1月 082017
 

働く君に伝えたい「お金」の教養 — 人生を変える5つの特別講義
出口治明,ポプラ社,2016

img_4240

海外では学校でお金や政治について教えるのに,日本では教えないと聞くことがある.それが本当かどうかは知らないが,知っておいた方が良いのは確かだろう.本書「働く君に伝えたい「お金」の教養」は,ライフネット生命保険株式会社の創業者である出口治明氏が,将来に不安を抱いている20代の若者からの質問に答える形式で,お金を知る・使う・貯める・殖やす・稼ぐことについて説明したものとなっている.これまでに勉強したことがない若者が相手なので,基本的な内容が多い.本当に何も知りませんという程度の人でも容易に読むことができるだろう.

色々なことが書かれているが,本書を貫いている主張のひとつは,戦後の高度成長期が世界的にも歴史的にも特殊なのであり,高度成長期を基準に考えるのは間違いであるということだろう.だから,高度成長期と比べて今は悪い時代だと嘆くのはおかしいし,無意味だということになる.そして,実に厄介なのが,高度成長期に生きた団塊の世代などは間違ったことばかり言うことだ.幸運が幾重にも重なって生じた特殊現象(高度成長)を自分たちの手柄のように思っている人達に,「今の若いやつは・・・」と言われる若者は実に可哀想だ.

本題の「お金」については,まず,お金の大原則が紹介されている.その大原則とは「財産三分法」であり,給料など収入を得たら,それを次の3つに分ける.

  1. 日常で使うお金=「財布」
  2. なくなってもいいお金=「投資」
  3. 流動性の高いお金=「預金」

「財布」とは生活費のことで,説明するまでもないだろう.「投資」とは,いわゆる金融商品への投資も含むが,その他にも,狙っている人へのプレゼントなども含む.加えて,自分への投資が一番大切であると著者は繰り返し強調している.これはまったくその通りだろう.自分に投資して能力を高めれば,フローを増やすことができる.そうすれば,なけなしのストックで藻掻く必要もない.「預金」は預金だ.一年分の生活費程度が預金としてあれば十分と指摘されている.

お金と言えば,とにかく不安を煽るような話や儲け話ばかりになってしまいがちだが,出口氏は「お金を楽しく使おう」とアドバイスしている.何を楽しいと感じるかは人それぞれなので,お金の正しい使い方は人によって異なる.○○に使うべきとか,××に使うのはよくないとか,そのような他人の言説に惑わされる必要はない.お金を使ってハッピーになること.それが大事だ.もちろん,浪費はよくないわけだが,出口氏によれば,浪費とは「幸せにつながらない不要な出費」のことである.

大切なのは,世間が「いい使い方だ」と思うことではなく,自分の価値観を知り,どのように使えば自分はハッピーになれるのかを知ること.

お金の使い方に関しては,「同じお金を使って同じ経験を積むのなら,少しでも若いほうがいい」とも指摘されている.この指摘に私が物凄く納得するのは,博士(工学)を取得した後,30歳になる前にアメリカに留学させていただいたとき,「あぁー,もっと早く来たかったな−!」と痛烈に感じたからだ.経験は,感受性が高く,体力があり,束縛が少ない,若いときに積極的に積むのが良いのだろう.

最近の若者のお金の使い方については,マスメディアの「若者の○○離れ」という言葉に象徴されるように,若者がお金を使わないことが話題にされる.しかし出口氏はそのような話をバッサリと切り捨てている.

「若者の○○離れ」は,何かを売りつけたいおじさんとおばさんが,自分が若いときのように消費しない若者に向けて発した捨て台詞のようなものでしょう.

本書では,もちろん金融商品についても解説されている.お勧めは,投資信託をドルコスト平均法で購入する長期分散投資となる.至極もっともなアドバイスだろう.

本書で「なるほど!」と思ったのは,保険に関するアドバイスだ.

