3月 272017
 

啓発録
橋本左内(著),伴五十嗣郎(訳),講談社,1982

啓発録

さらに,「橋本左内(橋本景岳)が満14歳にして書いた「啓発録」に感服する」の続き.

本書「啓発録」には,藩校である講道館を任された橋本左内による意見書「学制に関する意見劄子」が収録されている.そこに人材育成についての記述があるのだが,これがまさに現代にも通用する内容だと思うので,引用しておく.

人材獲得のための四箇条

  1. 人材を知ること.すなわち,その人物の長所を見出し,また短所をも見抜くこと.
  2. 人材を養成すること.その人物の長所・短所を確認した上は,その長所を伸ばし短所を改めるような養成に力を注ぎ,その成長を妨害する危難から保護してやるとともに,その者の内部から生ずる反抗心やひねくれようとする心などを取り除いてやり,その者が立派に志を遂げられるよう援助してやること.
  3. 人材を完成すること.人材の養成を終わったならば,いよいよその者に学問と技能を教育し,その成果を正しい方向に開花させ,実際にその能力を試し,熟練させて,有用な人材として完成すること.
  4. 人材を挙用すること.その者が,すでに実際の用に堪えうるところまで完成したならば,長期間挙用もせず,捨て去っておくようなことはしないで,ただちに推薦して,しかるべき任務につけ,活躍させること.

例えば日本では,1990年代に大学院重点化(大学の教育研究組織の中核を学部から大学院に変更した)が行われたが,就職先を用意することなく博士課程学生の定員を急激に増やしたため,博士課程修了者の就職難が深刻な問題になった.この中途半端に終わった施策も,橋本左内が意見書で強調した「人材を挙用すること」の重要性を認識していれば,違った展開があったかもしれない.

さらに,橋本左内は講道館の教官の資質を厳しく批判している.

多勢の中には自然右に述べましたような,ぬきんでた人物がいるはずであります.しかしもし幸いにそのような人物が登場いたしましても,目下の明道館の状況では,きっと,その人材を立派に養成することはできぬと存じます.

その訳は,教官中にすぐれて機敏な眼力を有し,規模雄大な気概をもつ者がおらず,その学生のせっかくの大才能を見抜くことができないという欠点がある上に,そうした学生を指導するに当たっても,ささいな行為や取るに足らない問題ばかりを厳しく監督し,真に助長してやらねばならない大切なところに気がつかず,おろそかにしてしまう欠点もあり,更に教官自身と同種の考え方を持ち,よく随従してくる学生をかわいがり,逆に異論を唱え異なる見解を主張するような者を嫌い遠ざけるとった欠点があるからであります.この教官の見識や体質に関する三つの欠点が除去されないかぎり,とても優秀な学生を心服させ,教官の方からその者を育成していくことなど,不可能であります.

大学の一教員として,実に耳が痛い.特に,超優秀な学生が来てくれる研究室の教員として,本当に耳が痛い.

目次

 
啓発録
書簡
意見書
漢詩

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