6月 302016
 

人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの
松尾豊, KADOKAWA/中経出版, 2015

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「人工知能は人間を超えるか」という問いへの回答は「多くの分野で超えるだろう」ということになる.既に,クイズで,チェスで,将棋で,碁で,コンピュータが人間を超えることが証明された.しかし,「人工知能はまだできていない」と著者は述べる.

したがって,「人工知能を使った製品」や「人工知能技術を使ったサービス」というのは実は嘘なのだ.

実際には,そのような製品やサービスで利用されているのは,「人間の知的な活動の一面をまねしている技術」であって,知能そのものとは異なる.これまでの技術の進歩により,膨大な情報を記憶し,高速に計算ができるようになったことで,人間のように知的に判断しているように見える技術が現れてきたということだ.人間のように考えているわけではない.

現状はそうであっても,「人工知能はできないわけがない」というのが著者の立場だ.できないわけはないが,できていないのが現状であり,現在の人工知能への過剰な期待は,過去に経験した人工知能研究の二度の挫折を想起させるため,人工知能の現状を正しく伝えておく必要がある.この目的を果たそうとするのが本書である.

これまでに,2度の人工知能(AI)ブームがあった.現在のAIブームは3度目である.1950年代後半からの第1次AIブームでは,推論や探索の研究が盛んに行われた.しかし,現実の問題は解けないという失望感から1970年代に人工知能研究は冬の時代を迎えた.1980年代の第2次AIブームでは,コンピュータに知識を入れるという手法が盛んに研究され,,様々な分野でエキスパートシステムがつくられた.しかし,知識の記述や管理があまりに困難であったため,1990年代半ばには再び冬の時代に突入する.私は大学院生から助手になった頃に,エキスパートシステムやニューラルネットワークの興隆と凋落を目の当たりにした.

そして今,第3次AIブームが到来している.今回のブームを起こす鍵となった技術は,機械学習やディープラーニング(深層学習)である.本書「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」では,そのタイトルからわかる通り,著者は「ディープラーニング」に技術的ブレークスルーを見出している.そのディープラーニングの肝は,本書でいう「特徴表現学習」にある.

コンピュータに何かを判断させたい場合,その判断の根拠となる特徴をデータから抽出する必要がある.従来,この特徴の抽出作業は人間が行わなければならなかった.この作業が非常に困難であることが,機械学習でも問題とされてきた.しかし,ディープラーニングによって,与えられたデータから注目すべき特徴を見付け,その特徴の程度を表す特徴量を算出するという作業を,コンピュータが自動的に行えるようになりつつある.これを本書では特徴表現学習と読んでいるが,これこそがブレークスルーであり,人工知能実現の鍵を握るとされる.

果たして,3度目の正直となるか.これからの技術開発が楽しみである.最近,無分別に人工知能と名付けて製品を売ってやろうという商魂たくましい人達も多く,うんざりさせられもするが,今後,様々な分野で人工知能関連の研究成果が大きな変化を起こしていくだろう.願わくば,その世界的な大きな流れの中で,日本の研究界や産業界が生き残れるとよいと思う.そのためにも,世論や規制が足枷にならなければいいのだが,どうなるだろうか.

目次

  • 序 章 広がる人工知能 ― 人工知能は人類を滅ぼすか
  • 第1章 人工知能とは何か ― 専門家と世間の認識のズレ
  • 第2章 「推論」と「探索」の時代 ― 第1次AIブーム
  • 第3章 「知識」を入れると賢くなる ― 第2次AIブーム
  • 第4章 「機械学習」の静かな広がり ― 第3次AIブーム(1)
  • 第5章 静寂を破る「ディープラーニング」 ― 第3次AIブーム(2)
  • 第6章 人工知能は人間を超えるか ― ディープラーニングの先にあるもの
  • 終 章 変わりゆく世界 ― 産業・社会への影響と戦略