11月 152015
 

インダストリー4.0の衝撃
ムック,洋泉社,2015

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本書は様々な記事の寄せ集めであるが,”Industrie 4.0″の生みの親として知られる,SAP元社長でドイツ工学アカデミー会長のヘンニヒ・カガーマンのインタビューが掲載されている.”Industrie 4.0″の本来の狙いを知る上で,提唱者本人の見解を知るのは効果的だ.ここだけでも読むといいだろう.

“Industrie 4.0″のキーワードに「スマート工場」というのがある.しかし,昔から日本の製造業においても工場の自動化(Factory Automation: FA)は行われてきた.カガーマン氏は,インダストリー4.0と従来の工場の自動化とは2つの点で異なると指摘している.

インダストリー4.0には,これまでの工場の自動化と異なる,新しい点が二つあります.

一つは,インダストリー4.0では部品や半製品が「考える」,つまり「スマート」になることです.これまでのFAでは 中央の司令塔が中央集権的に全体の生産プロセスを制御するものが主流でした.しかし,インダストリー4.0では,部品や半製品が無線タグを使って周囲と交信し,自分をどのように加工してほしいかを工作機械に伝えます.これによって,非集中型,分散型の制御が可能になります.(中略)

もう一つの違いは,インダストリー4.0が実現する,工場の中のすべての部品や機械がデジタル化された「コピー(双子)」を持つようになることです.つまり将来は,エンジニアリングをデジタル化された環境でおこなうことができるようになります.

また,20年程前にはCIM(Computer Integrated Manufacturing)が流行したが失敗に終わったと評価されている.CIMが目指したのもスマート工場の実現であるが,Industrie 4.0の優位性は,インターネットが普及し,IoTを利用できること,そして,中央集権型システムではなく,スマート化された装置や半製品が互いに通信する自律分散型システムであることだと指摘されている.また,Industrie 4.0は無人化を目指さないと明言している.

CIMは中央集権的な制御をめざしたものでした.インダストリー4.0は,分散型の制御システムなので,CIMとはまったく異なります.分散型のローカルな制御システムの利点は,柔軟性が高いことです.(中略)

さらに,20年前には,インターネットなど機械や部品をつなぐためのテクノロジーが発達していませんでした.また,CIMは工場の無人化を考えていたようですが,我々は違います.将来インダストリー4.0が普及しても,スマート工場に人間は必要です.我々は,人間と機械のコラボレーション(協力関係)をめざしています.

もちろん,人間と機械のコラボレーション(協力関係)は不可欠かつ重要だと思われるが,その一方で,カガーマン氏は「インダストリー4.0によって労働生産性を30〜40%改善できると考えています」と述べており,これは製造現場での人員削減を意味している.立場上,「このことは,ワーク・ライフ・バランスの改善につながるので,労働者の利益にもなります」と言わねばならないのは理解できるが,雇用に大きな影響を与えるのは間違いないだろう.

では,”Industrie 4.0″を国策として推進するドイツが目指しているものは何か.この点について,カガーマン氏は次のように述べている.

私は,インダストリー4.0に関する規格を,国際的な標準規格にしなくてはならないと考えています.もちろん,インダストリー4.0はドイツの製造業が持つ高い国際競争力を維持するためのプロジェクトですが,ドイツだけが自国だけに通用する規格をつくっても,意味がありません.我々は,ドイツの製品やアイデアを外国で売ることを重視しているからです.

ドイツの規格を国際標準規格として世界中に製品とサービスを売るという構想だが,その背景には,ドイツの製造業が,顧客データを大量に持つ米資本IT企業の下請けになってしまいかねないという危機感がある.この問題を抱えている国はドイツだけでなく,日本もだ.

ドイツと日本は,優れた製品を持っていますが,新しいビジネスモデルを開発して,世界中に普及させる力が弱いという共通点を持っています.したがって,現在のドイツ経済の強さを維持するには,新たなビジネスモデルを生み出す必要があるのです.

