3月 132017
 

IoTが拓く次世代農業-アグリカルチャー4.0の時代
三輪泰史,井熊均,木通秀樹,日刊工業新聞社,2016

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遂に公式な場でスーパー安納芋プロジェクト(仮)を披露した私は,スマート農業の動向を追いかけている.その流れで読んだのが,本書「IoTが拓く次世代農業-アグリカルチャー4.0の時代」だ.第4次産業革命とまで言われるドイツのIndustrie 4.0は有名だが,本書を手にした瞬間に沸いた疑問は,農業1.0,2.0,3.0とは何だったのかということだ.この点が気になる人は多いだろう.というわけで,まず,この点について触れておく.著者が主張する農業1.0,2.0,3.0は以下の通りだ.

アグリカルチャー1.0:灌漑農業の発達
アグリカルチャー1.5:輪栽式農業や改良穀草式農業による欧州の「農業革命」
アグリカルチャー2.0:化学肥料や農薬の使用と品種改良による「緑の革命」
アグリカルチャー3.0:農業の機械化
アグリカルチャー3.5:ICTの部分的な活用(植物工場,営農支援ICT,農機運転支援など)
アグリカルチャー4.0:真のIoT化

正直,これからの技術を4.0と呼称するために無理していると思う.まあ,それはともかく,アグリカルチャー4.0に求められる要件として,以下が挙げられている.

  1. 3Kの解消
  2. 他産業並みの所得水準
  3. リターンに見合った合理的な投資負担
  4. クリエイティビティに富む事業環境

さらに,アグリカルチャー4.0の構成要素として,以下のものが挙げられている.

  1. 農地や作物の状態をデータとして把握するモニタリングシステム
  2. 栽培データとマーケットデータを統合し,最適な生産・販売計画を導く全体管理システム
  3. 全体管理システムの計画通りに,自動,半自動で農作業を行う農業機械・設備

本書では,さらに,アグリカルチャー4.0を実現するための中核技術として,自律多機能型ロボット「DONKEY」が猛烈に推奨されている.

アグリカルチャー4.0として著者が主張している内容には同意する.ただ,それは,製造業の後追いでもある.第二次産業の取り組みを第一次産業に導入しようという話だ.しかし,農業には農業独自の様々な事情がある.そのことについて触れる必要がある.本書「IoTが拓く次世代農業-アグリカルチャー4.0の時代」に記載されている内容をまとめておこう.

日本の農業産出額(生産額)は,1984年の12兆円弱から2014年の約8兆円まで,30年で3割も減少したという現実は衝撃的だ.この間,自主流通米の価格は,玄米60kgあたり,1990年の21600円から2014年の12215円まで激減した.基幹的農業従事者の平均年齢は67.0歳,65%が65歳以上であり,離農者が増えている.また,耕作放棄地の面積も,1985年には13.5万haだったものが,2015年には42.3万haとなっている.これは富山県や福井県の総面積に匹敵するそうで,その規模に驚かされる.

農林水産省の「営農類型別経営統計(個別経営)」によると,水田作の場合,営農面積1〜2ha(全体平均1.7ha)の農家の農業経営関与者1人あたり農業所得は58千円/年にすぎない.付加価値額は183円/時であり,補助金なしではアルバイトにも遠く及ばない.営農面積20ha以上でようやく1人あたり農業所得が4181千円/年とサラリーマン並みになる.露地栽培野菜の場合,営農面積0.5〜1ha(全体平均0.98ha)の農家の1人あたり農業所得は684千円/年,付加価値額は510円/時であり,営農面積7ha以上で1人あたり農業所得が4851千円/年とサラリーマン並みになる.施設栽培野菜の場合,営農面積3000〜5000m^2(全体平均4260m^2)の農家の1人あたり農業所得は2050千円/年,付加価値額は1067円/時であり,営農面積20000m^2以上でも1人あたり農業所得が3513千円/年にすぎない.面積の拡大が収入の増加に直結していないわけだが,本書では,特に家族経営の場合,「面積が広がると,手のかかる高価格の作物を作れない」ためであると指摘している.

日本農業の根本的な課題の一つは,ビジネスとしての魅力に乏しいことである.魅力のない産業にヒト・モノ・カネは集まらない.しかし,農業就業人口が一層減少していくこれからの時代,効率的な農法を導入し,農業従事者が一人で広い農地を扱うことができれば,収益性を大幅に向上できる.さらに,日本農業の強みである「高品質」を維持すれば,高収入の農業モデルが実現する.農地余りは,これから農業ビジネスを始める企業・法人にとって,農地を借りやすくなる,という追い風にすることができる.

農業は極めて重要だと思う.研究者として,私も関わっていくつもりだ.

