章 歴史認識問題をめぐる不思議な状況

第1章 歴史認識問題を考えるための理論的枠組み
 1 歴史認識問題の歴史的展開とその原因
 2 価値基準としての歴史認識
 3 「歴史」と「歴史認識」

第2章 歴史認識問題の三要因
 1 世代交代
 2 国際関係の変化
 3 経済政策と冷戦の終焉

第3章 日韓歴史教科書問題
 1 歴史教科書問題の起源
 2 中韓両国の反応
 3 日韓両国政治の流動化の中で

第4章 転換期としての80年代
 1 終焉へ向かう冷戦
 2 日韓関係の変化
 3 『新編日本史』
 4 エリート政治の終焉

第5章 従軍慰安婦問題
 1 55年体制末期の日本政治
 2 第一次加藤談話
 3 宮沢訪韓
 4 「誠意なき謝罪」という言説
 5 日本政府の対応
 6 第二次加藤談話
 7 河野談話
 8 村山談話からアジア女性基金へ

第6章 「失われた20年」の中の歴史認識問題
 1 変化する日本社会
 2 ナショナル・ポピュリズムの時代
 3 ポスト・ポピュリズム時代の歴史認識問題
 4 悪化する日韓関係

終 章 日韓歴史認識問題をどうするか

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