(中略)メーカーが製品に関するデータと顧客に関するデータの両方を持つことができれば,これに勝る状態はありません.これが「スマート・サービスの世界」の構想の要なのです.

ここで反面教師として挙げられているのが,高い技術力の結晶である日本製携帯電話だ.世界随一の多機能さを持ちながら,まったく海外では売れなかった.「日本の携帯電話はすぐれた製品でしたが,これを国際標準とすることに失敗したのです」と指摘されている.

この他,本書では,ドイツや中国や日本の先進的な企業の事例が紹介されており,また,セキュリティなども含めて様々な角度からの記事が掲載されているので,Industrie 4.0の現状を把握するのに良い本だと思う.

目次

Introduction 日本の製造業に押し寄せるインダストリー4.0の波
・新産業革命の立役者 ヘンニヒ・カガーマン独占インタビュー
「インダストリー4.0は社会的イノベーション」

序章 モノづくりを変えるIoT革命 インダストリー4.0とは?
・これだけは知っておきたいキーワードでわかるインダストリー4.0 鍋野敬一郎
スマート工場/IoT/マスカスタマイゼーション/標準化/サイバーフィジカルシステム

Part 1 ドイツ発 インダストリー4.0最新事情 熊谷 徹
・インダストリー4.0はなぜドイツで起こったのか?
・高人件費の抑制をめざすドイツ
・工業規格の統一を阻む2大業界の対立と中規模企業の憂い
・シーメンス、フォルクスワーゲン、ボッシュ、SAP…… インダストリー4.0を牽引するドイツ企業

Part 2 グローバル製造業の覇権をめぐる独・米・中の思惑
・IoT時代の製造業をめぐる独・米・中の覇権争い 熊谷 徹
・重工業の雄GEが仕掛けるインダストリアル・インターネット戦略 瀧口範子
・めざすのは日本企業の「カイゼン文化」とインダストリアル・インターネットの融合 日本GE専務執行役員・田中豊人 インタビュー
・動き出した中国版インダストリー4.0 中国IoT最新事情 足立治男

Pat 3 どうなる!? “日本版”インダストリー4.0の行方
・インダストリー4.0は日本の中小製造業で花開く 高木俊郎
・日本のモノづくりの”つながる化”先進事例 鍋野敬一郎
・日の丸製造業の”ゆるやかな連携” IVI理事長・西岡靖之 インタビュー
・日本発の標準規格となるか!? 「ORiN」世界標準の可能性 川野俊充
・日本はインダストリー4.0に消極的? ドイツから見た日の丸製造業 熊谷 徹
・日本の製造業が競争力を持ち続けるために 経済産業省インタビュー ものづくり政策審議室室長 西垣淳子

Part 4 製造現場はどう変わる? 次世代工場の未来
・熟練工の技をロボットが伝承する 第4次産業革命でAIが果たす役割 小林雅一
・センサー×ビッグデータ トリリオン・センサー時代の製造現場 大田麻衣
・インダストリー4.0によって製造現場はどう変わるのか 眞木和俊
・”つながる工場”実現のための通信規格の標準化 川野俊充
・次世代モノづくりのカギを握るソフトウェアの未来 忌部佳史

Part 5 インダストリー4.0後の世界
・”脱モノづくり”を掲げるドイツの野望 熊谷 徹
・インダストリー4.0は雇用を奪う!? 林 雅之
・工場システムがサイバー攻撃の標的に!? IoT時代の製造業のセキュリティリスク FFRI社長・鵜飼裕司 インタビュー
・工場だけでなくサプライヤーともつながる!インダストリー4.0がもたらすデータ・サプライチェーン革命 坂口孝則
・IoTで加速する製造業のサービス業化 山田篤伸
・インダストリー4.0後の主要産業の未来 坂口孝則
・リアルタイム革命がもたらす製造業の地産地消 佐々木俊尚

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