目次

はじめに

第1章 ビジネス化が進む農業
1.日本農業の苦境
世界トップの品質なのに低迷する日本農業/日本農業の概観/離農と耕作放棄地の増加というピンチ/転換を求められる農業政策/日本農業の何が悪いのか/日本農業を救う「皆が儲かる農業」
2.加速する企業の農業参入
家族経営から法人経営へのシフト/農業参入という新たな波/農業参入を推進する規制緩和/法人化・農業参入のメリット/農業参入の課題
3.成功した農業企業家
高まる農業企業家の存在感/多角化や先進技術導入で躍進する農業法人/大企業からの出資を受ける農業法人/農業ビジネスの成功者が政策を動かす/低空飛行が続く農業従事者の所得水準

第2章 IoT化する農業
1.農業IoTの分類
IoT時代の幕開け/農業にも到達したIoT化の波/農業IoTの定義/農業IoTを後押しする政策
2.事例紹介①生産管理や環境制御のシステム化
実用化進む農業IoT/生産管理システム(農業ICT)/海外の営農支援ICTの事例/環境制御技術/環境制御がパッケージ化された植物工場/植物工場で導入進む自動化技術
3.事例紹介②自動運転農機や農業ロボットの出現
自動運転農機/自動運転農機の普及拡大のハードル/農業ロボット/農業用ドローン

第3章 アグリカルチャー4.0の時代
1.農業の技術革新の歴史
技術革新の歴史から浮かび上がる日本農業の位置/農業技術の分類/アグリカルチャー1.0:生物学と農業土木を中心とした変革/アグリカルチャー1.5:ヨーロッパで起きた農業革命/アグリカルチャー2.0:農芸化学を中心とした変革/アグリカルチャー3.0:機械化を中心とした変革/アグリカルチャー3.5:ICTの部分的な活用
2.アグリカルチャー3.5で取り残された課題
不可欠な露地栽培のテコ入れ/農業経営の現状/日本農業の構造的課題/農機導入によるコスト増加/付加価値向上の問題点
3.真のIoT化が導く『アグリカルチャー4.0』
IoTによる農業の大革新=アグリカルチャー4.0/アグリカルチャー4.0の鍵となるIoT/北海道の大規模農家から何を学ぶか/日本農業固有の課題を根本から解決/現状の「スマート農業」政策の効果と課題

第4章 アグリカルチャー4.0を牽引するIoT
1.農業ICT化の現状
(1)「種苗調達」のICT化
(2)「土づくり/播種・育苗・定植」のICT化
(3)「育成」のICT化
(4)「収穫」のICT化
(5)「出荷」のICT化
(6)「流通(加工)」のICT化
(7)「販売」のICT化
2.現状システムの問題点
①農業知見データの蓄積と共有化の遅れ
②システムの分断
③市場ニーズと生産を連携するシステム化の遅れ
④高コストで斑模様の機械化
農業のグランドデザイン再構築/グランドデザイン作りに求められるIoTの三層構造の理解
3.農業における究極のICT化
(1)農業IoT中核機能①:「農業知見の共通データベース」
(2)農業IoT中核機能②:「計画・管理・制御で連携するアプリケーション群」
(3)農業IoT中核機能③:「生産・流通のマッチングプラットフォーム」
(4)農業IoT中核機能④:「小投資・多用途・無人化を目指す
自動化プラットフォーム」
4.アグリカルチャー4.0の中核『DONKEY』
(1)自律多機能型ロボット「DONKEY(ドンキー)」
(2)ベースモジュールの機能概要
(3)プラットフォームのシステム概念
(4)アタッチメントの構成
(5)「DONKEY」が生み出す未来の農業生産
5.アグリカルチャー4.0がもたらす農家の所得向上
アグリカルチャー4.0で年収1000万円を目指す/効果試算のモデルケース/所得向上効果のシミュレーション/DONKEYのシステム料/アグリカルチャー4.0が創る新たな農業従事者像

第5章 アグリカルチャー4.0の推進策
1.アグリカルチャー4.0の基盤アグリデータベースを構築せよ
アグリデータベースの重要性/データベース構築のハードル/データベース運営の受け皿/データベース運営者に求められる機能/農業データベースで先行するオランダ農業/データベースに参画するインセンティブ
2.自律多機能型農業ロボット『DONKEY』の開発戦略を推進せよ
自律多機能型農業ロボットの開発におけるハードル/DONKEY開発のための枠組み作り/ベースモジュールとプラットフォームの開発プロセス/アタッチメントのラインアップ充実のためのオープンイノベーション
3.アグリカルチャー4.0特区で成功事例を創出せよ
アグリカルチャー4.0特区で実用化を加速/アグリカルチャー4.0特区の面展開
4.アグリカルチャー4.0を農業のグローバル展開のパイオニアとせよ
新興国で高まる高付加価値農産物へのニーズ/日本式農業による新たなマーケットの開拓/日本式農業=農業知財ビジネス/再現性が高いアグリカルチャー4.0は日本式農業の決定打/アグリカルチャー4.0を日本版IoTの海外展開のパイオニアに/最後に~アグリカルチャー4.0が拓く次世代農業ビジネス~

  One Response to “IoTが拓く次世代農業-アグリカルチャー4.0の時代”

  1. 突然のコメント、失礼いたします。はじめまして。
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