9月 252015
 

オーストラリアの大学はイギリスの大学の制度を採用していて,昔は,教授(正教授:Full Professor)の数は極端に少なかったらしい.教授の下の役職として,准教授,シニアレクチャラー,レクチャラーがある.講師は日本の大学にもあるが,位置づけが随分と異なる.最近は,イギリスがそうではなくなったように,オーストラリアでも正教授のポストは増えて,随分となりやすくなったようだ.今でも正教授の数が非常に少ない国としては,シンガポールが挙げられる.あと,役職による階層が厳しい国としては,ドイツも代表的だろう.

かつてマックス・ウェーバーは「私講師や研究所助手が他日正教授や研究所幹部となるためには,ただ僥倖を待つほかはない(中略)これほど偶然によって左右される職歴はほかにないであろう」と言っている.

階層と言えば,今回訪問したのは化学工学専攻だが,私の現在の所属はシステム科学専攻なので,化学工学専攻からシステム科学専攻に移った理由を説明した.日本の大学は厳しい階層社会なので,ボスがいなくならないとプロモーションはないからねと.すると,ある研究者が「ボスを殺さないといけないわけだよ」と補足してくれた.私はそこまでは言ってないのだけれど...実は,奥さんが日本人だったりと,日本通の研究者が結構いた.

ちなみに,私の移籍話をドイツの教授にしたところ,ドイツの大学では,昇進時には必ず別の大学に移らなければならないということを教えてもらった.その教授が「馬鹿げた制度だ」と言っていたが,どのような人事制度がいいかは悩ましい.どこに行っても,良いところもあれば悪いところもあるのだろう.悪いところに我慢ができないなら別の場所に移ればいい.実力がなくて移れないなら,その程度なのだから諦めるしかない.恐ろしいのは,実力がないのにポジションを埋め続けてしまうリスクだ.

オーストラリアの大学には明確な定年がないらしい.辞め時は自分で決めるという制度の国は他にもあるが,オーストラリアでは,以前は,非常に早く大学をリタイアする教授がいたらしい.というのも,教授として働いているときと同額の年金がもらえるからだ.そのような制度が持続可能なわけはないのだが,それを自覚して,オーストラリア政府は年金制度を改革し,今はそれほど多額の年金をもらうことはできないらしい.それで,教授はしっかり働くようになったとのこと.しかも,無茶苦茶に地価や物価が高いシドニーでは,ダブルインカムの家庭が多いそうだ.

オーストラリアの大学教員の給料は大学ごとに異なるものの,その差は大きくないらしい.教授で年収1500万円くらいだと聞いた.日本だと大規模私立大学と同程度の水準だろうか.京都大学教授の平均年収が1100万円程度なので,高いようにも感じるが,オーストラリアの物価が非常に高いため,決して生活は楽ではないと現地の教授は感じているようだ.

今回訪問した教授は新しく家を買ったばかりだが,シドニー郊外の住宅地で戸建てが1億円くらいかららしい.ただし,念のために付け加えておくと,プールと裏庭付きの家だ.ウサギ小屋ではない.彼が住んでいるのはシドニーの南側だが,シティからハーバーブリッジを渡った北側には海を見下ろせる高級住宅街が広がっており,モスマンなどの高級住宅街では戸建てで2億円かららしい.住宅の話で驚いたのが容積率の低さだ.友人が購入した住宅のある地域は容積率の上限が60%.つまり,100平米の土地なら,30平米の2階建てまでしか許されない.このため,必然的に庭が広くなるし,隣家との距離もあくわけだ.

とにかく,スーパーに行っても,レストランに行っても,動物園に行っても,何をするにしても,いちいち物価が高いオーストラリアだが,結局,その原因は,人件費が高いことに尽きるらしい.職種に関係なく最低賃金は時給17AUD(約1500円).だから産業競争力がないという批判もあるようだ.実際,トヨタをはじめ,日本やアメリカの自動車会社はオーストラリアでの現地生産から撤退した.

“UNSW@シドニー”
UNSW@シドニー

UNSWでランチを一緒に食べた中に,大阪大学で博士号を取得した研究者がいて,彼は「日本の大学の運営費交付金が羨ましい」と言っていた.オーストラリアの大学には,そのような基礎的な予算はなく,すべて研究者自身が稼いでこないといけないそうだ.ただ,より正確には,彼が羨んでいるのは,「日本の大学の運営費交付金」ではなく,「日本の旧帝大クラスの運営費交付金」だと思う.

大学院生への奨学金については,特に優秀な学生には政府から年350万円くらいが支給されるらしい.他の優秀な学生も金額は下がるが政府から奨学金が支給される.このため,オーストラリアの大学では,教授が大学院生に奨学金を出さなければならないことはない.なお,奨学金を積み増してもよいし,優秀でない学生に出してもよい.その判断は教授に任されている.まあ,普通,そのようなことはしないわけだが.

アメリカだと,工学系トップクラスの大学で,大学院生に支給されるのは年250万円くらい(支給額は様々)だと思うので,オーストラリアの奨学金は手厚い.ただし,学生全員がもらえるわけではない.日本にも日本学術振興会DCという制度があるので,オーストラリアの制度は日本に近いと言えるのかもしれない.また,オーストラリアは人件費が非常に高いので,ポスドクを雇うのは大変らしい.日本の3倍くらいの経費がかかるのではないだろうか.日本の大学から出る求人票を見ていると,これでもかというほど買い叩いているので...

オーストラリアでは,公立学校の授業料は無料だ.小学校から高校までだけでなく,大学の授業料も無料になっている.ただし,無料になるのはオーストラリア人だけで,留学生は高額の授業料を請求される(少なくとも大学はそうだと聞いた).私立は有料だ.

以上.ランチを食べながら,観光しながら,バンケットで食事をしながら,このような話を聞いたが,雑談レベルなので間違っているかもしれない.それでも,世界には色々な仕組みがあるというのはわかるだろう.日本の大学・大学院だけを見ている必要はない.

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