9月 062015
 

統計学が最強の学問である
西内啓,ダイヤモンド社,2013

Toukeigaku

タイトルから想像できるとおり,主なターゲットは統計学を知らない人や評価していない人である.統計学をわかっている人は,既に統計学の強みを理解して活用しているだろうから,今更このような本を読む必要性を感じないだろう.

「あえて断言しよう.あらゆる学問のなかで統計学が最強の学問であると」という主張に賛成か反対かはともかく,私が本書「統計学が最強の学問である」を読んでみて,その良い点として挙げたいのは,巷に溢れる無意味なデータの収集や解釈の仕方を取り上げて,そんなことをしてもダメだと一蹴している点だ.荒っぽく言えば,誰にでもデータは集められるし,誰にでもデータを解釈することができる.しかし,正しくできるかどうかは別問題だ.そして実際,無意味なことや間違ったことをしている人は少なくない.市販ソフトウェアを利用していても,それが出力してくれる数字の意味が珍聞漢文という人もいるだろう.それで良い結果を残せなくて,データを解析しても役に立たないとか,統計なんて役に立たないとか言われても困ってしまう.というか,迷惑だ.

もちろん,数式なんて見たくもないという人を主な読者に想定しているので,統計学の教科書と違って,本書を読んだからといって統計解析ができるようになるわけではない.それでも,エビデンスに基づいて判断を下すことの重要性は伝わるだろうし,身近な場面でカイ二乗検定が有効であること,ランダム化比較実験が強力な武器であること,それが実施できない場合でも取りうる手段があることなどは理解できるだろう.数式を一切使わずに「へぇ〜,統計学ってこんなことができるのか」と読者に興味を持ってもらうのが本書の役割だと思う.

さて,本書「統計学が最強の学問である」の終章で文献の探し方が紹介されている.その中に次のような記述があった.

英語だったらいくらでも見つかるような研究が日本語の論文ではまったく見つからない,という検索結果を見て日本人研究者の怠慢や勉強不足に憤ってみるのもいいかもしれない

一般向けの本で,このように書くのはミスリーディングだろう.そもそも,日本語論文を書かない日本人研究者は多い.私自身も,共同研究者(企業の技術者など)から日本語で論文を書きたいと言われるか,日本語論文の寄稿を依頼されるかしない限り,論文を日本語で書くことはしない.もちろん研究室の学生も論文は英語で書く.というのも,日本語で書いたところで,広く読まれないし,研究業績としてもあまり評価されないからだ.それでも,エビデンスを探すための方法として,文献データベースの使い方を紹介している本書は親切だと思う.

書く立場からではなく,読む立場から考えると,学術的な論文に限らず,ニュースなどにも英語でアクセスできる方が良い.情報リテラシーとして身に付けておくべきものは色々と挙げられるが,母語も外国語も含む語学力も欠かせないだろう.

雑駁との印象を受けなくもないが,カイ二乗検定,ランダム化,一般化線形モデルなど,著者がその重要性を強調する姿勢は一貫しており,読者のレベルに応じて本書から学ぶものはあるだろう.

目次

 
はじめに
第1章 なぜ統計学が最強の学問なのか?
 01 統計リテラシーのない者がカモられる時代がやってきた
 02 統計学は最善最速の正解を出す
 03 すべての学問は統計学のもとに
 04 ITと統計学の素晴らしき結婚
第2章 サンプリングが情報コストを激減させる
 05 統計家が見たビッグデータ狂想曲
 06 部分が全体に勝る時
 07 1%の精度に数千万円をかけるべきか?
第3章 誤差と因果関係が統計学のキモである
 08 ナイチンゲール的統計の限界
 09 世間にあふれる因果関係を考えない統計解析
 10 「60億円儲かる裏ワザ」のレポート
 11 p値5%以下を目指せ!
 12 そもそも、どんなデータを解析すべきか?
 13 「因果関係の向き」という大問題
第4章 「ランダム化」という最強の武器
 14 ミルクが先か、紅茶が先か
 15 ランダム化比較実験が社会科学を可能にした
 16 「ミシンを2台買ったら1割引き」で売上は上がるのか?
 17 ランダム化の3つの限界
第5章 ランダム化ができなかったらどうするか?
 18 疫学の進歩が証明したタバコのリスク
 19 「平凡への回帰」を分析する回帰分析
 20 天才フィッシャーのもう1つの偉業
 21 統計学の理解が劇的に進む1枚の表
 22 重回帰分析とロジスティック回帰
 23 統計学者が極めた因果の推論
第6章 統計家たちの仁義なき戦い
 24 社会調査法vs疫学・生物統計学
 25 「IQ」を生み出した心理統計学
 26 マーケティングの現場で生まれたデータマイニング
 27 言葉を分析するテキストマイニング
 28 「演繹」の計量経済学と「帰納」の統計学
 29 ベイズ派と頻度論派の確率をめぐる対立
終章 巨人の肩に立つ方法
 30 「最善の答え」を探せ
 31 エビデンスを探してみよう
おわりに

 Leave a Reply

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>