12月 262016
 

コーチングの教科書
伊藤守,アスペクト,2010

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図書館に予約した本を取りに行ったとき,たまたま「本日返却された本」の棚にあって,「コーチング」という言葉に興味を引かれて読んでみることにしたのが本書「コーチングの教科書」だ.コーチングは様々な場面で有効だとされるが,本書は主に職場での上司と部下の関係を想定している.読んでみて,自分の立場にあてはめてみると,大学の指導教員と学生の関係にも使えるアドバイスが多いと感じた.

そもそもコーチングとは何か.本書では,「コーチングとは,コミュニケーションを交わすことを通して,相手の目標達成に必要なスキルや知識を備えさせるプロセスです」と定義されている.そのコーチングには次のような3つの原則があるらしい.

  1. インタラクティブ(双方向)であること
  2. オン・ゴーイング(現在進行形)であること
  3. テーラーメード(個別対応)であること

容易に想像できるように,コーチングに最も必要なのは聞くことであり,コーチは良い聞き手でなければならない.そのための条件として,著者は次の5つを挙げている.

  1. 話をさえぎらず,最後まで聞く
  2. 先走って結論を出さない
  3. 言語以外のメッセージを聞き分ける
  4. 相手の言葉をリフレインする
  5. 質問をする

さらに,話を聞くときに重要なこととして,著者は次の5つも挙げている.

  1. 相手が十分に話せるように待つ
  2. わかったふりをせず正直に
  3. 相手の求めていることを聞く
  4. 訂正や批判などのネガティブな反応をしない
  5. 相手の話に興味を持ち,相づちを打つ

条件と重要なことの関係が曖昧だが,ともかく,話を聞くときにはこの10項目には気を付けた方が良いようだ.実際,どこまでできているかは怪しいものの,これらのうちいくつかについては私も意識するようにしている.なお,「言語以外のメッセージを聞き分ける」というのは苦手だ.

コーチングにおいて,「聞く能力」と双璧をなすのが「効果的な質問を創る能力」であり,コーチたるものには,相手に考えさせる,あるいは気付きを促すといった目的をもって質問することが求められると著者は指摘している.質問にも3原則があり,さらに効果的な質問の3条件があるようだ.相変わらず,原則と条件の違いがよく分からないが,順番に示しておく.まず質問の3原則から.

  1. 質問は1回にひとつだけにする
  2. 質問の回数を重ねる
  3. お礼を伝える

質問は1回にひとつだけにするのは,質問した相手に考える時間を与えるために必要なことだ.学会などでも,一度に複数の質問をして,講演者に「質問は何でしたっけ?」と返されている質問者は少なくない.質問の回数を重ねるのは,相手への関心を示し,相手についての理解をより深めることに繋がる.そして,お礼を伝えることで,相手は「自分の話が受け入れられた」という感覚を得られる.具体的には「ありがとう」や「話を聞けてよかった」と言えばいい.

続いて,効果的な質問の3条件は以下の通り.

  1. 質問が機能する「場」が創れていること
  2. 質問の目的が相手と共有されていること
  3. 信頼関係が成り立っていること

ここまでは聞く能力と質問する能力についてだったが,他にも,リクエストする能力がコーチには必要とされる.特に本書では,リクエストと指示命令との違いが強調されている.

部下に毅然とリクエストする能力は優れたコーチには欠かすことができません.

リクエストは,指示命令とは異なります.リクエストの目的は,協力の要請をすることと,プロジェクトの進行に対する障害を取り除くことにあります.前者は「〜してほしい」という言葉で表され,後者は「〜してほしくない」という言葉で表されます.(中略)リクエストするときには,まずその目的を明確に認識し,指示命令にならないように気をつけることが大切です.

さらにフィードバックも重要な役割を担う.ただし,以下の点に留意してフィードバックを行う必要があると指摘されている.

  1. 相手をコントロールするために行わないこと
  2. 相手を攻撃するために行わないこと
  3. 具体的,記述的であること
  4. 必要性が感じられること
  5. 相手の人格や性格ではなく,行動について事実を述べること
  6. 自分の責任で行うこと
  7. 適切なタイミングであること
  8. 伝わっているかどうかの確認をすること

なるほどと納得することばかりではあるが,これらを実践できているかどうかとなると相当に怪しい.だからこそ,コーチングを学ぶ必要もあるのだろう.

最後に,優秀な人材を育てたいなら肝に銘じておくべきことを引用する.

意欲も能力も高い社員を育てたいと思うなら,常に学習する機会を与えること.それが一番の方法です.学習する機会を与えずに,意欲に働きかけたり,努力ばかり求めたりしても意味がないのです.(中略)私たちは相手に対して,とくに意味もなく努力やがんばりを強いてしまいがちですが,努力は強要するものではありません.具体的な成長の機会を与える.そのことで,努力する楽しさや,面白さを実感できるところへ運ぶのが,上司の仕事なのです.

もちろん,教員の仕事と読み替えることもできる.

目次

コーチングの基本(コーチングとは何か

  • コーチングは発見されたもの
  • コーチングが機能するとき
  • コーチングスキル「聞く」
  • 人はそれぞれ違う
  • アクノレッジメント
  • リクエスト“要望”する
  • フィールドバックする
  • コーチの質問
  • 質問の原則
  • 質問を創り出す能力
  • チャンクを活用する

コーチングの実践(自分のための質問

  • 質問をして、そして聞く
  • 組織のゴール、個人のゴール
  • 効果的なゴールセッティング
  • ゴールのその先を見せる
  • 上司に求められる能力
  • 部下には話さない
  • イエスを要求しない
  • 部下のデータベースを持つ
  • ヒューマン・モニュメント
  • 成長する機会を与える
  • モチベーションを維持するコミュニケーション

コーチングの応用(会議でのコミュニケーション

  • 自分への効果的な質問
  • 上司への効果的な質問
  • パラダイムシフト
  • オープン・シークレット
  • コミュニケーションスキル
  • コミュニケーションの勝ち
  • コーチングカルチャーを築く
  • 組織が老化したときは
  • 経営者にコーチ
  • コーチのためのチェックリスト