20代のみなさんに僕がオススメする保険は,「就業不能保険」.つまり,「働けなくなったときに生活費を保障してくれる保険」.これがいちばん大切です.

私もそうだが,生命保険というと,まず死亡保険を思い浮かべる.しかし,独身の若者が死亡保険に入る必要はない.死亡してから保険金をもらっても本人は使えない.もしものときに頼りになるのは就業不能保険であるというのが,出口氏の意見だ.その上で,専業主婦や主夫である場合,子供がいる場合には,死亡保険をかけるべきとされる.子供がいる場合には,基本養育費と教育費をカバーできるくらい,具体的には2000万〜4000万円の死亡保険がよいと書かれている.

その他,本書に書かれていたことのいくつかを紹介しておきたい.

極論ですが,親は放っておいたほうが元気で長生きします.自分の力だけで生きていこうとすればこそ,身体も脳もフル回転させて使うわけですから.これは,間違いのない事実です.

選挙に行かないのは,完全服従の証です.みなさんの税金がどう分配されようと,将来年金を払ってもらえなくても,医療費負担が10割になっても,決して文句は言いませんよ,という意思表示そのもの.

私はこの意見に賛成で,選挙には必ず行く.

(マスメディアが選挙結果の事前予想を出しているとき)もしみなさんがこの事前予想の風向きに賛成だったら,とるべき手段の選択肢は3つ.この3つのなかであれば,どれを選んでも構いません.結果は同じだからです.

  1. 選挙に行ってその人の名前を書く
  2. 白票を出す
  3. 棄権する

ただし,事前予想が自分の考えと違ったら,とるべき手段はひとつだけ.選挙に行き,違う人の名前を書く.これだけです.それ以外に,あなたの意思表示の方法はありません.それが選挙というものです.

私はこの意見には賛成しない.昨年はBrexitやトランプ大統領誕生が話題になったが,「白票を出す」「棄権する」では心許ない.「選挙に行ってその人の名前を書く」のがよい.

選挙に関連して,チャーチルの言葉が紹介されていた.イギリスの首相であったチャーチルは,選挙に出るようなのはろくでなしばかりだと指摘した上で,「選挙とは,いまの世の中の状況で,ろくでなしのなかから誰に税金を分配させたら相対的にマシになりそうか,消去法で選ぶ行為のことだ.選挙とは要するに忍耐である.だから,民主主義は最低の制度なんだ.これまで試みられてきた皇帝制や王制など,他のあらゆる政治形態を除いては」と指摘している.最後の一節は特に有名だ.

最後に,本書で少子化対策として紹介されていた「シラク3原則」を紹介しておく.

  1. 産みたいときに赤ちゃんを産んでも,そのことで女性が経済的に貧しくならないように給付を行う
  2. 幼児保育を地方自治体に義務づける(義務教育と同じ扱い)
  3. 育児休暇から戻ってきたとき,もとのランク(評価)でもとの職場が受け入れなければならない(法律で義務づけ)

フランスでは,この「シラク3原則」によって,出生率を10年程度で0.4ポイントほど上昇させたそうだ.日本も見習える点があるはずだ.

お金についてはもう知っているよという人は本書を読む必要はない.一方,勉強したことがない人は読む価値がある.

目次

 
はじめに
第1講「知る」編 ― なぜ、お金には不安ばかりがつきまとうのか?
第2講「使う」編 ― 幸福かどうかを決めるのは貯金額ではない
第3講「貯める」編 ― 不安は貯めることへの執着から生まれる
第4講「殖やす」編 ― 希望は長期投資から育まれる
第5講「稼ぐ」編 ― 働き続けるからこそ自由になれる
おわりに

  One Response to “働く君に伝えたい「お金」の教養 — 人生を変える5つの特別講義”

  1. 書評を投稿していただき,ありがとうございます.とても参考になり,興味を持ちました.
    お金の使い方,(政治的)権利の使い方はもっと周りと話したいと思っていました.
    読んでみようと思います.

Leave a Reply to Ishitobi Cancel reply

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>