2月 112018
 

サピエンス全史(上)(下) 文明の構造と人類の幸福
ユヴァル・ノア・ハラリ (著),‎ 柴田裕之 (訳),河出書房新社,2016

サピエンス全史

面白かった.特に上巻.

我々サピエンスが虚構の中に生きているということを改めて思い知らせてくれる.冒頭に掲げられている歴史年表を読むだけでも面白い.年表には4つの革命が記されている.7万年前の認知革命,1万2千年前の農業革命,5百年前の科学革命,そして2百年前の産業革命.これらがホモ・サピエンスやその他の生物に与えた影響が書かれてある.大型動物やホモ・サピエンス以外の人類を殲滅してきた歴史も含めて.

例えば農業革命については,こう書かれている.

人類は農業革命によって,手に入る食料の総量をたしかに増やすことはできたが,食糧の増加は,より良い食生活や,より長い余暇には結びつかなかった.むしろ,人口爆発と飽食のエリート層の誕生につながった.平均的な農耕民は,平均的な狩猟採集民よりも苦労して働いたのに,見返りに得られる食べ物は劣っていた.農業革命は,史上最大の詐欺だったのだ.

では,それは誰の責任だったのか? 王のせいでもなければ,聖職者や商人のせいでもない.犯人は,小麦,稲,ジャガイモなどの,一握りの植物種だった.ホモ・サピエンスがそれらを栽培化したのではなく,逆にホモ・サピエンスがそれらに家畜化されたのだ.

種の繁栄という観点からすれば,勝者は明らかだというわけだ.それも,現代を生きる人間が期待しているような,人類は賢くて凄いという筋書きではない.そうではなく,圧勝したのはホモ・サピエンスを労働力として使いこなした植物種だ.野生種として細々と生きていた小麦や稲やジャガイモが世界中にその勢力を広げたのだから.

そういう見方をするのか!と思った.農業革命だけでなく,科学革命や産業革命によって,サピエンスは物凄い力を得たが,結局のところ,より幸福にはなっていないという指摘がなされている.物質的に豊かになったのはその通りだが,人間の感じる幸福感は増えていないということだ.確かに,そうだろう.産業革命で人間の代わりに蒸気機関が力仕事をしてくれるようになっても,インターネット(IT)革命で通信手段が激変しても,電気自動車を運転し,スマホを持ち,牛や豚や鶏などの肉を大量消費し,途方もない量の食糧を惜しげもなく捨てるようになっても,太古の昔と比べて人間が感じている幸福度は上昇したわけではないだろう.第3次人工知能ブームが到来して久しいが,これも人間や他の動植物の幸福に繋がるわけではない.一体全体,サピエンスはその恐ろしいほど強力な力で何を目指そうとしているのか.サピエンス自身が何を目娃しているのかを知らず,強大な力を持て余しているところに恐怖を感じると著者は指摘している.

我々が虚構に生きているというのはその通りで,みんなが信じることが現実になる.宗教だろうが,貨幣だろうが,自由主義だろうが,みんなが信じるから存在していられる.そのため,想像上の秩序の存在を人々に信じ込ませるための仕組みだらけなのがこの世の中だ.それが良いか悪いかは別にして.

最後はシンギュラリティとかの話にまで進むのだが,未来のことはわからないからという理由で,荒っぽい問題提起にとどまっている印象を受けた.そういうこともあり,前半の方が面白く感じた.ともかく,ベストセラーだけのことはある.

目次

 
Prologue 「自分」という選手を育てよう
「原因」があって「結果」がある
あなたは「自分」の「オーナー」

 
歴史年表

 
第1部 認知革命
第1章 唯一生き延びた人類種
不面目な秘密/思考力の代償/調理をする動物/兄弟たちはどうなったか?
第2章 虚構が協力を可能にした
プジョー伝説/ゲノムを迂回する/歴史と生物学
第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし
原初の豊かな社会/口を利く死者の霊/平和か戦争か?/沈黙の帳
第4章 史上最も危険な種
告発のとおり有罪/オオナマケモノの最期/ノアの方舟

 
第2部 農業革命
第5章 農耕がもたらした繁栄と悲劇
贅沢の罠/聖なる介入/革命の犠牲者たち
第6章 神話による社会の拡大
未来に関する懸念/想像上の秩序/真の信奉者たち/脱出不能の監獄
第7章 書記体系の発明
「クシム」という署名/官僚制の驚異/数の言語
第8章 想像上のヒエラルキーと差別
悪循環/アメリカ大陸における清浄/男女間の格差/生物学的な性別と社会的・文化的性別/男性のどこがそれほど優れているのか?/筋力/攻撃性/家父長制の遺伝子

 
第3部 人類の統一
第9章 統一へ向かう世界
歴史は統一に向かって進み続ける/グローバルなビジョン
第10章 最強の征服者、貨幣
物々交換の限界/貝殻とタバコ/貨幣はどのように機能するのか?/金の福音/貨幣の代償
第11章 グローバル化を進める帝国のビジョン
帝国とは何か?/悪の帝国?/これはお前たちのためなのだ/「彼ら」が「私たち」になるとき/歴史の中の善人と悪人/新しいグローバル帝国
第12章 宗教という超人間的秩序
神々の台頭と人類の地位/偶像崇拝の恩恵/神は一つ/善と悪の戦い/自然の法則/人間の崇拝
第13章 歴史の必然と謎めいた選択
後知恵の誤謬/盲目のクレイオ

 
第4部 科学革命
第14章 無知の発見と近代科学の成立
無知な人/科学界の教義/知は力/進歩の理想/ギルガメシュ・プロジェクト/科学を気前良く援助する人々
第15章 科学と帝国の融合
なぜヨーロッパなのか?/征服の精神構造/空白のある地図/宇宙からの侵略/帝国が支援した近代科学
第16章 拡大するパイという資本主義のマジック
拡大するパイ/コロンブス、投資家を探す/資本の名の下に/自由市場というカルト/資本主義の地獄
第17章 産業の推進力
熱を運動に変換する/エネルギーの大洋/ベルトコンベヤー上の命/ショッピングの時代
第18章 国家と市場経済がもたらした世界平和
近代の時間/家族とコミュニティの崩壊/想像上のコミュニティ/変化し続ける近代社会/現代の平和/帝国の撤退/原子の平和
第19章 文明は人間を幸福にしたのか
幸福度を測る/化学から見た幸福/人生の意義/汝自身を知れ
第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ
マウスとヒトの合成/ネアンデルタール人の復活/バイオニック生命体/別の生命/特異点/フランケンシュタインの予言

 
あとがき――神になった動物

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